西アフリカ最大規模の経済特区整備計画が進むセネガル
食品やIT産業などの進出に期待

2018年6月1日

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)内で最大規模となる経済特区(ZES)整備がセネガルで進んでいる。工業団地の建設に加え、政府機関の移転や大学の開設なども含む大規模なものだ。この背景には、政府の開発計画「セネガル新興計画」(PSE)がある。同計画では、2035年までの新興国入りを目指して各種インフラなどを整備するとされている。2017年12月、首都ダカール郊外に開業したブレーズ・ジャーニュ国際空港も計画の一環だ。市街地に近く拡張余地のなかった旧空港に代わる空港の建設により、旅客需要や貨物需要の増大を目指す。空港周辺からダカール市街へは高速道路が整備され、その周辺には経済特区が建設されている。交通インフラが整い始めた今、一部外国企業の経済特区進出が始まった。

整備が進むジャムナジョ経済特区

経済特区は、ダカール周辺3カ所に加えて北部のサン・ルイと中部サンジャラの国内5カ所で計画されている(図1参照)。このうち最も整備が進んでいるのが、ダカール市街と空港の間に位置するジャムナジョ経済特区(ZES Diamniadio、以下ジャムナジョ)だ(図2、表参照)。ジャムナジョには、工業団地のみならず政府機関や国際機関、大学、住宅、会議場、宿泊施設も建設される。空港から約15キロ、ダカール市街からは約30キロ離れているが、それぞれ高速道路で往来できる。2019年2月にはブレーズ・ジャーニュ国際空港~ジャムナジョ経済特区~ダカール市街地を結ぶ地域高速鉄道(TER)も開通する予定だ。

図1:経済特区の位置
サン・ルイは、セネガルの北部、モーリタニアとの国境近くにあります。経済特区1カ所が開発中です。ダカールは、セネガルの西部、アフリカ大陸最西端であるベルデ半島にあります。経済特区3カ所が開発中です。サンジャラは、ダカールの南西約100キロメートルの内陸にあります。経済特区1か所が開発中です。
出所:
「Googleマップ」を基にジェトロ作成
図2:ダカール周辺の経済特区
アフリカ大陸の西端にあたるベルデ半島に、ダカールの市街地があります。その東約45キロメートルの内陸に新しい空港があります。経済特区は3つあります。市街地と空港の間にジャムナジョ経済特区があり、空港の近くにダカール総合経済特区第一サイトとダカール総合経済特区第二サイトがあります。
出所:
「Googleマップ」を基にジェトロ作成
表:経済特区に関する法律・政令
施行日 名称 内容
2017年1月6日 法律第2017-06号 経済特区の基本的事項を定める
2017年1月6日 法律第2017-07号 経済特区でのインセンティブを定める
2017年4月13日 法律第2017-535号 法律第2017-06号の細則
2017年4月13日 政令第2017-932号 ダカール総合経済特区を設立
2017年5月30日 政令第2017-1110号 ジャムナジョ経済特区を設立
出所:
公開情報を基にジェトロ作成

ジャムナジョはもともと、市街地の混雑を緩和するための新都心として整備が進められていた。そのため、政府機関や大学などの建設は工業団地に先行して進んでおり、2015年に竣工(しゅんこう)したアブドゥ・ディウフ国際会議場(CICAD)などの主要施設はすでに供用開始している。また、大統領府都市拠点開発総局(DGPU)と工業団地整備促進機構(APROSI)によると、2018年夏をめどにダカールから17の中央省庁がジャムナジョに移るという。移転対象は主に科学技術を所管する省庁で、外務省、法務省、経済財政省などは市街地に残る。学術機関では、アマドゥ・マハタール・ムボウ大学(UAM)が2018年10月に開校予定だ。初年度は学生数6,000人を見込み、最終的には3万人規模の大学を目指す。


開発中のジャムナジョ経済特区(ジェトロ撮影)

ジャムナジョ内にある工業団地の整備も、施設面・制度面ともに進んでいる。企業にとって、ジャムナジョなどの経済特区に入居する魅力は最長25年にわたる優遇措置だ。関税や所得税などが免除されるほか、通常30%の法人税率は15%に低減される。雇用規制も緩和され、有期限雇用契約の上限が2年から5年に延ばされるなど、労働法の適用除外が受けられる。

APROSIのモマ・バ理事長は、特に誘致したい産業として食品加工、建設資材製造、衣料品製造(縫製)、電機・ITを挙げる。食品加工は国の重要産業であり、建設資材は政府が進めるインフラ整備に不可欠だ。労働集約的な衣料品製造には、国民の雇用拡大を期待している。また、セネガルは理工系の人材育成に力を入れているため、電機・IT産業を誘致すれば技術者の雇用拡大や能力向上への貢献が期待される。ジャムナジョ内にはアフリカ開発銀行の支援を受けてIT企業を集中して誘致する区画(デジタル技術パーク)が整備されており、この分野に対する政府の期待は大きい。

外国企業の活動が活発

PSEでは、2014年から2018年までの第1フェーズに27の新規プロジェクトと17の制度改革が計画されている。プロジェクトの目玉は空港や高速道路といったインフラ整備で、多くの外国企業が関わっている。トルコの建設会社スマとリマックは合弁で空港を建設し、委託運営にも携わる。経済特区内ではホテルや総合競技場を建設しており、トルコのエルドアン大統領も2018年3月に視察した。中国の建設会社の中地海外集団(CGCOC)は、省庁などが入居するビルを建設している。地域高速鉄道(TER)の工事は、フランスの建設会社エファージュ、鉄道車両製造のアルストム、鉄道コンサルティング会社シストラの共同事業体が担う。

工業団地への進出企業は2018年3月上旬時点で7社と少ないが、ITや縫製関係を中心に少しずつ進出が始まっている。IT関連では、セネガルのティゴとフランスのアトスがデータセンターを整備しているほか、セネガルとコートジボワールの合弁企業シューカード・インダストリーズがICカードの製造拠点を設けた。縫製業では、中国から2社が進出を検討している。DGPUによると、ほかにもアラブ首長国連邦(UAE)、ドイツ、米国、インドなどの企業が進出を検討中だという。日本企業からの関心表明はまだないが、DGPUは「ジャムナジョはすべての国にオープンなので、ぜひ進出を検討してほしい。セネガル国内だけでなく、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)への輸出拠点としても活用できる」と述べ、日本企業の進出に期待を寄せた。

執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
岡崎 太(おかざき ふとし)
2015年、ジェトロ入構。総務部総務課(2015~2017年)、サービス産業部クリエイティブ産業課(2017年)を経て現職。