台湾企業のムスリム市場開拓支援を強化
2018年3月28日
非ムスリム地域の台湾が、ムスリム市場開拓を本格化している。主な対象市場は、台湾政府による「新南向政策」の重点国でもあるマレーシアやインドネシアだ。当局や関係機関は、内外におけるセミナー・展示会の開催やハラール認証の取得費用の補助などにより、市場開拓支援を推進中だ。
台湾の対ムスリム市場輸出トップはマレーシア
台湾の商業発展研究院の調査によると、ハラール認証を取得した台湾企業による2016年の東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国向けハラール製品の輸出(非ムスリム向けを含む)は、マレーシアが最大で5,068万ドル、シンガポール2,988万ドル、インドネシア1,999万ドルであった。
ハラール製品の輸出を国別にみると、マレーシアは、健康食品・医薬品が1,851万ドルと4割近くを占め、次いで非食品(食品容器・包装用材料など)1,703万ドル、食品・飲料1,423万ドルとなっている。シンガポールは、食品・飲料が最大で1,690万ドル、健康食品・医薬品が926万ドル、非食品が348万ドル、インドネシアは、非食品が1,272万ドル、食品・飲料554万ドル、健康食品・医薬品が168万ドルとなっている。このほか、化粧品・美容用品は、3カ国いずれも総額の1%前後とウエートは小さい。
ムスリム市場向けの輸出だからといって、ハラール認証が一律に義務付けられているわけではない。とはいえ、ハラール認証の取得は、ムスリム市場参入にあたって、実質的なビジネスの条件となるケースがあること、または自社製品の品質保証をPRするのに有効であることなどの事情を背景に、台湾ではハラール認証への関心が高まりつつある。
台湾のハラール認証機関である台湾清真産業品質保証推広協会(THIDA)によると、2017年12月現在、台湾企業が取得したハラール認証は合計580件(更新手続き中を含む)にのぼる。近年は毎年20%程度のスピードで急増しているという。主要品目別構成では、いわゆる健康食品と食材が140件(構成比24%)ずつで最多、次いで飲料83件、菓子類69件、非食品35件(製紙添加剤、竹炭など)、添加物30件などとなっている。
THIDAは、ハラール認証件数が急増している主な要因として、ムスリム市場の拡大によるビジネスチャンスへの関心の高まりとともに、台湾の食品企業などが、域内市場拡大の限界を認識し、積極的にムスリム市場などの海外新興市場開拓にチャレンジする必要性に迫られているからだろうと見る。
現在、台湾のハラール認証機関は4機関ある。このうち、THIDAは、食品(生鮮野菜・果実を含む)・用品などのハラール認証機関だ。THIDAは、マレーシアのJAKIM(イスラム開発庁)、シンガポールのMUIS(イスラム教評議会)、インドネシアのMUI(ウラマー評議会)、UAEのMOEW(環境水利省)などから、外国のハラール認証機関として公認を受けている。
前述の商業発展研究院によれば、「THIDAのハラールマーク(標章)は、マレーシア国内市場でハラール製品として表示できる。ただし、インドネシアでは、肉類およびB2Bの製品(原材料、調味料など)には表示できるが、小売り製品には、別途LPPOM MUI(ウラマー評議会 食品・医薬品・化粧品検査機関)による確認・審査後、MUIの認証に基づくハラールマークも表示しなければならない」として、企業に注意喚起している。
次に、財団法人台北清真寺基金会は、食品・用品のほか、レストラン、ホテルのハラール認証機関であるが、THIDAと異なり、現時点では海外の認証機関からの公認は受けていない。
また、中国回教協会は、2012年にTHIDAとの協議の結果、役割分担を明確にし、台湾内のホテルやレストラン、食肉処理などのハラール認証は、中国回教協会が対応することになった。
このほか、心忠管理顧問股份有限公司は2017年7月、MUIからの授権により台北にMUIの拠点(支所)を設立し、翌8月にはBPJPH(インドネシアのハラール製品保証管理局)の認可を受けた。この拠点は、台湾企業に対し、インドネシアのMUIのハラール認証を代行するとのことである。
