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好調な経済の下、投資環境整備や産業高度化の動き(中・東欧)
中・東欧最新経済動向セミナー

2018年12月14日

ジェトロは11月13日、「中・東欧最新経済動向セミナー」をジェトロ本部で開催した。ジェトロ・ワルシャワ事務所、ブダペスト事務所、ブカレスト事務所、プラハ事務所、ウィーン事務所、ベルリン事務所の各所長が登壇し、セミナー前半では各国の経済・政治などの概況、後半では中・東欧のビジネス環境を知る上でカギとなるテーマの中から「投資環境」「電気自動車(EV)」「インダストリー4.0」および「中国の動き」を取り上げ、各国の最新状況を解説した。

中・東欧地域全体で好調な経済成長

ワルシャワ事務所の清水幹彦所長は、ポーランドの2017年の経済成長率は4.8%と好調で、実際に現地では景気の良さ、ポーランドに対する日本企業の関心の高まりを感じると説明した。かつてポーランドは日本企業から西欧への自動車や電機産業の輸出拠点と位置付けられていたが、近年では加工食品や外食などポーランド市場でビジネスをする日本企業が見られ、2017年のポーランド進出日系企業数は303社で前年比5.6%増だった。また、ポーランド政府は2018年6月30日に「新規投資援助法」を発効させ、これまで特定地域に限定していた、投資企業が法人税減免などのインセンティブを受けられる特別経済区(SEZ)を全国どこでも設置できるようになったことなどを紹介した。

ブダペスト事務所の本田雅英所長は、個人消費や輸出、EU補助金を使ったインフラ整備などが経済を牽引し、2018年のハンガリーの経済成長予測は4.4%と説明した。最大の輸出相手国であるドイツからは自動車関連の投資が多く、アウディ、メルセデス・ベンツに加え、新たにBMWがこのほど工場建設を発表、2023年の生産開始を予定する。アジアからは、自転車製造のジャイアントや電子部品のSINBONなど台湾企業の進出が見られるほか、韓国のSKイノベーションがバッテリー工場の建設を発表している。日系企業数は160社で、労働コストや労働力の質、道路インフラなどが投資先としてのメリットである一方、経済政策の予見性の低さや、赤字でも支払い義務がある地方事業税などに、進出企業から改善要望が寄せられていると説明した。

ブカレスト事務所の水野桂輔所長は、ルーマニアの2017年の経済成長率はEU域内で第2位の6.9%と好調で、106社の日系企業は自動車部品製造が多い中、最近ではIT、食品、インフラ、ゲーム、教育など幅広い業種で進出例があると説明した。投資先としてのメリットは低労働コスト、豊富なIT人材、比較的安価な電力、逆にリスクとしては労働者不足、高速道路などインフラの未整備、汚職、個人情報保護意識が薄いこと、頻繁な法規制や税制の変更などを挙げた。治安が良く安全に特に問題はないが、最近ではデモが頻繁に発生し、警察との衝突もあったという。ルーマニアは2019年1~6月にEU議長国を務める。国内スタートアップの中には日本にも進出する自動化ツールのUiPath(ユーアイパス)といったユニコーン企業の成功例があることも紹介した。

プラハ事務所の村上義前所長は、チェコの経済成長率は2017年が4.4%、2018年予測は3.0%と好調で、民間消費や総固定資本形成が牽引していると説明した。他方、EU域内で最低の失業率と、賃金上昇率が進出企業にとってのリスクとなり得るとした。ドイツ経済との親和性が高いチェコには自動車産業が集積してGDPの9%を占め、関係企業は1,000社を超える。最近では、地場のシュコダがEV生産を発表したほか、フランスの自動車部品バレオがプラハ郊外のR&Dセンターで自動運転の開発を行うなどの動きがある。また、チェコをはじめ中・東欧全般では労働力不足を背景に、産業用ロボットへの需要が中国やインド並みに高いこと、進出ドイツ企業を中心にインダストリー4.0導入が進んでいることなどを紹介した。

ウィーン事務所の阿部聡所長は、西バルカン諸国(セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、マケドニア、コソボ、アルバニア)にスロベニア、クロアチア、スロバキア、ブルガリアを加えた南東欧諸国では全般的に、国内消費や投資に支えられた景気回復が3年続き、経済が安定していると説明した。安倍首相が2018年1月にセルビアとブルガリアを訪問し、「西バルカン協力イニシアチブ」により日本が地域全体への協力を推進すること、ジェトロが2018年にクロアチアとブルガリアに経済ミッションを派遣、セルビアでは在欧日系企業と現地サプライヤーとの商談会を開催したことなどを紹介した。また、南東欧にはドイツやイタリア企業が積極的に進出し、中国の動きもインフラ建設などを通じて活発化しつつあると説明した。

