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急成長する東北地域のロボット産業(中国)

2018年9月20日

ロボットや人工知能(AI)を活用した生産の自動化は、労働力不足、人件費の高騰、製造業の高度化や品質の向上など、中国製造業が抱える課題を解決する有力な手段として注目されつつある。かつて重工業の集積地だった中国東北地域は、ロボット産業の発祥地として知られ、現在では瀋陽新松ロボット、ハルビン工業大学ロボットに代表されるロボット企業が世界の注目を集めている。中国のロボット関連企業は、産学官連携や技術面での外国企業との協業を進めており、今後、製品開発、部品調達、販路開拓、人材育成など多くの分野において日中相互協力の余地がある。

世界最大の産業用ロボット市場

国際ロボット連盟などによると、中国は2013年に世界最大の産業用ロボット市場となった。年間の新規導入台数は、2012~2017年の間に、2万3,000台から14万1,000台まで増加し、世界全体に占める比率も14.4%から36.4%へと拡大した(表1参照)。

背景には、中国において労働力確保が企業の大きな経営課題となっていることがある。中国の労働力人口は2012年に減少に転じ、高度成長を支えてきた人口ボーナスも消失しつつある。人件費の高騰も経営課題となっている。加えて、製造業の高度化や品質向上のため、また中国の経済発展の牽引役として、ロボット産業への期待が高まっている。

表1:中国と世界の産業用ロボット導入台数の推移 (▲はマイナス値)
中国 世界全体
台数
(万台)
前年比
(%)
世界市場シェア
(%)
台数
(万台)
前年比
(%)
2012 2.3 1.8 14.4 15.9 ▲4.2
2013 3.7 59.0 20.1 17.8 11.9
2014 5.7 56.2 25.8 22.1 24.2
2015 6.8 20.0 26.7 25.4 14.9
2016 9.0 31.3 30.6 29.4 15.7
2017 14.1 58.1 36.4 38.7 31.6
出所:
国際ロボット連盟および中国ロボット連盟の公表資料を基にジェトロ作成

中国のロボット産業に詳しい専門家によると、「中国は2020年までに産業用ロボットの年間生産台数は15万台、保有台数は80万台となり、ロボット産業全体の付加価値額は1,000億元(約1兆6,000億円、1元=約16円)を超える」。中国の産業用ロボットは自動車産業向けが約4割を占めており、瀋陽華辰BMW、瀋陽GM、長春一汽、一汽トヨタ、哈飛自動車、東安自動車エンジンなど大手自動車メーカーが集積している中国東北地域は、産業用ロボットの継続的な需要が期待できる。

製造業の高度化によりロボット産業の発展が加速

「中国製造2025」を掲げ製造大国から製造強国を目指す中国にとって、ロボット産業の育成と発展は国を挙げた重点政策となっている。2010年以降、中央政府と地方政府はスマート製造業、とりわけロボット産業の発展を推進する政策を多数制定した(表2参照)。

2014年8月に国務院が発表した「東北振興策」では、東北地域の資源、資本、技術、人材を活用しながら、AIやロボット産業を次世代の成長エンジンとして集中的に育成する方針を明らかした。それを受けて東北地域ではロボット産業パークが計画され、従来の技術研究を基礎として、産業用ロボットの大手企業、産学官連携が進められるようになった。

さらに、2015年11月に北京で開催された「世界ロボット大会2015」において、李克強首相が「ロボット産業の第13次5カ年計画(2016~2020)の制定を急ピッチで進め、中国国内におけるロボットの研究開発や普及、応用、基準制定などの発展を支援する」と述べた。

表2:中央政府および東北3省地方政府による主要なロボット産業振興策
公布年月 発布機関 名称 概要
2010年10月 国務院 「戦略的新興産業の育成発展に関する国務院の決定」 戦略的新興産業の一つとして、ハイエンド設備製造業を挙げた。
2013年12月 工信部 「産業用ロボット産業発展の推進に関する指導意見」 産業用ロボットの応用と推進は中国の産業構造調整と転換・高度化において重要な意義を持つと明記された。
2014年8月 国務院 「東北地域振興に関する幾つかの重大政策措置意見」 東北地域の振興におけるロボット産業の重要性を強調した。
2014年12月 瀋陽市政府 「ロボット産業の発展と科学技術の革新支援に関する実施意見」 ロボット産業は瀋陽市の最も重要な発展産業であるとした。
2015年1月 遼寧省政府 「遼寧省、ロボット産業の発展を推進する実施意見」 遼寧省にロボット産業及びスマート設備産業基地を建設するとした。
2015年5月 国務院 「中国製造2025」 中国を「製造大国」から「製造強国」へシフトする10大戦略分野の1つとしてロボット産業を挙げた。
2016年1月 黒龍江省政府 「黒龍江省、新興産業の育成と発展に関する3年実施方案」 ハルビン工業大学ロボット社とハルビン博実自動化2社を中心として国家の重要なロボット産業クラスターを創出し、2018年までに省内のロボット生産額を50億人民元に到達させるとした。
2016年3月 工信部 「ロボット産業発展計画」(2016~2020年) ロボット産業の発展を実現するための5大主要任務、5大重要部品目標、10大製品目標を定めた。
出所:
中央政府および地方政府の公表資料、各種報道を基にジェトロ作成