ハラール認証申請費用を補助
2017年4月に設置された台湾ハラールセンターは、経済部(日本の経済産業省に相当)からの委託により、対外貿易発展協会(TAITRA)が運営している。
ハラールセンターの主な目的は、台湾の中小企業を対象に、ムスリム市場開拓(輸出)を支援することだ。主な支援業種は食品、化粧品である。衣類や物流はニーズがそれほど多くないこともあり、今のところ重点業種ではないという。主な支援対象市場は新南向政策の対象国で、特にムスリム人口が多いインドネシアとマレーシアが重点国だ。
主な支援事業は、ハラール認証取得支援と情報提供、セミナー・展示会などの開催だ。ハラール認証取得の支援メニューとしては、手続きに関する相談対応や申請費用の一部補助支給がある。企業からの照会は、主に認証に関する案件で、月平均20〜30件という。やはり食品や化粧品の照会が中心で、台湾の各地から照会が寄せられるという。
認証費用の補助を受けるための基本条件は、経済部国際貿易局に登録している輸出入事業者であること、台湾で製造した製品のハラール認証であることだ。海外から公認を受けている台湾の認証機関(THIDA)の認証費用補助を申請する場合は、国際認可の効力や、ムスリム検査人員などの能力証明も提出する必要がある。
補助額は、1(件)品目につき認証費用の50%まで、金額の上限は3万台湾元(1台湾元=約4円)。年会費などは認証費用の補助対象に含まない。国際認証費用の補助は、初回申請に限り最大30万台湾元だ。
ハラール認証取得済みで、TAITRA主催のムスリム市場(東南アジア、中東、南アジア)展示会などに出展する企業には1万5,000台湾元を補助する。ハラール認証補助と展示会出展費用補助を併用する場合は、合計の上限が10万台湾元である。
企業規模は特段中小企業に限定していないが、実際の補助希望者はすべて中小企業とのことだ。補助対象は初回申請分だけである。インドネシアのMUIの認証を台湾で申請する場合にも補助対象となる。なお、あくまで台湾からの輸出支援が目的のため、海外に直接投資した現地企業が生産・販売などで必要とするハラール認証の費用は補助対象外となる。
ハラールセンターは、台湾企業がムスリム市場開拓するうえで最も難易度の高い問題は、ハラール認証取得手続きや、それぞれの国によりルール(認証以外の貿易関連制度も含む)や運用が異なることだろうと見る。
東南アジアのマレーシアなどは、購買力が高い華人が多く、台湾と食文化に共通性があることから、台湾企業にとって、必ずしもハラール認証を取得しなくても市場参入が可能だという有利な部分はある。ムスリム市場に魅力は感じても、あえてハードルの高いハラール認証を取得するかどうかは、企業として戦略が分かれるところともいえる。ハラール認証は、非ムスリムの消費者に対しても安全・安心と品質保証をPRできることから、中長期的な市場参入を念頭に置いてチャレンジするという考え方もあるようだ。
TAITRAは今後半年間に、世界最大級のハラール展示会といわれるMIHAS(MALAYSIA INTERNATIONAL HALAL SHOWCASE)をはじめ、シンガポール国際食品展、THAIFEX(タイ国際食品展)などの大型展示会に出展する台湾企業を支援するほか、インド、タイ、ベトナムでTAITRAが主催する台湾エクスポに食品専用エリアを設ける。また、10月には中東(ドバイ、イラン、クウェート)にハラール商品の売り込みミッションを派遣し、ムスリム市場開拓を支援予定だ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部 主査
加藤 康二(かとう こうじ) - 1987年、ジェトロ入構。日本台湾交流協会台北事務所(1990~1993年)、ジェトロ・大連事務所(1999年~2003年)、海外調査部中国北アジア課長(2003年~2005年)などを経て2015年から現職。