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新市場への展開に日本の「財産」の活用を(世界)
AOTS同窓会の人材ネットワーク

2018年5月21日

元首相や現地トヨタ社長も元研修生

世界43カ国71カ所に知日産業人材のネットワークが広がっている。「AOTS同窓会」は、世界各地の現地企業関係者等が、海外産業人材育成協会(AOTS)実施の日本における研修に参加し、帰国後に組織した団体である。同窓会は世界の6地域(北東アジア、東南アジア、南アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカ)で、それぞれ「AOTS同窓会地域連合」を結成し、地域間協力活動も行っている。

AOTSの研修の歴史は古い。AOTSは海外の産業技術研修者の受け入れ・研修等を行う組織として1959年に設立された。設立当初から「技術研修」を実施してきたが、1977年からはマネジメントを学ぶ「管理研修」も加わった。それから半世紀以上、世界中でAOTS研修に参加した産業人材は37万人以上(日本での受け入れ研修:18万人以上、海外での研修: 19万人以上)を数える。

図1:AOTS受入研修の累計(1959年度~2016年度)
アジアが158,608人、85.3%、中南米が11,571人、6.2%、アフリカが6,175人、3.3%、中東が4,990人、2.7%、ヨーロッパが3,865人、2.1%、その他が801人、0.5%。
出所:
2017 AOTS Annual Report」のデータを基に筆者加工

研修参加者には、技術を学びに来る技術者もいるが、各産業界で事業を行う経営者、経営幹部層も多く含まれる。また、研修参加当時には技術者だったが、現在では経営者、経営幹部として、各産業で活躍している人材も大勢いる。AOTSグローバル事業部長の鈴木保巳氏によれば、例えば、「ペルー元首相のフェルナンド・ザバラ氏や日本を除くアジア地域の製造事業体で、トヨタ初の現地人社長となるトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシア(TMMIN)のワリ・アンダン・チャフヨノ社長も元研修生」とのことだ。

日本から「遠い」国の同窓会ほど活発

世界のAOTS同窓会は自主的に組織された非政府組織(NGO)であり、それ故、活動内容は団体によって異なる。同窓会の主な活動としては、親睦活動、文化・社会活動(日本語教室など)、人材育成(職業訓練、セミナー開催など)などがある。

世界6地域のなかでは南アジアの同窓会が特に積極的に活動していると言われている。例えば、インド東部チェンナイの同窓会組織であるABK-AOTS Dosokai Tamil Nadu Centreはジェトロ・チェンナイ事務所と連携をとり、タミル・ナドゥ州を訪れる視察ミッションなどの受け入れを行ってきた。また、日本政府が行うインターンシッププログラムにおいて、インターン生の受け入れ先になっている。

他方、スリランカの同窓会組織であるJapan Sri Lanka Technical & Cultural Association(JASTECA)は今日までに約4,000人に実務的なワークショップなどの機会を提供した。また、「5S大賞」を設立し、毎年、日本式経営や職業理念を導入した優れたスリランカ企業を表彰している。今年の表彰は3月3日に行われ、大企業ではアパレルMAS (アクティブ部門)、中規模企業ではファッションチェーンNolimit ラトナプラ店、小規模企業では情報通信サービスプロバイダーDialog Axiata PLCウェナプワ体験センターがそれぞれ金賞を受賞した。なお、JASTECAは、2011年の東日本大震災の際には、「何か日本の力になれないか」と、日本に400万円を寄付している。

AOTSの鈴木部長は、「日本から遠く、日本やその他の先進国とのチャンネルが限られた国・地域の同窓会の方が活発に活動している傾向がある」と説明する。確かに、インドのなかで比較すると、日本企業の投資はデリーやムンバイなどから始まり、その後、チェンナイなどインド南部も注目されるようになった。また、スリランカは四半世紀続いた内戦が2009年に終わり、これから再び注目される投資先である。ちなみに、アフリカで特に活発なのはスーダン同窓会だそうだ。

