武漢進出後、堅調な成長が続く極楽湯(中国)
2018年4月から館内に宿泊施設を開業、副館長に聞く

2018年7月9日

日系温泉レジャー施設の極楽湯(本社:東京都)は、上海市に次ぐ2番目の都市として2016年11月に湖北省武漢市で極楽湯金銀潭温泉館を開業した。若者や家族連れを中心に来館者数は堅調に伸び、同店の2018年1~5月の売り上げは前年同期の実績を上回った。また、2018年4月には、1年を通じて安定した収益を得られるようにすべく、館内に宿泊施設を開設した。極楽湯金銀潭温泉館の宇田川祐二副館長(武漢在住)に話を聞いた(2018年6月8日)。

質問:
2018年の業績は。
答え:
2017年に店舗の大幅な改築を行ってから、当店の業績は順調に伸びている。2018年1~5月の来館者数や客単価、売り上げはいずれも、前年同期の実績を上回った。また、販売管理費をこれまでの80%程度に抑えることで、当店の利益率も向上した。
また、中国全体に目を向けると、極楽湯は中国国内に100店舗の展開を目標としている。2013年に初の海外進出となる上海1号店を開業し、2015年には上海2号店を開業。そして2016年に武漢1号店を開業した。これらの3店舗はすべて直営店であったが2017年には中国で初めてのフランチャイズ店を青島と上海川沙に開業した。また、2018年2月には直営店を上海嘉定区に開業。今後は直営店を長春に、フランチャイズ店を無錫と上海宝山区に出店の予定だ。さらに、直営店の旅館を上海川沙2号店としてオープンさせる予定だ。
質問:
ビジネスの新たな変化は。
答え:
当店においては、宿泊施設を新たに開業したことが挙げられる。当店は基本的に冬場が繁忙期で、夏場は閑散期になる。そうした中、1年を通じて安定した収益を得られるようにするべく、2018年4月29日から宿泊施設を開業した。
極楽湯の中国全体での変化としては、現地化が大きく進んだことが挙げられる。例えば、日本から中国の極楽湯店舗への赴任者は当初13人だったが、2018年6月現在は6人まで減らした。6人のほとんどは現地スタッフへの教育を行う部門に配置している。また、2018年度から中国では社内公用語を中国語とし、メールや議事録、社内申請書をはじめ、会議の場でも日本語での発言を禁止し、必要があれば通訳を通じた中国語での発言を徹底している。極楽湯の日本人駐在員には、ある程度の中国語能力が求められるようになり、管理職でもHSK(注)の勉強を始めている。
質問:
宿泊施設の状況やターゲット層は。
答え:
当店の宿泊施設は、シングルルームが27部屋、広めのシングルルームが12部屋、ツインルームが8部屋、マージャンルームが12部屋、VIPルームが8部屋となっている。また、料金は最も安いシングルルームで1泊298元(約5,000円、1元=約17円)、最も高いVIPルームで1泊478元となっている。温泉利用のみの入館料は、平日大人1人118元で、宿泊客は追加料金を支払うことなく温泉の利用が可能だ。
宿泊施設の開業から1カ月ほどが経過し、今では入館料よりも宿泊料の売り上げの方が大きい日が多い。平均すると、平日は12~15部屋、土日には30~40部屋が利用されている。特に、中国のホテル予約サイトと契約を行い、同サイト内で当店の検索と予約ができるようになってから利用客が大幅に増えた。
当初、ターゲット層は隣接している水族館に遊びに来た子供連れの家族や、付近にある展示会場のイベント参加者などを想定していた。しかし、実際に開業してみると、純粋に「日本の文化に興味があり、日本の雰囲気を味わいたい」という理由で宿泊する人や遠方からのビジネス客が多かった。また、宿泊客に若い人が多かったことも意外だった。

極楽湯金銀潭温泉館(左)と館内の客室(右)(ジェトロ撮影)

質問:
宿泊施設を運営する上での今後の課題は。
答え:
5月初旬の労働節休暇では、シングルルームが満室になる日もあった。閑散期の夏場、温泉利用の入館者数が120~130人程度であっても、マージャンルーム・VIPルームを除く客室が予約ベースで埋まる日もある。繁忙期の秋から冬にかけては、宿泊客がますます増えることが予想されるが、今後、比較的利用率が低いマージャンルームを、宿泊ニーズがより高いツインルームへ改装するほか、価格調整を行うことで対応する。
また、日本人と中国人では「日本らしさ」の感じ方が異なる。ホテル予約サイトに書き込まれる中国人宿泊客の感想には「内装がシンプルで、少しさびしい」といったコメントが度々見受けられる。日本人には「わびとさび」を意識したシンプルな内装が好まれるが、中国人からすると少し物足りないようだ。現地スタッフからも「客室に絵を置くなど、もっと豪華で派手な飾りつけをした方がいい」と言われる。しかし、中国人好みの内装に合わせすぎてしまうと、「なんちゃって日本文化」になってしまう。日系企業として正統の日本文化を武漢に広めていくためにも、今後は現地の声を取り入れながらも、バランスを取った客室の内装を考えていきたい。

注:
漢語水平考試。中国政府が実施する中国語能力試験。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。