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マクロン政権発足から1年、正念場迎える(フランス)

2018年6月14日

フランス大統領就任(2017年5月)から1年が経過し、国内改革に対する社会不満の広がり、外交面での米国のイラン核合意離脱やEU改革の遅れなど、エマニュエル・マクロン大統領は正念場の時期を迎えている。マクロン政権発足から1年たったフランスの経済・政治状況を分析し、2019年5月の欧州議会選挙に向けた今後の動きを見通す。

支持率は低いものの、政権運営は安定

国内では強力な野党が不在で、政治的に追い込まれる事態は想定しにくい。経済面では、2018年はGDP成長率2.0%を見込み(図1参照)、失業率も低下傾向と、好調な経済が社会不満の噴出を抑えている。2019年5月の欧州議会選挙まで大きな選挙が予定されていないことからも、当面は安定した政権運営が可能な環境といえる。

図1:フランスのGDP成長率(%)の推移
2013年0.6%、2014年1%、2015年1.1%、2016年1.2%、2017年2.2%、2018年*見込み2.0%、2019年*見込み1.9%。
注:
*は見通し。
出所:
INSEE、経済産業省

大統領の政策は「富裕層・大都市優遇」との批判もあり、支持率は依然として低位で推移(図2参照)、回復の兆しは見られない。社会不満の広がりもあり、世論調査では大統領の政策を支持しないとの回答が過半数近い状況となっていることから、政権は世論の動向にこれまで以上に神経質になっている。ただし、2019年の欧州議会選挙までは、大方の国民は現政権を見守る姿勢とされ、その意味ではまだ1年間の時間的猶予があるが、逆に言うと同選挙までに目に見える具体的な成果を積み上げることが必要となっており、「いつまで国民の信任が続くのか」という意味で、政権側に若干の焦りが見られる状況となりつつある。

図2:2017年5月以降のマクロン大統領の支持率推移
マクロン大統領の支持率は2017年5月62%、6月64%、7月54%、8月40%、9月45%、10月42%、11月46%、12月52%、2018年1月50%、2月44%、3月42%。
出所:
IFOP

こうした焦りを反映し、マクロン政権は矢継ぎ早に改革を実施しているが、新たな改革のたびに新たな不満分子が創出され、労働法制改革に対する労組、購買力強化策で取り残された年金生活者、地方財源削減に対する不満、社会政策実施の遅れに不満を持つ大衆層など、不満が広がっている。他方、矢継ぎ早の改革が国民の目線を絶えずずらし、社会不満が一点に凝集するのを防いでいる側面もある。フランスではタブーとされる改革に果敢にチャレンジしているが、改革のスピードが止まった時に社会不満が盛り上がる可能性があるともいえる。

構造改革に独自の手腕を発揮

マクロン大統領の改革手法の特色は、関係者の意見を丁寧に聞くところにある。大統領、首相、担当閣僚らが前線に立ち、全ての関係者と個別会談を積み重ねることでガスを抜く。政府側が譲歩を上手に繰り出し、反対派の切り崩しを行うのが特色である。労働法制改革はその手法が見事に奏功し、フランスでは実現困難とされた改革を早々に実現してみせた。細かな調整と譲歩を特徴とする手法は、改革に伴う社会不満を最小化する効果も持つ。

ただし、最近の職業訓練制度改革では、労使交渉の結論を政権側が一方的に破棄して踏み込んだ改革を提案し、国鉄改革では国鉄職員の反発を顧みずに身分保障(終身雇用保障)の見直しなどに踏み込むなど、意見は聞くが譲歩はしないという強行突破の姿勢が目立ち、それが社会不満を増幅させている。世論の動向を巧みに計算に入れた上での戦略的な手法とみることもでき(国鉄改革では世論は政権側)、単に譲歩を重ねて着地点を探るという日和見主義的な政権運営ではなく、改革の意味・目的に照らして譲れない線は堅持しているとの評価もできる。

もう1つの特色は、左右の政策を双方取り込む点である。労働法制の自由度を高める改革や法人税改革などの減税政策は右派寄り、失業保険制度や職業訓練制度改革などは左派寄りで、伝統的な右対左のイデオロギー対峙(たいじ)を相克することを目指している。この手法は、既存政党の支持基盤を大きく揺るがしており、右派の共和党は移民政策など強硬な極右寄りのスタンスを掲げて独自色を出さざるを得なくなり、逆に極右の国民連合(旧・国民戦線、2018年6月1日に党名変更)との境界が曖昧となり、支持層離れが止まらない。こうした状況で、欧州議会選挙に向けて親EU派の中道勢力を結集し、さらなる政界再編を仕掛けるというのがマクロン大統領の狙いとなっている。