中国のロボット産業は、「珠江デルタ」「長江デルタ」「北京・天津・河北省」「東北」「中部」「西部」の6地域に集積している。中でも東北地域は中国におけるロボット産業の発祥地として知られる。1980年には、中国初の産業用ロボットが中国科学院瀋陽自動化研究所で誕生した。同研究所の所長を務めていた蒋新松氏は、中国でのロボット産業の初の研究者として「中国ロボットの父」と呼ばれ、2000年に設立された新松ロボット自動化の社名の由来になった。また、1986年にハルビン工業大学ロボット研究所がアーク溶接ロボットとスポット溶接ロボットの開発に中国で初めて成功したことが、産業用ロボットの国産化における重要な一歩となった。

現在、中国東北地域のロボット産業は主に瀋陽市、ハルビン市、撫順市に集積しており、大学や研究機関のほかロボット関連企業も急増している。2017年の東北地域のロボット産業の累積集中度CR5(上位企業の事業分野占有率の合計値)は50%で国内1位、ロボット関連企業数は257社、ロボット生産額は430億元となっている。溶接ロボット、移動ロボット、塗装ロボットの部品と完成品の製造、加工および産業のイノベーションを中心として、ロボット産業クラスターを形成しつつある。特に多関節産業ロボット、特殊ロボット、自動化設備などの研究開発、製品化の水準は全国でも上位にある。2017年には、産業用ロボットイノベーション企業上位10社に東北地域の3社がランクインした(表3参照)。

表3 :2017年中国ロボットイノベーション企業上位10社
順位 所在地 企業名 上場の状況
1 東北地域 瀋陽新松ロボット 上場済み
2 長江デルタ 安徽埃夫特智能装備
3 珠江デルタ 広州数控設備
4 長江デルタ 南京埃斯頓自動化 上場済み
5 長江デルタ 上海新時達機器人
6 東北地域 ハルビン博実自動化 上場済み
7 東北地域 ハルビン工業大学ロボット 準備中
8 珠江デルタ 大疆創新科技
9 珠江デルタ 広東伯朗特智能装備 上場済み
10 珠江デルタ 深セン華数機器人
出所:
中国賽智産業研究院「2017~2018年中国ロボットイノベーションTOP100」よりジェトロ作成

また、東北地域ではロボット企業が人材育成と産学連携を積極的に進めている。2014年には、新松ロボット、東北大学、中国科学院瀋陽自動化研究所が、ロボット研究者養成のための専門機関となる「東北大学ロボット学院」を設立した。また、2016年4月には、新松ロボットを中心に計38の企業、大学、研究機関および金融機関で「瀋陽市ロボット産業連盟」を立ち上げた。企業・大学・研究機関相互の協力と交流を強化し、産業クラスターを形成することが狙いだ。さらに、2017年11月に、中国最大のロボット産業基地である「スマート産業パーク」が瀋陽市渾南新区で稼働した。

日本企業との連携を模索する中国企業

中国のロボットメーカーは日本企業との連携を模索している。瀋陽市のある企業は、産業用ロボット、スマート物流、協働ロボットの原料調達、新製品の研究開発および部品調達について日系商社と連携しているほか、日系部品メーカーからロボット用電子部品を仕入れているという。そのほか、東北地域のロボット企業にヒアリングをしたところ、ロボットの研究開発、生産、販売の国産化に向けた取り組みを進める中、技術、業界基準、知的財産権、測定・認証などの分野で日本の企業や研究機関との提携を進めたいとの声が多かった。

2017年11月、ジェトロ初となる中国ロボット企業訪日商談・視察ミッションを実施した。参加したのは、2016年4月に遼寧省瀋陽市で設立された「瀋陽市ロボット産業連盟」の加盟企業9社(表4参照)で、中国を代表する産業用ロボットメーカーの瀋陽新松ロボットなどが含まれる。一行は東京ビッグサイトで開催された「2017国際ロボット展」を視察し、同展示会に併せてジェトロが主催した「日中ロボットビジネス商談会」で日本企業約20社と商談したほか、「ロボット産業特区」のある神奈川県の投資環境も視察した。参加したあるロボットメーカーは、「交通アクセスの良さ、豊富な人材、産業の集積、手厚いインセンティブなどから、横浜は研究開発の拠点設置に適している」と述べた。今後は中国のロボットメーカーが、日本の人材などを活用して技術力の向上を図るため、日本に研究開発拠点を設置する動きが出てくるものと思われる。

