摘発回避には環境部門との意思疎通が重要(中国)
広州で改正環境保護法に関するセミナー

2018年8月22日

ジェトロ広州事務所は7月27日、中国で2015年1月から施行された改正環境保護法(以下、改正法)上の企業側の義務や摘発事例などに関するセミナーを開催した。セミナーでは広東謝宏法律事務所の謝宏代表弁護士が登壇し、講演を行った。

改正法では、企業に対し周辺住民への環境に関する情報開示、社内での環境保護規定の制定を義務付けているほか、違法行為に対する罰則が強化された。一方、摘発事例の多くは企業側で問題を把握しないまま、環境部門から許可を得る前に生産を開始したことが原因となっており、当局とより緊密な意思疎通を図り、問題点の把握に努めることが重要である。

工場の新増築に環境保護手続きが必要

企業は、工場の新設、増築および改築の際、周辺住民から意見聴取を行い、環境影響評価報告書(注1)を作成する必要がある(参考参照)。

参考:建設プロジェクトに係る一般的な環境保護手続き

  1. 建設プロジェクトの申請
  2. 環境への影響について、周辺住民から意見聴取
  3. 環境影響評価報告書の作成
  4. 環境部門による前述3の報告書の審査及び許可
  5. 汚染防止施設の設計及び施工
  6. 環境部門による前述5の汚染防止施設に対する検査
  7. 汚染物質排出許可証の申請(注)
  8. 環境部門による汚染物質排出許可証の発給
注:
汚染物質の排出企業が対象。
出所:
セミナー配布資料

これまで地方政府は、企業が法的手続きを行う際、申請と同時にプロジェクトに着工し、後で手続きを行う「緑色通道」という優先手続きを設けていた。しかし、中国政府による環境規制が強化される中、こうした措置は今後、利用できなくなるとみられる。

また、汚染物質を排出する企業には、社内での環境保護責任制度の確立が義務付けられている。同制度により、環境保護に関する責任者(総経理など幹部に限定しない)を配置し、該当者の責任の明確化が求められる。これを行わない場合、環境部門による査察を受けた際に、処罰を受ける可能性があるため要注意だ。ほかにも、汚染物質の排出企業には、汚染物質排出費を納付する必要もある。

改正法が施行された後も、企業側で問題点をしっかり把握しないまま、環境部門から許可を得る前に生産を開始し、摘発を受ける事例が散見される。企業所在地における環境部門の管轄は、区、市、省などの各行政レベルの環境部門間で不明確なケースが多い。摘発を回避するには、環境部門とのやり取りを中国人社員に一任せず、日本人駐在員自らが当局へ出向き、当局側のキーパーソンを知ることや問題点を把握することが重要となる。

環境保護団体による公益訴訟提起が可能に

企業は、環境を汚染し、生態系を破壊し、周辺住民などに被害をもたらした場合、権利侵害責任法(2010年7月施行)の環境関連規定に従い、破壊行為の停止はもちろん、賠償などの民事責任を負う。

改正法には、公益訴訟に関する文言が明記されている。環境を汚染した企業は、改正法と権利侵害責任法に基づき、環境保護公益活動に連続5年以上専従し、かつ違法記録のない環境保護団体などから公益訴訟(注2)を提起され得る。

実際に2016年1月には、広州市内で汚染物質排出許可証を取得せず、鉄くぎのさび除去や電気メッキ処理などを行っていた業者の代表A氏が、広東省環境保護基金会から公益訴訟を提訴された。被告のA氏は、広州市中級人民法院での審理の結果、一審で周辺の環境に及んだ経済的損失額として41万6,000元(約665万円、1元=約16円)の賠償と、訴訟に要した弁護士費用などの全額負担を命じられた。

法院は被告に対し、生態系や土地をはじめ環境修復費用の負担を命じることも可能だ。企業は、土地や水質の完全修復には膨大な費用が生じる点に留意する必要がある(注3)。

違法企業に対する罰則を強化

改正法の施行後、企業に対する罰則が強化された。企業が違法に汚染物質を排出し、罰金の支払いや改善を命じられたにもかかわらず、これを拒否した場合、環境部門は企業側の改善措置が改善命令を出した日から1日遅れるごとに、当初の罰金額の同額を加算できることとなった。旧法では罰金額は通常50万元以下だったが、改正環境法には罰金の上限額が設定されておらず、対応が遅れるほど罰金額が増えていく。

