1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 高まる経済成長、リスクを踏まえた新ビジネス戦略とは(南西アジア)

高まる経済成長、リスクを踏まえた新ビジネス戦略とは
世界主要国・地域の最新経済動向セミナー報告 南西アジア

2018年1月9日

ジェトロは12月11日、南西アジア最新経済動向セミナーと題し、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカの現地ジェトロ所長による講演会を開催した。各国の最新経済動向、日本企業の進出状況、投資環境を読み解くポイントについて報告する。

2カ国で7%台の経済成長

インドの2016年度(4月~翌3月)の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年から鈍化しつつも7.1%となった。2017年度について政府は6.75~7.5%と予測する。2016年末の高額紙幣の無効化や、2017年7月の物品サービス税(GST)の導入など痛みを伴う経済改革はあったが、四半期ベースのGDP成長率では既に景気は持ち直し始めている。

バングラデシュも2016/17年度(7月~翌6月)は同7.2%となり前年度に続き7%台の高成長を維持した。同国では主に中東諸国に多い出稼ぎ労働者の仕送りが景気を下支えしており、直近10年間は6%以上の成長を続ける。2017/18年度も6%後半の成長を目指す。同国は2019年までの中所得国入りを目指している。

パキスタンは2008/09年度(7月~翌6月)以降、経済成長が加速しており、2016/17年度は同5.3%を記録した。2017/18年度の成長率も6.0%を予測しており、さらなる飛躍を目指す。同国は内需の拡大や中国パキスタン経済回廊(CPEC)関連のインフラ開発に伴い経済は活性化しているが、貿易赤字の拡大が恒常的な課題となっている。

スリランカの2016年度(1月~12月)の実質GDP成長率は4.4%と落ち込んだ。同国は2011~2016年度の平均成長率は5.3%と経済成長が鈍化している。サービス産業がGDPの半分以上を占める構図で、製造業の増強が課題と言われる。2017年度について政府は前年を上回る4.5%程度の成長を予測している。

表:実質GDP成長率の推移(単位:%)
国名 2014年度 2015年度 2016年度
インド 7.5 8.0 7.1
バングラデシュ 6.6 7.1 7.2
パキスタン 4.1 4.5 5.3
スリランカ 5.0 4.8 4.4
注:
各国の会計年度は次のとおり。
インド:4月~翌3月
バングラデシュおよびパキスタン:7月~翌6月
スリランカ:1月~12月
出所:
各国政府発表資料より

日系企業数の伸びに一服感

インドに進出する日系企業数は、前年比64社増の1,369社(2017年10月時点)となった。年100社ペースで日系企業が増加していた時期もあったが、仲條一哉ニューデリー事務所長は「新規進出に若干の陰りがある一方で、製造業を中心に二次投資は続いている」と語る。本庄剛ムンバイ事務所長は、インド企業との合弁企業の撤退事例に触れ、「インド企業に世代交代があり事業継承がうまくいかなかったケースもあった」と指摘した。2017年11月に新設されたアーメダバード事務所の北村寛之所長は、「当地に進出する日系企業は二十数社と少ないが、近年の日系完成車メーカーの進出もあり、毎年倍増に近いペースで企業が増えている」と総括した。

日系企業のインドビジネスは、今後も、自動車や電機、産業機械などを中心とした製造業がリードするとみられるが、モノ作りでは地場企業との厳しい価格競争は避けて通れない。一方、新たなビジネスチャンスとして注目されるのがサービス分野での進出だ。日系では「無印良品」を展開する良品計画がインドで順調に店舗網を拡大。さらに、ファーストリテイリングが「ユニクロ」ブランドでの小売り展開をするための申請書を政府に提出したとの報道もある。菓子メーカーのヨックモックや、「ロイズ(ROYCE’)」ブランドでチョコレートの製造販売を手掛けるロイズコンフェクトもインド進出を果たしている。最近では日本食をキーワードにインド人をメインターゲットとした食品関連企業によるインド展開の動きも複数聞こえてきている。

バングラデシュの進出日系企業数は255社(2017年7月時点)で、前年比10社増加した。進出企業の約半数が縫製業に従事しており、その他では味の素やロート製薬などの消費財関連の企業や、IT関連企業が目立つという。新居大介ダッカ事務所所長は「2016年のテロ事件以降、企業数の伸びは足踏みをしている」という一方、バングラデシュ進出のメリットとしてコスト有利点を挙げ、「ワーカーの賃金が非常に安く、中国の縫製工場をバングラデシュにシフトする動きが続いている」とした。さらに、「日本の政府開発援助(ODA)プロジェクトに関与する企業の訪問が急増している」と指摘。具体的には、「設備、産業用機械、食品、消費財、金融、環境・省エネ(水処理など)などの企業が目立っている」とした。


バングラデシュの最新事情を説明する新居ダッカ事務所長

パキスタンの進出日系企業数は前年調査とほぼ同数の83社(2017年8月時点)。久木治カラチ事務所長は「パキスタンでジャパンブランドの存在感が最も強いのは自動車産業だ」と述べる。輸入車を含む自動車の市場規模は30万台程度だが、日系の乗用車市場シェアは100%に達しており、スズキ、ホンダ、トヨタが工場を構える。二輪もホンダとヤマハが製造しており市場シェア拡大を狙う。ジェトロの進出日系企業実態調査(ジェトロ調査)によると、パキスタンに進出する日系企業の事業拡大意欲は毎年極めて高く、黒字化率も他の南西アジア諸国の追随を許さない。同所長は「パキスタンの日系製造業は従業員の賞与を4カ月分支払っている。これこそ業績の良さを物語る数字だ」と指摘する。


