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波に乗る中国のシェアリングエコノミー

2018年3月22日

中国でも年末になるとその年の流行語が発表される。2017年の中国の「十大流行語」の一つに選出されたのは「シェアリング」を意味する「共享」だった。シェア自転車、シェア雨傘、シェア充電器、さらにはシェア書店まで登場する中国のシェアリングエコノミーの現状を探る。

シェアの波は書店業界にも

中国の街にオレンジ色や黄色の自転車が溢(あふ)れかえっている光景は、日本でもしばしば報道される。2016年半ばから急速に普及したシェア自転車は、2017年12月末時点でユーザーが2億2,000万人を突破した。使い方は至って簡単で、ユーザーは街中に止めてある自転車の鍵をスマートフォン(スマホ)で解除し、目的地に到着後はスマホで決済と施錠をして、乗り捨てることができる。1日当たりの利用者数は延べ5,000万人に達し、シェア自転車はすっかり国民の足となった。

中国でも年末になるとその年の流行語が発表される。主催する北京言語大学国家言語資源モニタリング研究センターは「シェア自転車の爆発的普及で、シェア自動車、シェア雨傘、シェア充電器など新たなビジネスも生まれ、シェアリングエコノミーの発展が国民に恩恵をもたらした」として「共享(シェアリング)」を2017年の「十大流行語」の一つに選んだ。

シェアリングエコノミーは、インターネットを介して不特定多数の人がモノや空間など、さまざまなサービスを共有することで成立する経済概念を指す。サービスは自転車や自動車、雨傘、充電器などの「モノのシェア」のほか、民泊などの「空間のシェア」、相乗りサービスなどの「移動のシェア」、家事代行などの「スキルのシェア」、クラウドファンディングなどの「お金のシェア」にまで広がりをみせている。

そんなシェアリングエコノミーの波は、書店業界にも押し寄せている。2017年7月には、中国内陸部の安徽省の省都・合肥市に世界初の「共享書店(シェア書店)」がオープンした(写真1)。運営しているのは中国最大の国有書店チェーン「新華書店」傘下の安徽新華発行グループである。オープン初日は猛暑日となったが、店の周囲を取り巻くほどの行列ができた。


写真1:世界初の「シェア書店」新華書店合肥三孝口店は、繁華街にあり24時間営業(ジェトロ撮影)

「シェア書店」の利用方法は簡単だ。事前にスマホの専用アプリ「智慧書房」をダウンロードし、99元(約1,700円、1元=約17円)のデポジットを入金する。借りたい本に添付されたQRコードをスマホでスキャンすれば持ち帰りできる。対象は150元以下の本に限られるが、中国の一般書籍は150元以下のものが多いため実質的に本は選び放題といえる。また、利用は1回につき2冊までだが、回数に制限はない。返却期限は10日間で、11日目以降は1冊につき1元がデポジットから引き落とされる。そのほか、期限内に良い状態で本を返却すれば1冊1元のボーナスが支払われる仕組みや、優良な利用を3カ月以内に12回繰り返すとデポジットの8%がキャッシュバックされる「奨学金制度」と呼ばれる仕組みがある。

本を持ち帰り期限内に返却するという点で「シェア書店」は、図書館とよく似ている。しかし、図書館は新刊本の入荷に時間がかかるほか、その数に限りがあるため、話題の本は長く待たされる。一方「シェア書店」は、繁華街にある大型書店で、話題の本を手に取り気に入ったらすぐに持ち帰ることができるため人気を集めている(写真2)。安徽新華発行グループの発表によると、オープン後1週間の時点でアプリのダウンロード数が8,000件に達し、合計約1万6,000冊の本が持ち帰られた。懸念されていた返却については同時点で4,000冊が返却された。返却時に専用カウンターで本の状態をチェックすると(写真3)汚損もほとんどなく、損耗は店頭に並ぶ本と大差ない状態だったという。


