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ボルソナーロ次期政権を見通す上での3つの特徴(ブラジル)

2018年11月8日

2018年10月28日に行われたブラジル大統領選挙の決選投票で、ブラジル社会自由党(PSL)のジャイール・ボルソナーロ氏(ブラジル連邦下院議員)が労働者党(PT)のフェルナンド・アダジ氏(元サンパウロ市長)を破り、大統領に当選した(就任は2019年1月の予定)。得票率はボルソナーロ氏が55.1%、アダジ氏が44.9%とおよそ10ポイントの差をつけた。地域別に得票率をみると、北東部はアダジ氏が優勢な一方、南部、南東部、中西部、北部ではボルソナーロ氏が優勢で、勝敗に地域差が目立つ結果となった(図1参照)。

図:2018年10月大統領選挙の結果(地域別集計、%)
全国レベルではボルソナーロ氏、アダジ氏それぞれの得票率は55.1対44.9%です。北部は51.9%対48.1%、北東部は30.3%対69.7%、中西部は66.5%対33.5%、南東部は65.4%対34.6%、南部は68.3%対31.7%となっています。北東部はアダジ氏の得票率がボルソナーロ氏を上回りましたが、それ以外はいずれもボルソナーロ氏の得票率が上回っています。
出所:
2018年10月29日付フォーリャ・デ・サンパウロ紙より

ボルソナーロ候補はPSLという小規模政党に属し、連邦政府や州などで要職に就いた経験もないため、選挙戦が始まる前は主要候補者と目されていなかった。しかしPT政権、その後を引き継いだテーメル現大統領のブラジル民主運動党(MDB)政権での汚職問題やこれまでの経済不振を背景に、一気に大統領へと上り詰めた。

ボルソナーロ氏の異色のプロフィール

ボルソナーロ氏当選を巡っては、3つの特徴が挙げられる。第1に、従来の政治家には少ない軍や宗教の色合いを有する異色のプロフィールである。同氏はブラジル連邦下院議員を7期連続で務めているが、予備役軍人という身分である。これは、政界入りする前に陸軍大尉を務めていたためである。副大統領候補に擁立された、アミルトン・モウロン氏も、陸軍幹部まで務めた軍人で予備役という身分にある。ブラジルでは1964年~1985年に軍事政権時代を経ているが、ボルソナーロ氏に反対票を投じる選挙民には、民主化からの逆行を懸念する声が根強かった。

宗教に関して、ブラジルは伝統的にカトリック信者が多い国であるが、ボルソナーロ氏は近年信者数を増やすキリスト教福音派(Evangélico)との関係を深めてきた(注1)。選挙スローガンは「ブラジルは全ての上に、神は皆の上に(Brasil Acima de Tudo, Deus Acima de Todos)」と宗教色を出しており、特に福音派信者からの強い支持を得ている。

小規模政党からの躍進

第2の特徴は、1995年以降続いたブラジル社会民主党(PSDB)およびPT、そして当時のルセフ大統領(PT)のインピーチメント(弾劾裁判)の結果として政権を引き継いだMDB政権と異なる、小規模政党出身の大統領となる点である。PSLが政党として高等選挙裁判所に登録されたのは1998年であるが、2014年選挙で下院は1議席、上院はゼロ議席と議会での存在感はほとんどなかった。しかし、ボルソナーロ氏が2018年1月に党籍をPSLに移し、2018年10月選挙に臨んだ結果、下院で52議席とPT(56議席)に次ぐ第2党に躍進、上院でも4議席を確保するに至った(表1、表2参照)。

選挙戦では、政党議席数に応じてテレビやラジオでの政見放送時間枠が割り振られるため、小規模政党に所属するボルソナーロ氏は圧倒的に不利とみられていた。しかし、SNSによるキャンペーンを駆使し、選挙期間中に暴漢に襲われるといった話題性もあり、小規模政党のハンディキャップを乗り越えた。もっとも、PSDBやPT、MDBといった伝統的主要政党や政治家に対する国民の不信感、反発が、「新しいタイプの政治家」として映るボルソナーロ氏およびPSL所属議員への支持につながった。