ほかにも、地方の県級以上の環境部門は、環境汚染を行う企業およびその経営者、違法行為の内容などを公表できる。

また、県級以上の環境部門が汚染物質を排出する施設や設備を差し押さえるには、以前は1カ月以上前に法院に強制執行を申請する必要があった。しかし、改正法では、法院を介さず、環境部門が直接、差し押さえられるようになった。

当局の命令無視などで最長15日間の行政拘留

改正法施行後は、企業およびその経営者など(注4)が次の行為を行った場合、県級以上の環境部門は案件を公安部門へ引き渡し、同経営者などを10日以上15日以下の行政拘留に処することが可能となった。

  1. 法律にのっとった環境影響評価報告書を事前に作成せず、工場や生産工程の建設工事を実施し、無断での工事が発覚した後、環境部門による工事停止命令を無視した場合。
  2. 汚染物質排出許可証を事前に取得せずに汚染物質を排出し、環境部門による排出停止命令を受け、それを無視した場合。
  3. 汚染物質の測定データを改ざんし、違法に汚染物質を排出した場合。
  4. 国家が禁止する農薬を生産または使用して環境部門の使用停止命令を受け、それを無視した場合。

案件によっては、環境部門による査察に、公安部門の関係者が同行することもある。 国家規定に違反し、放射性廃棄物、伝染病の病原体を含む廃棄物、有毒物質を排出、放置するなどで重大な環境汚染をもたらした場合は、環境汚染罪に問われ、3年以下の懲役または拘留(注5)に加え、罰金を併科されることになる。汚染が深刻な場合は、3年以上7年以下の懲役(注6)と罰金が科される。

広東省東莞市内の企業B社は、環境影響評価報告書を作成せず、また汚染物質排出許可証を取得せず、銅およびその化合物を排水溝に排出していた。同市の環境部門では、2015年9月にB社を査察したところ、汚染物質の排出量が国家基準の24倍を超えることが判明し、翌2016年3月に本件を公安部門へ移送した。同市の公安部門は、2017年2月にB社の幹部C氏を逮捕・送検後、東莞市内の検察院はB社の行為は環境汚染罪に該当すると主張した。同市の法院で審理した結果、C氏には懲役6カ月、罰金5,000元の判決が下された。

改正法の施行により、地方および中央政府による摘発が近年、強化されている。2018年6月から7月にかけては、中央の環境部門が、黒竜江、河北、華南、内モンゴル、寧夏、江蘇、江西、広東、広西、雲南の各省・自治区で査察を行った。広東省では、この1カ月間で1,147社が処罰され、罰金額は計6,194万6,100元に上った。


講師の謝宏代表弁護士(広東謝宏法律事務所提供)

注1:
環境部門への確認の結果、環境への影響がわずかな場合、同報告書の作成は不要。その場合、環境影響登記表または環境影響報告表にその旨を記入すればよい。
注2:
公益訴訟の第一審は、(1)汚染行為または汚染被害の発生地、(2)被告の所在地のいずれかに所在する中級人民法院が管轄する。
注3:
土地使用権の譲渡などにより、汚染された土地の責任主体が変更となった場合は、被譲渡人または同使用権の売買に関わる双方が約定する者などが修復作業に対応する。
注4:
総経理、副総経理、汚染物質の管理者など。
注5:
3年以下の懲役または拘留が適用されるのは、次のケース。(1)基準の3倍を超える重金属等汚染物質を違法に排出した、(2)違法に3トン以上の危険廃棄物を排出、放置または処分した、(3)公有または私有財産を30万元以上損失させた、(4)(周辺住民の)30人以上に中毒症状が出たなど。
注6:
3年以上7年以下の懲役が適用されるのは、次のケース。(ⅰ)県級以上の都市で取水を12時間以上中断させた、(ⅱ)(周辺住民で)1人以上の死亡または重度後遺障害が生じた、(ⅲ)公有または私有財産を100万元以上損失させた、(ⅳ)(周辺住民の)100人以上に中毒症状が出たなど。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 次長
粕谷 修司(かすや しゅうじ)
1998年、ジェトロ入構。中国・北アジアチーム(1998~2000年)、ジェトロ青森(2000~2002年)、ジェトロ・香港事務所(2002~2008年)、知的財産課(2008~2011年)、生活文化産業企画課(2011~2014年)を経て、現職。