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景況は良く、経済成長は堅調
世界主要国・地域の最新経済動向セミナー報告(中東欧)

2018年2月2日

ジェトロは2017年12月7日、「中・東欧最新経済動向セミナー」を東京で開催した。自動車産業をはじめとする製造業の集積地として経済成長を続ける中・東欧諸国のビジネス環境や日系企業の動向に加え、電気自動車(EV)やインダストリー4.0を巡る動き、また南東欧のビジネス環境やドイツの自動車産業の動向などについて、各国に駐在するジェトロ事務所長が解説した。


講演するブダペスト事務所の本田雅英所長(ジェトロ撮影)

ポーランド経済は安定、新たな成長戦略も

ワルシャワ事務所の牧野直史所長は冒頭に、「欧州連合(EU)加盟国が軒並みマイナス成長に落ち込んだ2009年もプラス成長を遂げたポーランド経済は、欧州では随一の安定を誇り、ここ20年で着実に経済規模を拡大し、EU内での存在感を高めている」と説明した。自動車、白物家電や航空機など幅広い製造業の集積が進んでいることに加え、欧州最大のビジネスセンター集積地でもあり、日系も含め、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)やシェアード・サービス・センター(SSC)の投資案件数が拡大している。また、失業率が低下し、人手不足が中・東欧地域共通の課題であるが、ポーランドについては局地的な現象であり、村レベルで失業率・賃金水準も変わってくるため、進出の検討にあたっては、事前調査が重要であること、東部ではまだ失業率が高く、労働力に余裕があること、またウクライナ人労働者が人手不足を穴埋めしている状況を説明した。

東部地域はインフラが未整備であるが、EUからの補助金を使った交通インフラ整備が計画されており、ここ数年で投資先としてポテンシャルがある。ごみ処理や鉄道インフラ事業にもEU基金の拠出が計画されており、日系企業にもビジネスチャンスがある。また、ポーランドがEU中期予算(2014年~20年、各年最長 3年繰り越し可能)の最大受益国となっているが、中期予算期間以降の経済対策をどうするかが課題となっている。政府は、中期成長戦略である「責任ある開発戦略」を2017年2月に閣議決定し、EVやスタートアップ支援、インダストリー4.0などの自国経済を強化する新たな動きにも重点を置いている。最高裁判所裁判官の人選に政府が介入する権限を持たせる法改正を巡り与野党の争いが表面化するなど、政治動向がリスクとなる可能性はゼロではないが、国内では与党の支持率が高いことに加え、基本的にはEU離脱の意思はないと説明した。

ハンガリーは消費が好調、日本食にも参入機会

ブダペスト事務所の本田雅英所長は「好調な輸出産業と消費にけん引され、ハンガリー経済は成長軌道にある」とし、国内の消費市場は好調であり、ショッピングモールに出店する外国系フランチャイズ企業の様子などを紹介した。また、欧米やアジアの自動車および電気電子製造関連企業の集積地となっており、高い教育水準で多言語に対応できる質の高い労働力を供給するが、企業が集中する中部、北西部地域を中心に人手不足が顕在化している。投資に係る課題として、人手不足に加え、急な政策の変更によるビジネス環境の予見性の低さや雇用経費に占める社会保障負担が高いことを挙げる反面、優れた面としては、政府補助金などの企業に対するインセンティブや、鉄道や高速道路など国内の交通アクセスの良さがある。また、健康志向の高まりなどにより、和食系の飲食店も数は増加しており、日本食材売り込みの機会が到来している。

EVに関しては、政府が税金控除や関連インフラの整備などの導入に力を入れているとしたほか、企業の関連ビジネスの動向を解説した。インダストリー4.0に関しては、政府の再工業化政策(イリニ計画)や産官学連携の推進機関の活動に触れるとともに、人材育成や中小企業への普及が課題であるとした。また、スタートアップビジネスについて、サイバーセキュリティーや暗号化技術の得意分野や、主なインキュベーターの紹介を行った。

英国のEU離脱(ブレグジット)については、在英企業や在英EU機関などの移転や在英ハンガリー人の帰還への期待について説明した。

チェコは人手不足により賃金高騰、地方にはすき間も

プラハ事務所の村上義所長は、今後のチェコ経済について、賃金高騰などによる民間消費とEU補助金や税収増を活用した総固定資本形成がけん引力となり、好調な伸びとなる見通しを示した。2017年10月の国政選挙で最大与党に勝利した中道右派の与党ANO2011のアンドレイ・バビシュ首相について、政治的な不透明性には注意が必要だが、首相自身は実業家出身で経済政策を重要視するため、企業に対して、政権交代による大きな悪影響はないとの見方だ。また、失業率が低く、人手不足により賃金の上昇に抑えがきかない状態である一方、北部は比較的失業率が高く、場所を選べばある程度の労働力を確保できることを紹介した。

ビジネス環境については、チェコは欧州の自動車産業の集積地になっていると述べ、プラハから400キロメートル圏内に22カ所の生産工場と11カ所のリチウム電池生産拠点が存在、また、国内には3カ所のリチウム鉱床が存在する。チェコに投資する日系企業は250社以上にのぼり、37億ドルを上回る投資を行うなど、チェコインベストによればドイツに次いでチェコ経済に貢献しているとされている。

EVに関しては、急速に普及するとは思わないとしながらも、政府が策定した「チェコ自動車産業の将来に関するアクションプラン」を取り上げ、政府がEVの購買支援に関する分析や自動運転のテスト環境づくりの計画を行うなど、EVや自動運転に対する政府の取組を紹介した。ジェトロによる日系企業支援の取り組みとして、2018年1月にフォルクスワーゲンと日系企業の商談会を予定している。インダストリー4.0について、2017年9月に国立インダストリー4.0センターが発足、発足メンバーにはチェコの産官学の主要メンバーが並び、大学なども熱心に企業との協力関係を結んでいる。