表1:下院における政党別議席数
政党名 2014年選挙当選議席数 2018年選挙当選議席数 現時点 現時点と比較した増減 2014年選挙と比較した増減 2018年選挙当選議席数のシェア(%)
PT 69 56 61 -5 -13 10.9
PSL 1 52 8 44 51 10.1
PP 38 37 49 -12 -1 7.2
MDB 65 34 50 -16 -31 6.6
PSD 36 34 37 -3 -2 6.6
PR 34 33 40 -7 -1 6.4
PSB 34 32 26 6 -2 6.2
PRB 21 30 22 8 9 5.8
PSDB 54 29 49 -20 -25 5.7
DEM 21 29 43 -14 8 5.7
PDT 20 28 19 9 8 5.5
SD 15 13 11 2 -2 2.5
PODE 0 11 16 -5 11 2.1
PTB 25 10 16 -6 -15 1.9
PSol 5 10 6 4 5 1.9
その他 75 75 60 15 0 14.6
合計 513 513 513 0 0 100.0
注:
太文字はPSLとの協力が見込まれる主な中道政党。新聞報道などを基に区分。
出所:
DIAPサイトによるデータからジェトロ・サンパウロ事務所作成
表2:上院における政党別議席数
政党名 現時点 改選議席数 2018年選挙当選議席数 改選後議席数 現時点と比較した増減 改選後議席数のシェア(%)
MDB 18 14 7 11 -7 13.6
PSDB 12 8 4 8 -4 9.9
PSD 5 2 4 7 2 8.6
DEM 5 2 4 7 2 8.6
PT 9 7 4 6 -3 7.4
PP 6 5 5 6 0 7.4
PODE 5 1 1 5 0 6.2
REDE 1 1 5 5 4 6.2
PSL 0 0 4 4 4 4.9
PDT 3 1 2 4 1 4.9
PHS 0 0 2 2 2 2.5
PR 4 3 1 2 -2 2.5
PSB 3 3 2 2 -1 2.5
PTB 2 2 2 2 0 2.5
PPS 1 1 2 2 1 2.5
PRB 2 2 1 1 -1 1.2
PCdoB 1 1 0 0 -1 0.0
その他 4 1 4 7 3 8.6
合計 81 54 54 81 0 100.0
注:
太文字はPSLとの協力が見込まれる主な中道政党。新聞報道などを基に区分。
出所:
DIAPサイトによるデータからジェトロ・サンパウロ事務所作成

「小さい政府」への転換

第3の特徴として、政策的に「小さい政府」を目指す、明確な方向転換となる点である。2003年に発足したPT政権では、社会政策の充実や積極的な産業政策など「大きい政府」を志向してきたが、財政赤字の拡大や汚職など負の側面が表面化した。ボルソナーロ氏の政権公約には、民営化の推進、関税削減、省庁数の削減といった「小さい政府」を志向する考えが見て取れる(表3)。経済政策は、米国シカゴ大学卒、投資銀行出身で経済自由化論者のパウロ・ゲデス氏が担う。ボルソナーロ氏は政権1年目となる2019年中に基礎的財政収支を均衡させ、2020年に黒字化することを公約に掲げており、ゲデス氏は社会保障制度改革をはじめとした財政支出削減を強く訴えている。

表3:ボルソナーロ氏の主な選挙公約
分野 内容
政治
  • 大統領再選の禁止
  • 議会の議員定数の15%~20%の削減
行政
  • 省庁数を29から15に削減
  • 2万の管理職ポストの削減
経済
  • 国営企業の民営化
  • 税的インセンティブの削減
  • 予算配分の柔軟化
  • 政権初年度における基礎的財政収支の均衡化
  • 税制改革(所得税の単一税率化など)
  • 社会保障制度改革
  • 関税の引き下げ
  • 農林水産業生産拡大に向けた政策関連機関の整理
労働
  • 労働法(CLT)に寄らない個人との労働契約の容認
  • 労働者に労働組合選択の自由付与
教育
  • 各州都に最低1つの軍事学校を設立
  • 道徳教育の普及
  • 教育水準の低い地域における教育機関奨励
社会
  • 支給額の低下を伴わないレベルでの家族基金(ボルサ・ファミリア)の再構築
医療
  • 統一保健医療システム(SUS)の医療従事者強化
  • 患者のカルテ情報電子化、共通化
  • 遠隔地の医療従事者用職種の創設
治安
  • 刑事責任年齢の16歳への引き下げ
  • 市民の武器保有制度緩和
  • 私有地の占拠に対する取り締まり強化
外交
  • 政治的な意図を排除した2国間交渉の推進
  • 在イスラエルブラジル大使館のエルサレム移転
出所:
10月29日付フォーリャ・デ・サンパウロ紙およびボルソナーロ候補の選挙公約資料(繁栄への道:O Caminho da Prosperidade)より作成

軍、宗教の特徴は国会議員構成にも影響

これらの3つの特徴が、2019年1月に発足するボルソナーロ政権にどう反映されるのか、検討してみよう。第1に挙げた軍出身の特徴に関して、ボルソナーロ氏は10月28日の当選直後の演説で「憲法、民主主義、自由の保護者となる政府を目指す」と宣言した。この点は、かつての軍事政権時代に逆行することはない、とのメッセージを国民に訴えかけたと捉えられる。

しかし、副大統領をはじめとする軍経験者の閣僚登用のほか、議会における軍出身者の数は増加する。報道によれば、高等選挙裁判所(TSE)への申告ベースで軍・警察・消防関係者とする上下両院議員当選者数は、2014年選挙時に18人であったが、2018年では73人へと増加している。このうち、PSL所属議員が43人でおよそ6割を占める(注2)。

宗教に関して、ボルソナーロ氏は福音派信者の支持を得たが、議会でも福音派系議員数は増えている。議会補佐官組合局(DIAP)によれば、下院における福音派系議員数は2014年選挙時に75人であったが、2018年選挙では84人に、上院は3人から7人に増加した(注3)。

