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B2BのECは、購入プロセスデジタル化のバランスが鍵

2018年3月23日

世界的に盛り上がりを見せる企業対消費者取引(B2C)の電子商取引(EC)に対し、企業間取引(B2B)は注目度が低い。B2Cと類似の販売モデルを採用する企業も見られる一方で、B2Bの特性を理解し、EC販売を成功させる事例も出始めている。本稿では、B2Cとの比較や成功事例を交えながら、B2BにおけるEC販売の特質をひもといていく。

B2BにおけるECの現状

ECは、インターネットの利用により従来では難しかった需要と供給のマッチングを成功させる新たな販売チャネルとして注目を集める。大型ECサイトの台頭、新たな決済システムや物流サービスの拡充など、盛り上がりを見せるEC市場だが、多くの場合、その注目はB2Cに向けられる。成長著しいB2C市場には大きな関心が寄せられ、市場動向や販売手法など参照できる情報が多い。一方で、B2B(注1)への注目度はまだ高くなく、取引額などの情報も限られる。

ドイツの統計データ提供企業であるスタティスタは、2015年の世界のB2B電子商取引(EC)総額を約6兆9,000億ドル(前年比7.1%)と推計する(注2)(図)。 同データによればB2Bの取引額は2016年に約7兆3,000億ドル(前年比5.7%増)、2017年に約7兆7,000億ドル(同4.9%増)まで成長すると見込まれる。この成長を地域別にみると、世界のB2B取引額の8割を占めるアジア地域の2013年から2017年における年平均成長率が6.5%とされる一方で、北米市場の成長は同13.0%と試算されている。

図:世界のB2B電子商取引(EC)総額
世界のB2B市場規模の推移。2014年6.4兆円、2015年6.9兆円、2016年7.3兆円、2017年7.7兆円。世界のB2B市場成長率。2014年10.7%、2015年7.1%、2016年5.7%、2017年4.9%
注:
2016、2017年値は見込み
出所:
Statista Report 2017 B2B e-Commerce」(2017年4月)よりジェトロ作成

B2BのEC市場は非常に細分化している。主要B2B向けECサイトとしては、B2Cでも有力なアマゾンやアリババ、楽天などがある他、欧州を拠点とするメルカテオや中国のグローバル・ソース、インド最大のB2Bサイトであるインディア・マートなどが挙げられる。しかし、前述のスタティスタの報告書によると、最大とされるアリババでさえ市場シェアは2015年時点で7.0%にすぎず、最近の傾向としてニッチな売り手や購入者が集まる特定の産業に特化したB2B向けECサイトの台頭が見られる。

B2B市場の成長は、B2C成長やグローバル経済の深化に影響を受ける。ソフトウエアやクラウドサービスを手掛ける米オラクルが2013年に行ったアンケートによると、回答者の80%が、B2CにおけるECの成長がB2Bの販売手法に影響を与えていると回答した(注3)。米国コンサルティング企業のマッキンゼーは、企業間の競争では従来、製品・サービスの価格や質という要素が重要であったが、昨今のグローバル化の影響で、これらの要素に加えて顧客の購入プロセスをいかに満足なものにするかが新たな要素として必要性が増していると分析する。言い換えれば、顧客が自身の必要とする製品・サービスをよりスムーズに見つけ、発注を可能にするための効率化が求められ、その手段としてデジタル化の重要度が増している(注4)。

ただ、実際にはB2BにおけるEC活用には多くの企業が課題を抱える。米国コンサルティング企業のフォレスターがB2B販売を行う企業を対象に実施したアンケート調査によると、回答企業の97%が顧客の購入プロセスの満足度が自社にとって重要だと回答した。その一方で、98%がECなどを利用した販売に課題を抱えるとも回答している(注5)。

B2BとB2Cで異なるECの目的と顧客

B2BとB2Cでは、EC販売の目的に違いが見られる。B2CでECを活用する企業の多くは、従来、地理的要因などで獲得できなかった顧客の新規獲得を目指すことに主眼を置く。1回の購入金額は比較的小さく、1人の顧客の継続的な確保よりもいかに多くの顧客を獲得できるかを重視する。これに対しB2BのEC販売では、新規顧客獲得より、既存の顧客の購入プロセスの効率化と、それによる顧客の満足度の向上に重きをおく。これは、顧客の絶対数はB2Cに比べ少ないものの、顧客との継続的な取引関係を築き、顧客当たりの購入金額をより重視するためである。オフィスサプライや機械機器の販売を手掛ける米国のMSC インダストリアル・サプライでは、同社のB2B向けECサイトの販売のうち90%が既存顧客だという。

B2Cの顧客は個人である一方、B2Bは企業のため、買い手側には複数人の関係者が存在することも忘れてはならない。例えばある機械を購入する際、買い手側の企業にはその機械を実際に使用する労働者のほか、調達を担当する部署が関わる。製品の仕様変更が必要な場合、開発に携わる技術者も加わる。そのほか、機械搬入のための物流部門など、購入に多くの関係者が関与する点は、B2Cには見られない特徴である。