ブレグジットの影響については、対英輸出の割合は大きくないものの、ドイツ経済への依存度が高いことから、ドイツがブレグジットの影響を受ければ、特に自動車部門でチェコにも波及する可能性がある。

ルーマニアでは国内資源などにポテンシャルが存在

ブカレスト事務所の水野桂輔所長は、ルーマニア経済に関して、豊富な資源、食料、人口などのポテンシャルを有するも、根深い汚職、非効率的な行政、国民の極端な経済格差などにより、それを十分に活用しきれていない実態があるとした。国内総生産(GDP)の成長率は2016年、2017年(第3四半期まで)とEU内でもトップクラスであり、安定成長のけん引役は内需である。また、ルーマニアの労働者は、外国語に堪能な人材が多いほか、理数系の大学進学率は西欧に比べて低いものの、国際数学オリンピックで上位層に入るなど理数系のポテンシャルがあり、ITエンジニアが活躍できる素地(そじ)がある。失業率は約5%で人材確保が難しい地域もあるほか、1年に複数回、急激なスピードで最低賃金引き上げが行われている。加えて、突然の税制改正があるほか、汚職問題はいまだ根深く、「緊急命令」として議会の審議を経ない唐突な法改正や税制変更があるなど、政治リスクが経済リスクになる可能性に注意するべきとの見方も示した。税制に関しては、付加価値税や法人税、個人所得税の税率がEU内で低い水準にあるが、2018年1月から、個人所得税は16%から10%にさらに減税される。ただし、これは社会保険負担を雇用者から被雇用者に大幅に振り替える措置と同時に行われるものであり、被雇用者の負担減というわけではないことに注意が必要だ。国内での日系企業の動向について、自動車関係に加え、飲料品やゲーム、教育などの関連企業も進出しており、バラエティーに富んできている。製造業に対しては、2017年に一部制度変更があったことで、国家補助を利用しやすくなっており、特に失業率の高い地方での補助は大きい。また、ルーマニアから日本への輸出額自体は大きくないが、日本は木材の主要輸出先になっている。

スタートアップに関しては、政府が補助金などのスタートアップ支援プログラムの公募を行ったところ多くの企業が応募し、相当な倍率となっているとした。また、優れたインターネットの通信速度を持つものの、都市・地方間での普及格差が大きく、特に地方で電子化が進まない状況にも触れた。

南東欧諸国は全体を俯瞰してみることが重要

ウィーン事務所長の阿部聡所長は、スロバキアのほか、南東欧諸国(スロベニア、クロアチア、ブルガリア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、モンテネグロ、コソボ、アルバニア)について解説した。他国と比較して日本企業の存在感は低いものの、「地域の魅力は増しており、歴史的につながりの深いこれらの国は地域全体で見ることが重要」と述べ、民族、宗教など多様性がありながらもつながりの強い南東欧諸国を俯瞰(ふかん)的にみるべきと強調した。経済状況についても、各国間に相当の格差があるものの、失業率は全体的に高く、賃金上昇が急に発生する状況にはないこともあり、高速道路など交通インフラが整っていて優秀な人材も確保しやすい同地域は、製造拠点などとして有望な場所である。また、リーマン・ショックや欧州債務危機などの経済危機からの回復が遅れていたが、2015年ごろから内需の伸びで回復傾向にあり、2016年は輸出、個人消費、設備投資など幅広い分野が成長に貢献、2017~2018年にかけてもさらに成長する見通しとなっており、市場としての可能性も高まっている。

南東欧各国については、セルビアやスロバキアでのジェトロ事業の概略を紹介したほか、各国のEV普及施策やブレグジット関連の動向の解説。中国の「一帯一路計画」の中・東欧における動きについても言及したほか、中・東欧と東アジアを結ぶ最短・最安・急成長中の港で、日本企業の利用も伸び始めているスロベニアのコペル港の現状を説明した。また、スロベニアの首都リュブリャナにある巨大ショッピングモールで行われる、ビッグデータの実証事業を行うことが可能なスマートシティ・プロジェクトについても説明した。このショッピングモールは世界で唯一実際の経済活動が行われる場所でのレベル5(注)の自動運転テストベッドでもある。

日系企業も新技術開発に投資

デュッセルドルフ事務所の渡邊全佳所長は、中・東欧経済に影響を与えるドイツの自動車産業について、最近の動向を解説した。ドイツでは、2015年のフォルクスワーゲンの排ガス不正問題を機に、脱ディーゼル・EV普及の動きが進み、政府も買い替え支援策などを実施している。国内市場はBMWやフォルクスワーゲンなど国内メーカーが上位シェアを握り、国内ブランドのEVの売れ行きを下支えしている。また、充電インフラも整備が進んでいる。

日系企業の動きとして、ドイツ国内での自動車軽量化・EV化への取り組みが活発であると指摘した。また、ドイツは自動運転関連の特許の保有数が世界一であり、自動運転分野でも日系企業の投資が見られる。また、燃料電池車(FCV)に用いる水素技術開発についても日系企業が参画したプロジェクトが進行するなどの動きがある。

セミナー会場には、中・東欧各国の在日大使館や投資誘致機関による情報提供ブースが設置され、セミナーの休憩や終了後には各国担当者と来場者との交流も見られた。


講演の合間には各国担当者と来場者の活発な交流も見られた(ジェトロ撮影)

注:
自動運転の水準での中で、人間が対応可能な全ての道路状況・環境下で自律的な走行ができるレベル。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。

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