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産業高度化に向け、研究開発講座を開設(タイ)
日タイの官民連携による高度人材育成

2018年5月29日

タイでは、人件費などの生産コスト上昇を理由に、産業高度化に向けた、研究開発(R&D)に携わる高度人材の需要が高まっている。日タイ連携のR&D人材育成について概要を報告し、今後の課題について考察する。

コスト上昇から、製品の高付加価値化が必要に

ジェトロ・バンコク事務所によれば、2017年の在タイ日系企業数は5,444社であり、前回調査時(2014年)から877社増えている。また、2012年をピークに減少傾向にあった日本からタイへの直接投資額(認可ベース)も、2017年は5年ぶりに回復した(897億タイバーツ=約3,140億円、1バーツ=約3.5円)。

他方、現地日系企業が抱える課題は、他社との競争激化、人件費などのコスト上昇などである。ジェトロが実施した「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(2017年度)」によると、在タイ日系企業の81.9%が、主な競合相手は「他の日系企業」と回答した。「地場企業」が競合相手だという回答割合は58.4%であり、日系企業間の競争の激しさがうかがえる。また、バンコク日本人商工会議所によれば、在タイ日系企業は近年、年率5%程の賃上げを継続しており、コスト上昇が経営上の大きな負担となっている。

こうした課題の克服には、地場企業からの現地調達率向上によるコスト削減、また製品の高付加価値化や産業高度化が必要だ。これらの実現には、エンジニアや研究開発(R&D)人材など高度人材の育成が重要だ。

初のR&D人材育成プログラムを開始

そうしたなか、日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)と海外産業人材育成協会(AOTS)は、タイのキングモンクット工科大学において2018年2月から、製造業のR&D人材育成に係る寄付講座を開設した(注)。

同校の工学部の学生を対象に、本年度4回シリーズで、R&Dをテーマにした講座を開く。R&Dの専門家や、在タイ日系企業が講師を務め、機械の強度計算や摩擦分析など、産業ニーズに沿った分析方法を学生に指導する。

ちなみにAMEICCとAOTSは、日ASEAN経済産業協力の下、2016年より産学連携による寄付講座を各国で実施してきた。しかし従来は、物流基礎知識や工場の生産性改善などが主なテーマであり、R&Dをテーマにした内容は、今回のタイの講座が初めてだ。

ニーズに応じた問題解決能力を向上

講師派遣やカリキュラム策定などで、同講座に協力する日系企業(自動車部品)は、「顧客が欲しいものをどう実現するか考え、課題を克服し、設計する。それがR&Dの仕事だ」と指摘する。そのため、大学の研究内容をそのまま商品化することは難しく、産業界の声を反映させることが必要だという。

このため同講座では、あらゆる場面を想定し、学生同士で議論し、課題を解決する訓練も行う。知識は豊富だが、現場で製品を扱う経験が少ない学生に対し、自発的に提案する能力や、正確に顧客の要望や問題を把握する能力を身に付けさせるという。

さらに、同講座を受講した学生らを対象に、現地日系企業や日本でのインターンシップ、またジョブフェアも計画されている。

AOTSの担当者は「同講座は、大学の通常授業とずらして土日に実施している。それでも受講学生の人数は多い」という。また、同講座に協力する日系企業も、「今まで、R&D人材育成に産学で取り組むチャンスはなかった。優秀な学生の採用も検討したい」とコメントする。学生、企業ともに同講座への期待は高いと言えよう。


研修成果を発表するタイ人学生(AOTS提供)

議論を通じ、R&Dの考え方を学ぶ学生(AOTS提供)

R&D人材の獲得競争が激化

同講座の関係者は、「今後、現地日系企業の間で、高度人材の獲得競争が激しくなる」と指摘する。自動車産業などの製造業では、生産拠点とR&D拠点の近接性が、企業競争力の強化のために重要だ。そのため、既に多くの日系製造業が集積しているタイでは、現地企業間の競争はさらに激化する可能性がある。早急なR&D人材の確保は、企業が成長し、タイ国内での競争に勝つためにも必要だ。

周辺国との差別化にも産業高度化を

周辺国との競争についても同様だ。近年、インドネシアでは、自動車部品の輸出額が増加傾向にあり、同国に自動車部品産業が集積されつつあると言える。またフィリピン政府も2016年、自国の自動車産業の育成を目的に「包括的自動車産業振興戦略(CARS)」を導入した。各国における自動車部品の生産拡大は、中長期的には、タイからの輸入依存度を下げていく可能性がある。タイの産業競争力を維持するためには、R&Dなどを通じた新製品の開発が必要だ。やはり、早急な高度人材の育成が求められる。

タイ政府も高度人材確保に取り組む

タイ政府は、国の産業高度化に向けた方向性を示す「タイランド4.0」構想の下、タイを魅力的なR&D拠点とするための政策の一環として、2018年2月から「スマート・ビザ」制度を導入した。同制度は、先端産業で働く外国人の高度技術者に特別ビザを発行し、対象者とその家族が、タイで労働許可証なしで就労することを認めている。高度な技術を有する専門家を海外から誘致し、国の産業全体の高度化につなげる意向だ。

こうしたビザ制度の緩和は、日本企業も要望していたものであり、その実施は評価される。しかし、中長期的にタイが競争力を高めていくためには、基礎教育を含めた、タイ人の高度人材育成そのものが求められると言えるだろう。


注:
AMEICCは、1998年に日ASEAN各国首脳による合意に基づき設立。AOTSバンコク事務所内に事務局を有し、日ASEANの高級経済事務レベル会合にかかる業務(連絡調整、会議運営、原案作成など)を担う。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
田口 裕介(たぐち ゆうすけ)
2007年、ジェトロ入構。海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所出向(2014~2017年)、アジア大洋州課(2017~2018年)。2018年より現職。

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