B2BのECサイトに必要な設計とは

次に、ECサイトの設計における、B2BとB2Cの類似点とB2Bで独自に必要な工夫について整理する。インターネットを通した新たな販売チャネルである他にも、B2BとB2Cに共通する点は多い。ウェブサイトデザインの単純化やサイト内検索の機能強化は、顧客のウェブサイト利用を容易にするための重要な要素である。また、企業による調達でもモバイル検索の利用が増加しており、これに対応するB2Bサイトも増加傾向にある。スマートフォンなどでのモバイル検索が浸透しつつあるほか、今後はミレニアル世代やジェネレーションZと呼ばれるITリテラシーの高い世代が増えるため、モバイル利用の増加は続くだろう。EC関連情報を提供するウェブサイトであるデジタル・コマース360(旧インターネット・リテイラー)の調査によると、米国のEC販売上位300社のうち、269社(89.7%)がモバイルでの閲覧に適したウェブサイトを導入している。

前述のような類似点がある一方で、B2BならではのECサイトの工夫も必要となる。例えば、一般的な消費者向け販売では、顧客は既存の製品を購入するか否かの選択しかない。これに対し企業間取引では、顧客ごとに製品の仕様を変えるケースが多い。産業機械の販売を手掛ける米国のプロト・ラボは、顧客自身がオンライン上で製品の仕様変更を完結させることができ、エンジニアや開発者からの評価が高い。また、B2Bでは売り手と買い手が共同で製品を開発することが多く、B2BのECではこれをオンライン上で行えるか否かが、顧客との関係性の構築あるいは維持のための重要な要素となる。販売側と購入側の両者が一つのプラットフォームを共有し、製品の開発状況などの情報を入手できる環境を整え、ECを活用しながらより効率的に共同開発を進める事例が見られる。

顧客ページのパーソナライズも重要な工夫の一つである。B2Bサイトでは、B2Cに見られるような顧客のプロフィルや購買履歴に基づいた製品の紹介にとどまらない顧客アカウントごとの対応が必要だ。前述のように仕様を変更した製品を顧客のアカウントごとに記録し、継続的な購入を可能にするほか、企業間の契約条項にのっとった価格や製品・サービスが簡単に手に入るようにする工夫も求められる。米コンサルティング企業のガートナーは、2018年までに70%のB2Bサイトが各顧客のニーズに応じたサイト設計などを導入すると予測する。また、こうした対応をとる企業とそうでない企業では売り上げに30%の違いが生ずるであろうと指摘する。

迅速な見積もり算出も顧客の購入プロセスの充実には欠かせない。前出のプロト・ラボでは、顧客が世界中に点在するため、全自動で見積もり算出ができるシステムを採り、顧客は時差によるプロセスの遅れを気にせず購入に進むことができる。

成功の鍵となるのはデジタル化のバランス

ここまで、デジタル化の重要度が増加するB2Bのうち、EC販売の特徴をB2Cと比較しながら概観した。前述の特徴を理解した販売業務のデジタル化は、EC販売の促進だけでなく社内の業務効率化やコスト削減にもつながる。一方で、人を介する非デジタルの要素も忘れてはならない。前述のMSC インダストリアル・サプライは、さまざまな手段で顧客からフィードバックを得るために、EC販売で集める顧客データに加え、営業担当者が電話で顧客とコミュニケーションをとる。電子機器やソフトウエアを販売する米HPは、営業担当者とEC担当者がそろって顧客を訪問し、ECサイトの利用を促す。こうした努力もあり、現在、同社の売り上げの約50%がECサイトからの販売だという。大阪府の肌着メーカーである福助ではECへ移行する際に、パソコンを利用したことのない得意先に対して、直接足を運んで説明し、理解を得ながら受注のデジタル化を進めた(注6)。

このようにデジタル化を進める際には、プロセスや販売する製品・サービスの違いによってデジタル化と人を介して行う業務のバランスを考慮することが必要だ。ある企業は多くの販売プロセスを自動化し、顧客のみで完結するようなシステムにしたところ、必要なときに営業担当者につながらないなど、かえって顧客に不便をもたらす結果になったという。例えば再発注など、単純かつ頻繁に発生する作業については、顧客もECサイトを利用した業務効率化を好む傾向にある。それに対し、初めてあるいは普段とは異なる購入や、取引金額が非常に大きな調達の場合、むしろ営業担当者など人を介した取引が好まれる。自社の製品・サービスや顧客の嗜好(しこう)を正しく理解し、バランスよくデジタル化を進めることが、B2BのEC販売の成功には不可欠となる。


注1:
本稿のB2Bには、電子データ交換(EDI)上の取引を含まない。
注2:
スタティスタ、「Statista Report 2017 B2B e-Commerce」(2017年4月)
注3:
「オラクル 2013年B2Bコマーストレンド」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.1MB) (2013年4月)
注4:
マッキンゼー・アンド・カンパニー、「Finding the right digital balance in the B2B customer experience」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2017年4月)
注5:
フォレスター、「B2B Omnichannel Commerce in a Machine Driven World」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2017年4月)
注6:
ECのミカタ(EC情報サイト)、「BtoB-EC化の成功事例「福助」【後編】-136年の歴史のコンテキスト」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2018年2月22日)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
長﨑 勇太(ながさき ゆうた)
2016年、ジェトロ入構。同年4月より現職。

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