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セルビアのEU加盟の鍵となるコソボとの関係改善に懸念

2018年5月28日

セルビアでは、2014年以降に実施してきた経済構造改革の効果などもあり、2017年の経済成長率は個人消費のけん引により1.9%となった。政府は早期の欧州連合(EU)加盟を目指しているが、セルビアに多数進出するドイツ企業やイタリア企業などの外資企業にとっても、ビジネス環境の改善という意味でEU加盟は重要で、その条件となるのがコソボ問題の解決である。先ごろ、コソボにおけるセルビア政府の出先機関の代表者がコソボの武装警察部隊により連行される事件が発生、早期の鎮静化およびセルビア・コソボ関係の改善が望まれている。

セルビアでは、2014年にブチッチ政権が発足して以降、財政再建や投資環境の改善のための規制や制度改革など、大胆な経済構造改革を実施している。こうした改革や欧州全体の景気回復などにより、セルビア経済の成長率は2017年には1.9%、中でも個人消費が2.5%増と経済成長を支え、いずれも3年連続のプラス成長となった。また、2018年はさらに成長が加速し、2.8%の国内総生産(GDP)成長率が見込まれ、2012年、2014年にマイナス成長に陥ったセルビア経済はようやく安定した成長軌道に乗り始めた。セルビアに日系企業はまだ少ないものの、安価な人件費や低い税率、EU市場へのアクセスなどのビジネス環境から、ドイツ企業は、セルビア商工会議所によると900社以上進出し、ドイツと並んでセルビアの重要な貿易相手国であるイタリアからも多くの企業が進出している。セルビア政府にとってEU加盟は政治目標であり、多くの国民も可能な限り早期にEUに加盟して国の発展を加速させ、産業界もビジネス環境の改善やEU単一市場のメリットなどからEU加盟を望んでいる。EUは、セルビアがEUに加盟するためには、2008年にセルビアから独立したコソボとの関係改善を条件のひとつとしているが、セルビアとコソボとの関係悪化が懸念される事態が先ごろ発生した。

セルビアの代表がコソボで武装勢力により拘束

ブリュッセルにおいてEUがセルビアとコソボとの間をとりもつ形で2018年3月23日にセルビア、コソボおよびEUによる3者対話が開催された。その結果を3月26日、コソボのコソボスカ・ミトロビッツァ市にあるセルビア政府の在コソボ出先機関である「コソボ・メトヒヤ事務所」で同事務所所長がセルビア人住民に説明していたところ、武装したコソボの特殊部隊が乱入し、所長を拘束した。その際、セルビア人住民とコソボ議会のセルビア人議員あわせて三十数人が負傷したほか、報道陣のカメラ機材などにも被害が発生した。セルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領が、コソボのハシム・サチ大統領に猛烈に抗議した結果、同所長は即日コソボから追放された。セルビア側は、コソボの武装勢力がセルビア人居住区に再び侵入したことは、2013年前に合意されたブリュッセル協定(コソボ北部のセルビア人住民が多数居住する自治体の行政機構のあり方などに関してセルビアとコソボがEU陪席のもと合意)に違反していると非難した。EU加盟を目指す両国の今回の衝突をEUも懸念し、フェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障上級代表が事態鎮静化のため3月27日にセルビアの首都ベオグラードを訪問し、ブチッチ大統領と会談している。

ユーゴスラビア崩壊とコソボ問題

セルビアとコソボはいずれも、旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国を構成していた。1980年にチトー大統領が死去した後、民族対立が激化し、冷戦崩壊後から徐々に解体が進んだ。セルビアは、最後まで同共和国に残っていたモンテネグロとともに社会主義を放棄して1992年に「ユーゴスラビア連邦共和国」となったが、2003年には同連邦も解体、その後緩やかな国家連合「セルビア・モンテネグロ」となり、さらに2006年に住民投票の結果、モンテネグロが独立したことから、セルビアも国家連合からの独立を宣言した。その間、アルバニアおよびマケドニアと国境を接しているセルビア南部のコソボ地方ではセルビア人とアルバニア人の民族対立があり、コソボは2008年に独立を宣言、米国、英国、フランスなど多くの国がコソボ独立を承認した。

コソボ問題は、1990年代後半のセルビア(当時はユーゴスラビア連邦共和国)とコソボ解放軍(KLA)との紛争の停戦協定として1999年に採択された「国連安全保障理事会決議1244」において、コソボ地方におけるセルビアの主権や領土保全が確認されていたにもかかわらず、国際社会がコソボの独立を承認したことに端を発しているといわれる。ただし、2010年に国際司法裁判所(ICJ)は「コソボの一方的な独立宣言は違法とはいえない」旨の判断をしている。

EU加盟を目指すセルビアとコソボ

EUとの関係では、2003年にギリシアのテッサロニキで開催されたEU-西バルカン諸国首脳会議において、おおむね旧ユーゴスラビアにあたる地域をEUに統合していくことが確認され、各国では現在、加盟に向けての動きが進んでいる。セルビアは、2009年にEU加盟を申請し、コソボとの関係改善を条件に加盟候補国となり、現在はEUと加盟交渉を開始している。コソボについては2016年、EUとコソボとの「安定化・連合協定(SAA)」が発効した。SAAはEU加盟前の支援措置としてEUとコソボとの緊密な連携を構築し、政治・経済・貿易面でのつながりの深化を目指すもので、将来的なEU加盟の道筋をつけることが期待されている。

執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
鈴木 秀男(すずき ひでお)(在セルビア)
1970年富士通株式会社入社。住友商事株式会社ベオグラード事務所勤務などを経て、2009年よりジェトロ・ウィーン事務所コレスポンデント。

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