ベルリン事務所の増田仁所長は、西欧と中・東欧を結ぶ位置にある東部ドイツ(6州)はドイツの面積の34%、人口の20%を占め、2017年の経済成長率は1.9%、失業率は7.6%と説明した。経済状況は州により異なり、失業率が3%に迫るチューリンゲン州では労働者不足が問題になっている。連邦政府は東部ドイツの復興は「道半ば」とするが、ドイツ統一以降の官民投資総額は1.6兆ユーロ以上に上り、高速道路や高速鉄道、空港などの物流インフラ整備が進み、ドイツ物流大手DHLはライプツィヒにハブ拠点を構えている。また、連邦政府は中小企業向けのインダストリー4.0導入支援やスタートアップ支援イニシアチブを東部ドイツ各地で展開していること、2017年の武田薬品工業、2018年のソフトバンクなど日本企業による東部ドイツでの投資事例を紹介した。

外国人へのビザ発給条件の緩和や自動化により人材不足に対応

セミナー後半は、ジェトロ企画部の牧野直史 海外地域戦略主幹(欧州)の司会により、「投資環境」「インダストリー4.0」「EV政策」「中国の動き」の4テーマについて、パネル形式で各国・地域の状況を紹介した。


パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

製造業を中心に多くの日系企業が進出している中・東欧の投資環境について、多くの国・地域で人材不足が課題となっている。ポーランドでは多くの労働者が英国に流失し、外国企業の新規進出が続いていることから、政府はウクライナ人に対するビザ発給要件・手続きを緩和。その結果、100~200万人とも言われるウクライナ人労働者が流入したが、良い待遇を求めてほかのEU加盟国へ移っていくので、根本的な解決にはなっていない。ハンガリーでは、日系企業の進出する多くの地域では西欧企業なども多く人材不足が深刻だが、ルーマニア国境に近い東部や南部では状況は異なる。ルーマニアでは、雇用主が従業員代表と食事補助について協議するよう法律で規定され、福利厚生で差別化し雇用を確保する動きがみられる。また、チェコでの人材不足のピークは2017年と思われるが、100名以上の新規雇用は今も難しい状況で、政府はウクライナ、モンゴル、セルビア出身者に対するビザ発給要件を緩和している。

製造業の高度化・デジタル化を進めるインダストリー4.0について、その発祥国のドイツでは、産業見本市「ハノーバーメッセ」でワーキンググループが政府に提言し、2013年に最終報告を提示した。それ以降、政府や産業界、労組、研究機関などが一体となって導入を進め、現在は実装をほぼ終え、人工知能(AI)に移行していく段階にあるという。ただし、中小企業にとって導入は簡単ではなく、全国各地の「コンピテンスセンター」が導入支援の中核を担っている。ポーランドでは、政府がインダストリー4.0推進の議論を開始したのは2017年2月、関連の基金に関する法案の審議が議会で始まったのが2018年10月という状況で、地場企業での導入はこれからだ。他方、チェコでは2016年に政府がインダストリー4.0戦略を策定し、プラハ工科大学のウラジミール・マジック教授が中心となり、産学連携の下で実装実験を進めている。企業の現場では、人手不足解消のための自動化例は多く見られるが、工場間のデータ連携による生産最適化といったインダストリー4.0の目指すところには至っていない。

自動車産業が集積する中・東欧におけるEVの動向について、ポーランドでは「電動車開発計画」により、2025年までに次世代自動車100万台、2020年までに6,400カ所の充電設備の設置を目標に掲げる。また、トヨタが2020年からハイブリッドエンジンの生産開始を予定している。ハンガリーでは、産業高付加価値化を目指す政府のEVへの期待が高く、投資に補助金をつけることで産業集積を図っている。韓国のバッテリーメーカー、SKイノベーションの3億2,000万ユーロの投資に対し、政府は2,700万ユーロを補助した。チェコでは、国内1,000社以上の自動車サプライヤーがEV化に対応できるか、政府は懸念するが、地場シュコダは2019年からプラグインハイブリッド車の生産を開始予定だ。

中国は、2012年以降、中・東欧16カ国と首脳会議を毎年開催し、インフラ投資などを通じて各国との関係を深めている。中国と中・東欧を結ぶ貨物鉄道により中国からの輸入が増える一方、中国向けは輸出するモノがなく空コンテナ状態であることが地域全体の課題とされる。ハンガリー政府は、中・東欧の中でも中国への接近が目立ち、オルバン首相をはじめ主要閣僚が2018年11月に上海で開催された中国国際輸入博覧会に参加した。また、中国の支援を受けてブダペストとセルビアのベオグラードを結ぶ鉄道の近代化を進めている。EU未加盟の西バルカン諸国では、インフラ建設における入札や外国人労働者受け入れなどでEUルールが適用されないことから、モンテネグロなどでは経済規模に不釣り合いな大型プロジェクトが中国資本で行われている実態もある。

なお、セミナー会場には、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニアの在京大使館の担当者も来場し、参加者との名刺交換や情報提供を行った。


中・東欧各国の在京大使館担当者とのネットワーキング(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
鷲澤 純(わしざわ じゅん)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ大分(2000~2004年)、市場開拓部(2004~2006年)、ジェトロ・ウィーン事務所(2010~2015年)などを経て現職。

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