経済政策はサプライサイドを重視

改革手法が注目されるマクロン大統領であるが、経済政策の重心は、サプライサイドの改革にある。好調な経済成長も近い将来鈍化するとの見通しから、その前に改革を断行することが必要で、改革のスピードを緩めない理由もそこにある。労働法制改革や一連の減税政策などは、企業体力を筋肉質にする目的を持ち、失業保険や職業訓練制度の改革は、労働需給のミスマッチの解消を通じて、労働資本投入を最適化する目的を持つ。これに加えて、イノベーションへの資金供給やデジタル経済化の促進は、遅れていたフランスの資本投資を進める意図を持っている。ただ、こうした政策の国民への説明が不十分なことが社会不満増幅の要因と政権側は考えており、大統領は繰り返し閣僚に対してメディアへの露出を増やし、説明責任を果たすよう指示している。政治経験がない、または浅い閣僚を登用したツケがこうした面でみられるのも事実であり、即席の与党・共和国前進も、大統領を支持する上で十分な役割をいまだ果たし切れていない。

なお、金融・財政政策はEUの規律下にあり、フリーハンドはない。特に財政政策については、フランスは財政赤字をGDP比の3%以下にする目標を長らく達成できずにいた。マクロン大統領は当選1年目から3%目標を達成するため、なりふり構わぬ強硬な予算削減を指示(年度途中での各省予算の一律削減)、政府内ではそれに対する反発なども生まれた。好調な経済にも支えられ、2017年度の財政赤字はGDP比2.6%まで縮小したが、3%目標達成なくしてEU改革を主導する資格なし、とドイツをはじめとする財政規律重視のEU加盟国から牽制されていたことからも、この意味はとても大きい。年度途中での予算削減や企業向け臨時増税を実施してまで目標を実現した大統領の覚悟にはすさまじいものがあった。選挙公約で新たな増税を一切否定している関係上、将来の成長の糧として重視するイノベーション、デジタル、気候変動対策や持続可能社会への移行に向けた投資[スタートアップ支援、人工知能戦略(AI)の推進、電気自動車(EV)化の推進など]の財源は歳出削減によって捻出せざるを得ない状況となっている。

難航が予想されるEU改革

マクロン大統領の国内改革は、自身が掲げるEU改革と連動している。EUが抱える移民問題については、緊急事態宣言の解除と抱き合わせでの日常的な治安維持部隊の強化、経済的移民排除のための法案作成などの国内改革とともに、EUレベルでもEU難民庁の創設などを提案している。国内改革を断行しつつ、その効果を最大化させるためにEUレベルでの改革も不可欠との考えが徹底されている。前述のイノベーションやデジタル化などの促進はフランスにとどまらず、EUレベルで強化すべき課題とするなど、マクロン大統領がEUの強化・繁栄とフランスの競争力・プレゼンス回復を不可分とみているのは明らかである。

ただし、EU改革は楽観的な状況とは言えない。ドイツのメルケル首相の求心力低下、イタリアのポピュリズム的政権の誕生、北欧や中・東欧諸国からの拙速な改革への牽制などは懸念材料である。マクロン大統領自身も、ドイツとの共同戦線の実現なくしてEU改革は難しいと繰り返し述べている。メルケル首相は夏までにフランスとEU改革ロードマップで合意することを目指すが、国内の政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)なメルケル首相がどこまで踏み込めるか懸念も少なくない。

デジタル関係では、フランスは人工知能分野での欧州基金の創設を提案、そのための財源としてEUデジタル課税による税収を見込んでいるが、本法案にはドイツをはじめEU加盟各国の反対が根強い。エコロジー移行関係の投資も財源として炭素税が念頭に置かれているが、この議論は過去の経緯からも容易ではない。ユーロ圏共通予算構想に対してはドイツの慎重姿勢が根強い。マクロン大統領が提唱するEUの「マルチスピードの改革」は、フランスやドイツ、ベネルクス3国などのEU原加盟国と中・東欧諸国などを分けて改革を進める構想だが、そもそも欧州委員会やドイツが慎重なことに加えて、ドイツの弱体化、イタリアの混迷などの現況を考えるとハードルは高くなったと考えるべきである。EU改革構想そのものに黄色信号がともっている。

EU改革で前進がみられないとすれば、欧州議会選挙までに成果を必要とするマクロン大統領にとっては、国内的にも求心力を失う可能性もある。米国の通商拡大法232条問題(注)や貿易交渉への圧力が逆に欧州内の結束を高め、それがEU改革への機運を高めることを期待するのはあまりに楽観的だろう。

2019年5月の欧州議会選挙までに国内改革、欧州改革の面で成果を上げることが、マクロン政権にとって今後1年の課題となる。欧州議会選挙への対応やフランスがEU機構の人事の面で影響力を行使できる体制をどこまで構築できるのかなども、今後を占う上で重要な要素となるだろう。過去1年間の実績をみれば、国内改革は種々の反対にひるまずに断行されるであろうことを考えると、注目すべきは今後のEU改革の行方であろう。


注:
米国大統領に、安全保障を理由に貿易制裁措置の発動を認める法律。トランプ大統領は2018年3月23日、同法律に基づき鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限措置を発動した。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所長
片岡 進(かたおか すすむ)
1991年、経済産業省入省、副大臣秘書官、繊維課長、内閣官房日本経済再生総合事務局参事官(総合調整担当)などを経て、2016年7月より現職。

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