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質の高い成長に向けた三大地域発展計画の一つに指定(中国)
具体化に向かう広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区)計画(1)

2018年5月22日

広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区、以下ベイエリア)計画が本格始動する。2018年3月に開催された全国人民代表大会での李克強首相による政府活動報告では、「ベイエリア発展計画要綱」の公布・実施、関係者の協議メカニズムの確立を急ぎ、インフラの相互接続を図ることなどがうたわれた。同計画は、「一国二制度」が適用される香港、マカオを包含する初の地域発展計画となる。


広東省・香港・マカオを結ぶ「港珠澳大橋」(香港側から見たもの、ジェトロ撮影)

成長モデルの転換により新たな地域発展計画が必要に

中国では、従来からさまざまな地域発展計画が実施されてきた。主な計画としては、急速な発展を遂げた東部地域との発展の不均衡を改善するべく、2000年に始動した「西部大開発計画」、2003年に始動した「東北地域振興計画」、2006年に始動した「中部崛起計画」などが挙げられる(各計画の対象地域は注1を参照)。

その後、中国の経済発展に向けた目標が、「高成長」から「質の高い成長」へとシフトする中、地域発展計画の角度からも新たな取り組みが必要となっていた。

2017年10月の中国共産党第19回党大会における習近平総書記(国家主席)の報告では、「東部・中部・西部・東北」の調和の取れた発展を目指すことが引き続きうたわれた。そのほか、経済の新たな発展ニーズに対応すべく制定された地域発展計画である「京津冀(北京市、天津市、河北省)地域の共同発展」および「長江経済ベルトの発展」(注2)についても、以下のとおり具体的な記述がみられた。

  • 京津冀地域の共同発展:北京の首都機能以外の諸機能を分散。雄安新区を高い水準で建設。
  • 長江経済ベルトの発展:共に資源保護に取り組み、大規模な開発をしない。

京津冀地域の共同発展については、2017年4月に中国政府が発表した「雄安新区」の建設が大きな焦点となる。

長江経済ベルトの発展については「共に自然保護に取り組み、大規模な開発をしない」ことが強調されている。中国の地域発展戦略を研究する在北京の専門家は「2016年1月に習主席が長江流域を訪問した際、流域の環境汚染が極めて深刻であることを目にし、開発をさらに進めるよりも、生態環境の改善を優先すべきとの方針に大きく転換した」と指摘している。

ベイエリア計画は、京津冀地域の共同発展および長江経済ベルトの発展とは異なり、香港・マカオで実施されている「一国二制度」の堅持について触れた箇所で取り上げられた。習主席は、「香港・マカオの発展は大陸部の発展と密接につながっている。香港、マカオが国の発展の大局に融合するよう支援し、ベイエリアの建設や、広東・香港・マカオ間の協力、汎珠江デルタの地域的協力をはじめ、大陸部と香港・マカオとの互恵協力を全面的に推進する」と述べている。つまり、ベイエリア計画の推進は「一国二制度」と密接に絡んでいることがうかがえる。

その後、2018年3月の全国人民代表大会における李克強首相の政府活動報告では、「地域間の調和の取れた発展戦略の着実な推進」という項目の中で、「京津冀の共同発展」「長江経済ベルトの発展」と共に、ベイエリア計画が併記された。報告では、「ベイエリア発展計画を公布・実施し、大陸部と香港・マカオとの互恵協力を全面的に推進する」ことが明記された。ベイエリア計画が、中国の質の高い発展に向けた3大地域発展計画の1つとして正式に位置付けられたことを意味する(注3)。

図:広東・香港・マカオグレートベイエリア
香港、深セン市、東莞市、恵州市、広州市、佛山市、肇慶(ちょうけい)市、中山市、江門市、珠海市、マカオ。
出所:
ジェトロ作成

一国二制度と域内の要素の自由な流動の両立が最大の課題

ベイエリア計画は、サンフランシスコ、ニューヨーク、東京湾(注4)の3つの既存ベイエリアを参考とし、珠江デルタ9市と香港、マカオを1つの地域とした発展を目指すものだ。広東省と香港、マカオの協力は2008年の国家発展改革委員会「珠江デルタ地域改革発展計画綱要(2008~2020年)」をはじめとする政策により推進されてきたが、あくまでも広東省が主体であり、香港、マカオは連携相手にとどまっていた。「香港、マカオという、中国国内とは異なる『二制度』が適用されている特別行政区を包含した初めての地域発展計画」(在香港の研究者)である点が、これまでとは大きく異なる。在北京の研究者は「計画のポイントとなるのは、香港、マカオの存在。中国は発展に向けた改革の過程にあり、(特に)香港のどのような制度が(中国国内で)適用できるのか、香港の経験から何がくみ取れるかを判断していくことが重要」と指摘する。つまり、香港・マカオの制度のベイエリアの他地域での適用や運用の可能性を探るべく、中国の制度との「対接」(突き合わせ)作業が今後本格化するものとみられる。

