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伝統的な小売市場に迫る近代化の波(ルーマニア)
外資系が地方都市にも出店攻勢

2018年9月3日

一歩町を離れれば、馬車が行き交い、羊飼いが羊を追う光景が広がる。手付かずの自然や伝統的な暮らしが残るルーマニアでは、現在も「ピアッツァ」と呼ばれる市場での買い物文化が生きている。しかし近年は、所得の向上とともに買い物市場の近代化が急速に進む。西欧の外資系小売企業がしのぎを削り、首都ブカレストに加え、地方都市にも出店攻勢をかけている。変わり行くルーマニアの買い物事情を概観する。

伝統に取って代わりつつある近代的小売り

IMFによると、ルーマニアの1人当たりGDPは、リーマン・ショック後落ち込んだものの、2017年は1万757ドルと過去最高水準に達し、2018年は1万2,575ドルまで上昇するとみられている(図1参照)。2000年代以降の急速な購買力の向上に伴い、変化を見せているのが小売市場だ。

図1:ルーマニアの1人当たりGDP推移(単位:ドル)
1981年から2002年までは、2,000ドル前後で推移していた。2003年から急速に一人当たりGDPは増加し、2008年には1万ドルに到達した。その後、2017年までは8,000ドルから1万ドル程度にて推移し、2018年に再び大きく上昇し、1万2,000ドルに到達している。
注:
2016年以降は推計値。
出所:
IMF

ルーマニアでは、野菜や果物をはじめ生鮮食品は、現在も「ピアッツァ」と呼ばれる市場で購入する人が多い。スーパーマーケットよりも新鮮で安い国内産品が手に入るためだ。人口約200万人の首都ブカレストにも大小のピアッツァが点在しており、最大の「ピアッツァ・オボール」は、週末ともなればいつもにぎわいを見せている。ナチュラル志向が強い国民性とも相まって、野菜や果物、卵、チーズやベーコン、蜂蜜などは、生産者から直接購入することを好む人が多い。


「ピアッツァ・オボール」(ジェトロ撮影)

路上に並ぶピアッツァ(ジェトロ撮影)

しかし近年、都市部を中心とする小売市場のシェアは、ハイパーマーケットやスーパーマーケットのような近代的流通形態(以下、モダントレード)が、ピアッツァをはじめとする恒常的に開かれている市場や季節的に開かれる市場などの伝統的流通形態(以下、トラディショナルトレード)に取って代わりつつある。市場調査会社GfKルーマニアのプレスリリース(2018年2月22日発表)によれば、2017年のトラディショナルトレードの市場シェア(売上高)は41%と、2013年から10ポイント減少した一方で、2014年に50%を上回ったモダントレードは、着々とシェアを伸ばしている(図2参照)。

図2:小売市場売上高シェアの変化
2013年、ハイパーマーケット26%、スーパーマーケット13%、ディスカウントストア8%、コンビニエンスストア2%、キャッシュ&キャリー(会員制現金問屋)1%未満、伝統的流通形態(トラディッショナルトレード)51%。 2014年、ハイパーマーケット26%、スーパーマーケット15%、ディスカウントストア9%、コンビニエンスストア2%、キャッシュ&キャリー(会員制現金問屋)1%未満、伝統的流通形態(トラディッショナルトレード)47%。 2015年、ハイパーマーケット27%、スーパーマーケット15%、ディスカウントストア10%、コンビニエンスストア2%、キャッシュ&キャリー(会員制現金問屋)1%未満、伝統的流通形態(トラディッショナルトレード)46%。 2016年、ハイパーマーケット27%、スーパーマーケット16%、ディスカウントストア11%、コンビニエンスストア2%、キャッシュ&キャリー(会員制現金問屋)1%未満、伝統的流通形態(トラディッショナルトレード)43%。 2017年、ハイパーマーケット27%、スーパーマーケット16%、ディスカウントストア11%、コンビニエンスストア3%、キャッシュ&キャリー(会員制現金問屋)1%未満、伝統的流通形態(トラディッショナルトレード)41%。
注:
四捨五入のため合計が100にならないことがある。キャッシュ&キャリーは1%未満のため正確な数値不明。
出所:
GfKルーマニア資料

しのぎを削る西欧の外資系チェーン

激増する近代的小売プレーヤーの大半は、西欧の外資系小売業だ。2013年から2017年にかけて外資系小売店舗数は1,168から2,300にほぼ倍増した(図3参照)。

図3:外資系上位10位小売店舗数の推移(単位:店舗)
2013年1,168店、2014年1,405店、2015年1,636店、2016年1,883店、2017年2,300店。
出所:
財務省データを基にジェトロ作成