パキスタンの最新事情を説明する久木カラチ事務所長

スリランカに進出する日系企業の数は約130社(2016年7月時点)。2014年の前回調査から10社程増えている。進出業種の中心は、自動車部品や縫製業などの製造業関連企業、さらに建設や商社・サービスなどだ。小濱和彦コロンボ事務所長によると、「製造業は基本的に輸出がメイン」とのことで、前述のジェトロ調査では、アジア地域で欧米向けの輸出比率が最も高い。他方、インド人や欧米人などの観光客が近年急増しており、同所長は「陶器を現地生産するノリタケがインバウンド向けの店舗を開設したところ、顧客の7割が観光客で、売れ行きが好調」と指摘。さらに、「文房具のプラスが販売を開始するなど、徐々に内需狙いの進出も出始めている」とした。さらに「スリランカは食のタブーが少ないので外食チェーンなども進出しやすいようだ」と魅力を語った。

投資環境を読み解くポイントは

南西アジア4カ国は、世界銀行の「Doing Business 2018」で全ての国が100位以下と、投資環境の厳しさが際立つが、各国とも投資環境の改善に向けた取り組みを進めている。

インドは、高額紙幣の無効化による経済の透明性の向上に続き、2016年12月には破産倒産法を成立させ、企業の破産処理手続きを円滑化し、企業の新陳代謝を加速。これに物品・サービス税(GST)の導入も重なり、「Doing Business 2018」の順位を前年130位から大きく引き上げ100位とした。投資有望分野としては、仲條ニューデリー事務所長は「政府が巨額資金を投じるインフラ整備分野があり、日本企業への期待も高い」としながらも、「政府相手のため急な方針転換などに要注意」とした。加えて、「安価な高度IT人材を活用したIT分野や、健康をキーワードにした消費財分野も有望」とした。一方、リスクとしては「人件費の上昇」を挙げた。近隣諸国とのコネクティビティという観点では、「西側のアフリカ向け輸出のみならず、東側のインド北東州やバングラデシュからミャンマーを経由しタイにつながる物流の可能性も模索したい」と意気込みを語った。


質疑応答に応じる南西アジア8事務所所長

バングラデシュの投資環境について、新居ダッカ事務所長は「ダッカは活況を呈し、ビルも立ち並び一頃の最貧国の面影はない」と評しつつも、「投資上の課題も山のようにある」と認めた。バングラデシュは元来、親日的な国民感情を有し、縫製産業などに強みを有する安価な労働力が売りだ。政府は産業政策の中で、農業・アグロフード、縫製業、情報通信技術(ICT)、製薬、皮革、軽工業などを優先分野として掲げ、日本企業の投資にも期待を寄せる。他方で、「インフラ整備の極端な遅れ、ガバナンスとコンプライアンスの脆弱(ぜいじゃく)性、硬直的な金融・徴税システムといった課題が日本企業を悩ませている」とした。日本とバングラデシュ政府は日バ官民合同経済対話の場で課題解決に向けた協議を重ねている。新居所長は、ジェトロ事務所を訪問する日本人出張者の増加を歓迎しつつも「海外安全情報(危険情報)はレベル2(不要不急の渡航は止めてください)に設定されており、渡航には十分に注意いただきたい」とした。

パキスタン経済について、久木カラチ事務所長は「主要産業が綿花の栽培であり、今でも天候頼みから脱せない」と指摘。一方、近年同国では中国の存在感が急速に増している。「中国はパキスタンを南北に貫く道路を整備し、自国製品の輸出、さらには中東からの石油輸入の要衝とする考えだ」という。パキスタンにとっても自国のインフラ整備は急務であり、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)はまさに両国の思惑が一致したプロジェクトだ」と評した。パキスタンは、不安定な治安、煩雑な税務手続きや電力不足、急な政策変更などの課題も多いが、2億人超の人口を背景にした旺盛な消費欲があり、外資に対する規制も少なく、労務管理がしやすいなどの魅力もあるといえる。久木所長は「ぜひ一度はパキスタンの現状を見に来ていただきたい」と述べた。

スリランカの人口は約2,000万人にとどまり、億単位の人口を抱える他の南西アジア諸国と規模が違う。政治面では2015年1月に政権交代があり、前政権までの中国依存体質から脱し全方位外交に転じた。小濱コロンボ事務所長は「新政権になってから特に東アジア、東南アジア諸国連合(ASEAN)へのアプローチが強まったように感じる」と分析。スリランカの発展レベルはASEANに近く、自動車の保有率はインドの3倍、識字率は9割を超える。自由貿易協定(FTA)はインド、パキスタンと締結済みだが「シンガポール、中国とのFTAが締結準備中」という。また市場の特徴について「同国は高齢化がASEAN並みに進んでおり、国民の関心ごとは高齢者ケアや生活習慣病対策にある」と指摘。スリランカではこうした国情に合わせた商機を狙うのも一案と言えよう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
西澤 知史(にしざわ ともふみ)
2004年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ山形、ジェトロ静岡などを経て、2011~2015年、ジェトロ・ニューデリー事務所勤務。2015年8月より海外調査部アジア大洋州課勤務。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