軍と宗教が政治の表舞台で存在感を増した点は、今後の不確実要素として捉えられる面もあるが、改革を進めようとするボルソナーロ氏にとって、議会の支持基盤となり得る点において、プラスに作用する可能性も指摘できる。ただし、ボルソナーロ氏自身が今後も、国民の支持に加えて政治的な求心力を維持し続けることがその条件となる。

改革を進める上での政治調整の課題

第2の特徴として指摘した、小規模政党という事実から考えられる問題は、政治調整である。省庁数を削減し「小さい政府」を目指す中、省庁ポストに依存せずに、他政党との協力関係を構築する必要がある。特に今回の選挙の結果、上院、下院ともに小規模政党の議席数が拡大し、議席構成が細分化した点は、政治調整を複雑にするとみられる(注4)。

政治調整を担うのは、ボルソナーロ氏と近い関係にある、民主党(DEM)のオニックス・ロレンゾーニ下院議員で、DEMをはじめとした中道政党、いわゆる「セントロン(Centrão)」と協力関係を構築するとみられる。具体的には進歩党(PP)、共和党(PR)、ブラジル共和党(PRB)、ブラジル労働党(PTB)、連帯(SD)、キリスト教社会党(PSC)などである。

ただし、これらの政党を足し上げても、憲法修正が可能な上下両院で5分の3議席(下院308議席、上院49議席)には届かないため、PSDBやMDBといった主要政党議員の協力も必要になる(注5)。下院の最大議席数を確保した労働者党(PT)は野党としての姿勢を明確化しており、そのほかの政党および個々の議員の協力姿勢を見極める必要がある。

財政収支健全化が最優先課題

第3の「小さい政府」への転換については、経済政策ブレーンのゲデス氏の手腕にかかっている。目下、政府が抱える重要課題は財政収支の均衡だ。テーメル政権で社会保障制度改革法案が審議されるも、難航している。連邦財務庁の資料によれば、公的債務のGDP比は2018年に77%が見込まれ、2013年の52%から5年間で25ポイントも上昇した。2018年の基礎的財政収支は2.3%の赤字が見込まれ、債務の増加は続いている。

収支悪化の主要因は社会保障費の構造的な赤字体質であり、早急な社会保障制度改革が求められる。ボルソナーロ氏は10月29日のテレビインタビューで、テーメル政権における社会保障制度改革法案を部分的にでも可決することを支持するとしている(注6)が、ゲデス氏は確定拠出型年金制度を提案しており、どのような形で赤字削減を目指すのかが注目される。

また、省庁数の削減について、財務省、企画開発行政管理省、商工サービス省の統合、農牧食糧供給相、環境省の統合などの案が議論されている。ブラジル全国工業連盟(CNI)をはじめとする産業界や環境団体などの反発もあり、紆余(うよ)曲折が予想される。

通商政策は「2国間交渉」を重視する方針だ。ブラジルは、関税同盟である南米南部共同市場(メルコスール)に加盟し、対外通商交渉はメルコスールのブロックとして行うことが前提である(注7)。ゲデス氏は、これまで外交政策の中心に置かれていたメルコスールに関して、イデオロギー色が強く、経済的な視点での優先順位は高くないとの趣旨の発言をしており、メルコスール規則を柔軟化し、ブラジル単独での通商交渉が行われる可能性も報じられている。ただし、関税低減といった市場開放に対しては産業界の反発も強く、産業競争力を阻害する高コスト要因をいかに取り除くかという点も、同時に議論が必要とみられる。

総じてプラス評価も実力は未知数

2019年1月1日の政権発足に向け、今後、現政権との引き継ぎが行われることになる。まだ政策実効性の面で不透明な部分が多いものの、最優先課題となる財政再建に向けた取り組みが継続、強化され、経済政策も民営化や関税の引き下げ、保護主義的な産業政策の見直しなど自由化が見込まれる点は、日本企業にもプラスの変化が期待できる。ただし、財政問題をはじめ公約実現に向けた難題は山積している。一方で、これまで政権中枢を経験していないボルソナーロ氏やその周辺主要人物の、改革実現に向けた政治調整や、政策実行能力は未知数であり、政権発足以降もしばらくは、慎重に推移を見守る必要があるだろう。


注1:
民間調査会社ダッタフォーリャPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.8MB) によれば、1998年時点に16歳以上の調査対象者のうち宗教をカトリックとする回答率は75%、福音派(Evangélicos)は14%であった。2016年の調査ではカトリックは50%、福音派は29%となっている。
注2:
出所:2018年10月8日付インターネットニュースサイトG1記事。外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注3:
出所:議会補佐官組合局(DIAP)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注4:
2014年選挙で下院を構成する政党数は28だったが、今回は30に増加した。特に下院で議席数が10に満たない政党数は12から15に増え、これらの政党の合計議席数は37から75へ大幅増となった。
注5:
憲法改正案は総議員の5分の3の賛成、補足法は総議員の絶対過半数、通常法案は出席議員の過半数の賛成が両院で必要。
注6:
出所:10月29日付フォーリャ・デ・サンパウロ紙外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注7:
2000年メルコスール共同市場理事会(CMC)決議32号
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所次長
二宮 康史(にのみや やすし)
ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当、海外調査部中南米課、アジア経済研究所副主任研究員などを経て現職。

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