日本の「財産」が世代交代などで危機に

各国のAOTS同窓会が立ち上がってから数十年がたち、いくつかの世界共通の課題も見られる。中でも重要なものが「世代交代」だ。

同窓会を持続可能な状態にするには継続的な若手会員の加入が欠かせない。しかし、時代の変化により、各国の同窓会のメンバーの間でも意識に変化が生まれつつある。今は昔と違い、外国の情報を得ることも比較的容易になった。そのため、帰国後に同窓会に頼らなくとも、日本の情報を得ることが可能だ。また、日本に来ても、本国の家族・友人とはインターネットを通じて、毎日のようにテレビ電話が可能になった。

今の研修生たちも、日本で研修できたことに感謝はしているが、かつて(数十年前)の研修生たちとは、「帰国後の日本への思い入れの強さが異なる」とAOTSの鈴木部長は話す。前述のスリランカJASTECAのダヤシリ・ワルナクラスーリヤ名誉副会長は「われわれ、第1世代のように同窓会活動に100%コミットするメンバーも減ってきている。」と漏らす。

AOTSとしても、同窓会活性化のために、職員が現地出張した際はイベントを催し、さまざまな世代の同窓会メンバーが実際に顔を合わせて集まる機会を作るなど工夫をしている。


ダヤシリ名誉副会長(前列左から2番目)と「第1世代」の主要メンバー(ジェトロ撮影)

人的財産を活用するチャンスは今

今日、日本企業の海外展開は、大企業だけでなく、より規模の小さい企業も行うものになってきた。また、海外展開を行う企業の業種も製造業のみならず、サービス産業などの非製造業に広がってきている。さらに、展開先としてはASEANなどの近隣諸国からさらに遠くの国へと広がっている。(図参照)

このようななか、アジア各地に存在する日本や日本流ビジネスのことを理解・共感し、技術等を習得している現地産業人材のネットワークを使わない手はない。例えば、海外でビジネスパートナーを探している企業の場合、単にデータベースに登録された外国企業リストから選ぶビジネスマッチングと比較して、同窓会メンバーなら企業実態や内容についてもより詳しく知ることができるので、「多少の費用はかかるが、まずはAOTSにコンタクトしてほしい」と鈴木部長は紹介する(注)。

また、既に海外に進出している企業の場合、同窓会ネットワークを取り込むことも可能だ。社員がAOTSを利用して日本で研修すれば、帰国後には同窓会に入会できる権利が与えられる。入会すれば、同じ同窓会に加盟する企業にアクセスでき、「ここで新たなビジネスパートナーを発掘することもできる」(鈴木部長) 。

図2:多様化する日本企業の海外展開
 過去の例を見ると、海外展開を行う日本企業は大企業、それも製造業など一部の産業で、展開先の国も多くはなかった。しかし、近年は中小企業、それも製造業だけでなく、非製造業も、そして展開先の国も多様になってきている。全体的に海外展開をする企業は増加してきており、珍しいことではなくなってきた。図ではこれを三角形に横棒で、その横棒が下がってきていることで表現している。
出所:
筆者作成

世界のAOTS同窓会の抱える共通課題が「世代交代」であるが、特に新興国などの「第1世代」の知日産業人材ネットワークに日本の企業が積極的にアプローチをして、彼らの企業とビジネスが生まれれば、若い世代の同窓会への関心も高まり、参加も増えるという好循環が生まれるかもしれない。


注:
コンタクト先はAOTS海外展開サポートセンター
E-mail:kaigaitenkai-tu@aots.jp
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課長
小林 寛(こばやし ひろし)
1998年、ジェトロ入講。ジェトロ・ハノイ事務所(2004年~2008年)、企画部事業推進室(ASEAN・南西アジア担当)(2008年~2010年)、中小企業庁(2011年~2013年)などを経て現職。

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