表4 :瀋陽市ロボット産業連盟主要企業概要
No. 企業名 設立年 事業内容
1 瀋陽新松機器人 2000年設立 各種ロボットの開発・製造・販売。他に、産業用ロボットシステムソリューションの提供、スマート設備システムソリューション(スマート物流、自動化生産ライン、3Dプリンター、エネルギー設備、スマート交通設備など)の提供
2 瀋陽中科博微自動化技術 2003年設立 オンラインによる各種コントロールシステム、スマート設備、工業通信、工業用計測器、コントロールソフトウェアの開発、製造、販売
3 瀋陽高精速控智能技術 2004年設立 NC旋盤や工作機械に係る開発・製造を行っていたが、近年ロボット分野へ参入。サーボシステム(コントローラー、モーター、ドライブ)、IoT、ロボット(塗装用、搬送用)などに係る技術・製品の開発・生産・販売
4 瀋陽巨子実業 2005年設立 金型業界向けに産業用ロボットと自動化システムの組立・販売に着手。主に、精密金型の開発・製造、3Dプリントおよびリバースエンジニアリング、自動化システムソリューション、人材の教育・育成を手掛けている。
5 瀋陽大族賽特維機器人 2006年設立 工業自動化設備の開発、設計、販売、保守など。特に自動車部品製造業(全体の90%以上)およびその他工業向けに、特注の産業用ロボットシステムおよび自動化設備、治具などを提供
6 瀋陽衆拓機器人設備 2010年設立 産業用ロボット(ロボット走行システム、直角座標ロボット、スタンピングロボット、ロボットシステムソリューション、直線の位置決定システム、自動化生産ラインなど)の開発・設計・製造・販売
7 瀋陽遠大智能高科機器人 2015年設立 瀋陽遠大集団の子会社。産業用ロボット、サービスロボット、スマートロボットおよび関連自動化設備などの開発、設計、製造、販売、保守、技術移転。産業用ロボットによる各種ソリューションの提供(船舶用スクリュープロペラの切削・研磨、高速鉄道の車体・フレームの溶接、大型鋳造部品の製造、スマート画像検査システムなど)
8 瀋陽東聯智慧科技 2015年設立 ロボットの研究開発・生産、ソフトウェアの開発、情報システム統合サービス、情報技術コンサルティング、照明工事、セキュリティー工事、スマート化リフォーム工事など
9 遼寧騏跡科技 2016年設立 産業用ロボットの開発・設計・製造・販売(ロボット走行システム、直角座標ロボット、溶接ロボット、スプレーロボット、スタンピングロボット、ロボットパレタイザー、ロボットシステムソリューション、直線位置決定システム、自動化生産ライン)
出所:
各社ウェブサイトを基にジェトロ作成

同時に、日系のロボットメーカーも既に中国のロボット市場に参入している。安川電機は2010年6月、瀋陽でサーボモーターの生産を開始し、2015年9月に中国大手家電メーカーの美的集団と合弁事業を展開し始めた。さらに2017年には、中国工場での生産量を倍増させる計画も発表するなど、中国市場の開拓を加速させている。ロボット大手のファナックも1992年に北京で合弁会社を設立し、中国国内での販売、メンテナンスサービス、技術サポート、トレーニングなどの提供を始めた。1997年には上海電気集団との合弁会社も設立し、ロボットの生産・組み立て、メンテナンスサービス、販売などに取り組んでいる。

日中ロボット企業の連携意欲が高まる一方で、ロボット産業のさらなる発展には課題もある。中国における産業用ロボットの導入比率は欧米や日本に比べ依然として低い。2016年の製造業における労働人口1万人当たりの産業ロボットの導入台数は、ドイツが309台、日本が304台、米国が189台なのに対し、中国は68台となっている。2014年以降4年間の国産ロボットの市場シェアは、それぞれ29.0%、30.0%、30.0%、26.8%にとどまる。また、産業用ロボットの需要が特に大きい自動車産業や溶接業における多関節ロボットは、外国企業の製品が主となっている。中国は精密減速機、サーボシステム、制御システムなどコアとなる部品の約8割を輸入に依存しており、ロボット産業発展の足かせとなっている。このような導入密度、内製率および中核技術の水準の向上が、中国ロボット産業が直面する課題だが、中国政府は、品質向上に向けた取り組みを進め、ロボットの国産化率を2020年までに50%、2025年までに70%に高めるとの目標を掲げている。また、李克強首相は2016年の中国品質表彰会の場において、ロボットなど製造業の品質を重視する「工匠精神」の必要性を強調した。

今後中国では、39業界約110業種のほぼ全業種においてロボットが利用されるようになり、外資系メーカーの買収や事業提携を通じ先端ロボット製品が中国市場に浸透すると言われている。これまで日本企業は、新しい製品やサービスを国内に導入してから海外に展開することが多かったが、急成長する中国のロボット市場を攻略するためには、日本と同時もしくは日本に先立ち中国市場に製品を展開すること、中国国内に販路を有する中国メーカーと協業すること、製品を中国市場にカスタマイズすることの3点がポイントとなるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
李 莉(り り)
2007年、ジェトロ・大連事務所入所。経済情報部、進出企業支援センターを経て、現在は市場開拓部で中国企業の対日投資と日系企業の内販拡大を担当。

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