小売市場のトッププレーヤーはドイツ系ハイパーマーケットチェーンのカウフランドだ。2018年5月末時点で国内に119店舗を展開し、2017年の売り上げは100億9,000万レイ(約2,825億2,000万円、レイは通貨単位レウの複数形で、1レウ=約28円)と、小売企業の中で唯一100億レイを越えた(図4参照))。2005年にルーマニアに進出した同社は、小売企業としては国内最大の約1万5,000人の従業員を抱える。2018年には拡張と近代化のため2億ユーロの追加投資を行い、小規模都市を含め10の新規店舗をオープンする予定だ。

そのカウフランドに迫る勢いなのが、フランス系ハイパーマーケットチェーンのカルフールだ。2017年の売上高は96億レイと、カウフランドとの差を5億レイ弱にまで縮めている。カルフールは2001年にハイパーマーケットチェーンとして初めてルーマニア市場に参入して以来、2008年にはアルティマ、2015年にはビラ・ルーマニアと現地企業を買収し、店舗数を増やしてきた。続くドイツ系のリドルは、カウフランドと同グループのディスカウントショップだ。2011年にルーマニア市場に参入して以来着実に売り上げを伸ばし、2015年にはメトロを抜き、3番手に躍り出た。2017年の売上高は65億レイと、前年比17%増だった。2018年には新たに15店舗をオープンする計画と報じられている。

さらに、近年最も勢いがあるのはディスカウントチェーンのプロフィだ。投資会社ミッド・エウロパ・パートナーズ(英国)が保有する同社は、2万人以下の小規模都市をターゲットにした出店戦略が功を奏し、2017年は店舗数を501から696店舗に増やし、オランダ系のメガ・イマージュを抜き店舗数1位に躍り出たほか、売上高も前年比33%増と同業者内で最高の伸び率を記録した。

店舗数でプロフィに抜かれたメガ・イマージュだが、ブカレストを中心にスーパーマーケットとコンビニエンスストア型の「ショップ&ゴー」を展開し、ブカレストでは最もよく見かける。アホールド・デレーズ(オランダ)が保有する同社は都市部に狙いを絞り、小規模店舗を数多く展開することで利便性を売りにしてきた。2017年にはルーマニア西部の主要都市クルージュナポカへ進出し、2017年末時点で589店舗を展開する。

図4:外資系上位10位小売売上高の推移(単位:100万レイ)
2013年から2017年までの外資系小売売上高を示す。全体として外資系小売の売上高は増加傾向。カウフランドが2013年から2017年まで1位をキープしており、2017年には100億レイを超えた。2位はカルフールであり、2013年から2017年まで2位をキープ。2017年時点での順位は、リドル、オーシャン、メトロ、メガ・イマージュ、プロフィ、セルグロス、レウェ(ペニーマーケット)、コラと続く。
注:
カルフールの売上高にはCarrefour Romania SA, Artima SA, Supeco Investment SRL, Columbus Operational SRL(2015年以降)を含む。
出所:
財務省データを基にジェトロ作成

表:外資系上位10位小売売上高、店舗数の推移

売上高(百万レイ)
順位 主な店舗名 本社
国籍
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2017/
2016年比
1 カウフランド ドイツ 7,261 7,998 9,174 9,691 10,087 4%
2 カルフール フランス 6,467 6,870 7,733 8,388 9,605 15%
3 リドル ドイツ 3,375 3,887 4,724 5,578 6,510 17%
4 オーシャン フランス 2,301 3,771 4,444 4,896 5,223 7%
5 メトロ ドイツ 4,732 4,489 4,494 4,357 4,730 9%
6 メガ・イマージュ オランダ 2,340 2,816 3,563 4,325 4,910 14%
7 プロフィ 英国 1,456 1,845 2,548 3,550 4,730 33%
8 セルグロス ドイツ 3,090 2,833 2,934 3,297 3,645 11%
9 レウェ
(ペニーマーケット)
ドイツ 2,194 2,335 2,656 2,865 2,997 5%
10 コラ フランス 1,638 1,712 1,723 1,744 1,773 2%
合計 34,854 38,554 43,994 48,691 54,210 11%
店舗数
順位 主な店舗名 本社
国籍
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2017/
2016年比
1 カウフランド ドイツ 89 102 107 112 116 4%
2 カルフール フランス 160 172 228 244 362 48%
3 リドル ドイツ 169 183 192 203 220 8%
4 オーシャン フランス 31 32 33 33 33 0%
5 メトロ ドイツ 32 32 31 30 30 0%
6 メガ・イマージュ オランダ 296 410 467 522 589 13%
7 プロフィ 英国 204 275 367 501 696 39%
8 セルグロス ドイツ 19 19 19 21 22 5%
9 レウェ
(ペニーマーケット)
ドイツ 156 168 181 206 221 7%
10 コラ フランス 12 12 11 11 11 0%
合計 1,168 1,405 1,636 1,883 2,300 22%
注:
カルフールの売上高にはCarrefour Romania SA, Artima SA, Supeco Investment SRL, Columbus Operational SRL(2015年以降)の売上高を含む。
出所:
財務省データを基にジェトロ作成