写真2:多くの人で賑わう「シェア書店」、座り込んで読む人も(ジェトロ撮影)

写真3:「シェア書店」のカウンターの様子 (ジェトロ撮影)

世界初の「シェア書店」となった新華書店合肥三孝口店は当初、本の品ぞろえもサービスも普通だったが、2010年頃から集客に力を入れ始めた。1階にすし店などの飲食店、2~3階に雑貨屋や文房具屋、花屋が入居し、4~6階を書籍売り場とした2016年は1日平均5,000人ほどの集客だったが、2017年7月に「シェア書店」としてオープンすると1日平均7,000人が来店するようになった。オープンから半年で「シェア書店」の店舗は全国28カ所に増え、専用アプリのダウンロード数も25万件を超えたという。

広がりをみせるシェアリングエコノミー

国家情報センターは2018年2月27日、「中国シェアリングエコノミー発展報告(2018)」を発表した。同報告によると、中国における2017年のシェアリングエコノミー市場の取引額は4兆9,205億元(約83兆6,485億円、1元=約17円)、前年比47.2%増と急拡大した。利用者数も増加している。中国のシェアリングエコノミーは、7億人が参加している。前年から約1億人の増加だ。関連する企業で働く人の数は716万人、前年比22.3%増と、雇用創出も大きい。同報告は、シェアリングエコノミーが鉄鋼や石炭など生産過剰の産業の人員の受け皿となっているとも指摘する。配車サービス大手の滴滴出行は、サービス提供者2,180万人のうち、393万人がそうした人材とのことだ。また、中国のシェアリングエコノミー市場の取引額は今後5年間、毎年30%以上の高度成長が続くと見ており、サービス分野として農業や教育、医療、介護などが注目されるという。

なぜ中国ではシェアリングエコノミーが急成長するのか。その理由として、インターネットやスマホの普及が指摘できる。中国インターネット情報センターが2018年1月31日に発表した「第41回中国インターネット発展状況統計報告」によると、2017年12月末時点の中国のインターネット利用者は7億7,198万人、うち携帯端末による利用者が97.5%を占めた。インターネット普及率は55.8%で、世界平均の51.7%、アジア平均の46.7%を上回った。また、インターネット決済利用者は5億3,110万人、そのうち実店舗での買い物でスマホ決済を利用した者の割合が65.5%だった。シェアリングエコノミーはスマホ決済との親和性が高いが、中国ではインターネットやスマホが普及し、スマホ決済がなじみのあるものとなっている。

中国の消費者の心理や社会の変化も見逃せない。シェア自転車大手の摩拝単車(Mobike)の王暁峰・最高執行責任者は「これまでは物資が不足し、人々はモノを所有する権利が欲しいと強く願っていたが、今の若者は所有権に対する執着はなく、使用権さえあればいいと考える」と指摘する。また、世界初の「シェア書店」では、店内に「持ち帰られた」本ランキングを掲示している。2月23日時点での2018年に入ってからのランキングでは、山下英子著『断捨離』が第15位で関心を集めていた(写真4)。


写真4:2月23日時点の「持ち帰られた」本ランキング第15位に『断捨離』 (ジェトロ撮影)

昨今の中国ではシェアがつくサービスが急増している。前出したサービスのほか、シェアバスケットボール、シェアランニングマシン、シェア洗濯機なども登場した。いずれのサービスもスマホ決済に対応しているという点では革新的だが、それ以外は以前からあるサービスと変わりないのではないかとの現地報道もある。「シェア書店」についても、図書館と何が違うのか、集客のため「シェア」を冠しただけとの批判もある。とはいえ流行を敏感に察知し、批判があろうと商機を逃さない姿勢には感心させられる。インターネットやスマホの普及、消費者の心理や社会の変化にも後押しされ、中国のシェアリングエコノミーの波はさらに広がりそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
清水 絵里子(しみず えりこ)
2016年4月、ジェトロ入構。海外調査部海外調査計画課を経て、2017年6月より現職。

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