「一国二制度」は、換言すればヒト・モノ・カネ・情報の自由な流動を制限する制度でもある。北京の専門家は「ベイエリア地域には2つの制度(中国、香港・マカオ)、3つの関税地域(中国、香港、マカオ)、4つの主要都市(広州、深セン、香港、マカオ)が存在する。一国二制度、異なる関税地域の存在は優位性ともなるが、障害ともなり得る。ベイエリア計画推進に向け、突き合わせ作業が必要な制度は数百にものぼる」と指摘する。「一国二制度」を維持しつつ、これら要素の自由な流動を最大限促進できるのかが、計画推進に向けた大きな焦点となる見通しだ。

また、中国側には「中国国内に比べ、香港の発展が相対的に停滞している」との問題意識が根強くある。香港は、米国の「ヘリテージ財団」が毎年発表する経済自由度指数(Index of Economic Freedom)」において24年連続で世界1位の座にあるが、在北京の専門家は、「こうした香港の優位性を、香港のみならずベイエリア地域全体で発揮させることは、地域全体の発展の促進に加え、香港自身の発展空間の拡大にもつながる」と指摘する。

さらに、ベイエリアの発展が広東省だけでなく、汎珠江デルタ地域(注5)へ波及し一帯一路を通じた海外への窓口になることも見越す。


広東省広州市と香港を結ぶ「広深港高速鉄道」の駅となる
香港西九龍駅の建設工事の模様(ジェトロ撮影)

都市間の役割の調整も課題に

計画推進に向けては、対象となる香港・マカオを含めた11都市が果たすべき役割をどのように調整していくかも焦点となる。2017年7月に締結された「広東省、香港、マカオの協力の深化、グレートベイエリア建設推進に関する枠組み協定」では、ベイエリア計画実施に向けた各地域の役割について以下のとおり記述している。

  • 広東省:全国の改革開放の先行地域として、経済発展の重要なけん引役としての役割を強化し、科学技術、産業イノベーションセンター、先進製造業、現代サービス業基地を構築。
  • 香港:国際金融、輸送、貿易の3大センターとしての地位をさらに高め、世界の人民元オフショアハブとしての地位および国際的な資産マネジメントセンターとしての地位を強化。プロフェショナルサービスやイノベーション・科学技術の発展を推進。
  • マカオ:世界的な観光レジャーセンターの建設を推進し、中国とポルトガル語国家との経済協力サービスプラットフォームを構築し、中華文化を中心に、多元的な文化が共存する交流協力基地を建設し、マカオ経済の適度に多元的で持続的な発展を促進。

今後計画が実行段階に入る上では、各都市レベルまで落とし込んだ役割の設定・調整が必要となる。在北京の研究者からは「都市間の役割の調整にあたっては、中央政府が絡むハイレベルの調整機関を通じた調整が必要」との指摘があった。

ベイエリア地域は、中国国内で最も早く改革開放政策が実施された地域である。今後のさらなる発展に向けては、引き続き市場の力が最も重要となるが、それに加え政府による適切な調整を通じた資源の効率的な配分、都市間の効率的な分業体制の確立の成否も、計画の推進に向けた重要なカギを握るものとみられる。


注1:
東部地域および、中部・東北・西部の各地域の発展計画の対象地域は以下のとおり。
東部地域:北京市、河北省、天津市、山東省、江蘇省、上海市、浙江省、福建省、広東省、海南省
中部崛起計画:山西省、河南省、安徽省、湖北省、湖南省、江西省
東北振興計画:遼寧省、吉林省、黒龍江省、内モンゴル自治区東部
西部大開発計画:内モンゴル自治区、陝西省、甘粛省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区、青海省、チベット自治区、四川省、重慶市、貴州省、雲南省、広西チワン族自治区
注2:
計画の対象地域は、長江流域の上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、雲南省、貴州省。
注3:
計画の対象地域は、香港特別行政区、マカオ特別行政区、珠江デルタ9市(広州市、東莞市、深セン市、恵州市、仏山市、中山市、珠海市、江門市、肇慶市)。
注4:
「東京湾ベイエリア」は首都圏をもとにした地域で、東京湾周辺の都市群のこと。
注5:
広東省、福建省、江西省、湖南省、広西チワン族自治区、海南省、四川省、貴州省、雲南省の9省・自治区および香港特別行政区、マカオ特別行政区。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所 次長
中井 邦尚(なかい くにひさ)
1996年、ジェトロ入構。清華大学留学(2000~2001年)、ジェトロ・北京事務所経済信息部長(2002~2008年)、本部海外調査部中国北アジア課課長代理(2008~2012年)、ジェトロ・成都事務所長(2014~2015年)などを経て、2015年9月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 経済分析部 部長
河野 円洋(かわの みつひろ)
2007年、ジェトロ入構。在外企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ岐阜、海外調査部中国北アジア課を経て2014年3月よりジェトロ・広州事務所勤務。

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