都市部への大型モールの新規出店は一段落

スーパーマーケットの激増に加え、ブカレストでは過去10年間で数多くのショッピングモールが誕生した。2008年のバネアサ・ショッピングシティーをはじめ、2009年にはアフィ・パレス・コトロチェニ、2015年にはメガモールなど、大型なものだけでも10のショッピングモールがある。しかし、国内有力ビジネス誌「ビジネスレビュー」(2018年6月28日付記事)によれば、2016年秋のベランダ・モールのオープンを境に、数年間ブカレストへの新規出店は落ち着き、各社は既存店の拡張に集中する見通しだ。この傾向は、クルージュナポカ、ティミショアラ、ヤシ、プロイエシュティ、コンスタンツァといった中核都市でも同様とみられる。今後の新規出店は、ブラショフ、サトゥ・マーレ、シビウ、トゥルグ・ムレシュなど、人口約12万人から30万人の中規模都市で予定されている。

既存のモールには今後、個性を出す努力が求められるだろう。爆発的に増加したブカレストのモールの中には、週末でも閑散としている店舗も見受けられる。テナントはどこもH&MやZARA、Mangoといった外資系チェーンが並び、似たり寄ったりの印象も受ける。今後は、特色のないモールは淘汰(とうた)されていく可能性もある。既存店への追加投資の中心は、映画館やスポーツジムといった娯楽施設とフードコートの拡張に費やされる見込みで、各店舗ともいかに訪問者に長く滞在してもらえるかに注力するようだ。

DIY市場ではルーマニア企業がトップを独走

スーパーマーケットをはじめ外資系小売りが市場を席巻する中、専門小売市場で存在感を示す地元資本の企業も出てきている。その代表格がDIY市場だ。ルーマニアでは、農業や建設資材のニーズが高く、また自宅のリフォームや修理を自分でする人が多い。そのDIY市場を牽引するのが、100%ルーマニア資本のデデマンだ。1992年創業で、建設資材や家具、インテリア用品を扱い、1994年時点では11人だった従業員を現在は1万人まで増やし、ルーマニア資本の企業としては最多の従業員数を抱える。現在は国内に48店舗を展開し、2017年の売上高は11億ユーロ超だった。外資系DIY企業が入り込む前に、国内でのネットワークを広げることに成功し、ルーマニア発祥企業のサクセスストーリーの1つとなっている。

ただし、外資系企業の専門小売市場への進出も続く。DIY市場でデデマンを追うのは、英国のキングフィッシャーだ。2013年にはフランス系のブリコストア(現ブリコ・デポ)、2017年にはドイツ発祥のプラクティカを買収し、2018年1月時点で38店舗、従業員は約2,500人。ブリコストア、プラクティカともにルーマニアへの進出は2002年で、2016年の売上高はそれぞれ1億4,500万ユーロ、1億3,800万ユーロだった。

2007年にルーマニアで初めてフランチャイズ店をオープンした家具量販店のイケアは、2018年末までに国内2番目の店舗をブカレストの南東部にオープンする予定で、完成すれば南東欧で最大のイケア店舗となる。加えて2025年までに南東欧(ルーマニア、クロアチア、スロベニア、セルビア)に13店舗をオープンすることを目指しており、そのうち9店舗はルーマニアに設置される予定だ。ほかにも、中国資本の小売雑貨店ミニソ(Miniso)はブカレストに、ドイツのファッション小売企業のキック(Kik)はオラデアに、それぞれルーマニアでは初となる店舗を2018年中にオープン予定と報じられており、外資系専門小売企業の進出が続く見通しだ。

ルーマニアの人口約2,000万人は、EU加盟国で7位、中・東欧地域ではポーランドに次ぐ規模を誇る。購買力が増す消費市場を狙い、西欧企業を中心に進出に弾みがかかっている。買い物市場の近代化の波は、ブカレストなど大都市にとどまらず、地方都市にも届き始めている。ピアッツァと巨大ショッピングモールが混在する様子は、経済発展の中にあるルーマニアの様相を表しているようだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
藤川 ともみ(ふじかわ ともみ)
2015年、ジェトロ入構。海外調査部・海外調査計画課(2015~2017年)を経て現職。

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