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欧州天然ガス市場を狙う米国の課題

2018年9月18日

トランプ政権の発足1年目は、前政権が残した米国内のさまざまな規制を取り除くことから始まった。2年目の2018年、政権は諸外国との通商交渉の切り札の1つに天然ガスを利用しつつある。欧州に対しては、ロシア産天然ガスへの輸入依存を強めていることを牽制し、米国産液化天然ガス(LNG)の調達拡大を迫っている。狙いは、エネルギーの輸出を通じた米国内の雇用創出に加えて、相手国・地域との貿易赤字削減、同盟国のエネルギー調達先が多角化することでエネルギー安全保障を確保することなど、より幅広い視野で見据えてのことだ。

ロシアが圧倒する欧州市場

世界の天然ガス貿易は、2017年に1兆1,341億立方メートルで、うちパイプライン(PL)経由の輸出が7,407億立方メートル、LNGによる輸出が3,934億立方メートルに上る。最大の輸出市場は欧州で、全体の約半分を占める。アジアはLNGの輸出先として急速に成長しているものの、天然ガス貿易全体からみればその比率は約3割の水準にとどまっている。

この最大の欧州天然ガス市場を押さえているのがロシアで、欧州市場でのロシアのシェアは39%に及び、米国のシェアは0.5%にも満たない。その要因は、ロシアが地理的に欧州に近接し、パイプラインで直接結ばれているためである(表1参照)。

米国では、シェール革命で天然ガスの輸出が増えているとはいえ、輸出相手先はメキシコ、カナダなど周辺国が中心だ。米国本土から液化してアジアなどに輸出が開始されたのは2015年からと、まだ日が浅い。

天然ガスを遠隔地に輸送する場合、パイプラインで送ガスする方法と、液化してLNGとして輸送する方法がある。一般的にはその輸送距離が3,000~4,000キロメートル以内であれば、パイプラインを建設して送ガスし、それを超える距離であれば液化して輸送する方が経済的とされている。ロシアの天然ガス生産の 8割は西シベリアのメドベージェ、ウレンゴイ、ヤンブルグの3大ガス田で、生産されている。ここから欧州中央部までの距離はほぼ4,000キロで、このためパイプライン経由の輸送が長く行われてきた。

表1:米ロの天然ガス輸出(2017年 パイプライン経由+LNG) (単位:10億立方メートル)
輸出計 北米 中南米 欧州 中東
アフリカ
アジア
米国 83.5 69.9 1.3 2.6 2.1 15.4
ロシア 230.9 0.0 0.0 215.5 0.0 15.4
世界計(PL+LNG) 1134.1 156.0 29.2 551.4 51.0 346.4
出所:
BP Statistical Review of World Energy 2018

EUは年間の天然ガス需要量(4,800億立方メートル)の半分を域内生産で賄い、残りを域外からの輸入に依存している。最近では資源量の減少から域内生産が減退し、輸入の比率が拡大している。2017年の天然ガスの輸入の86%はパイプライン経由で、ロシア(39%)、ノルウェー(30%)、アルジェリア(13%)からの輸入が大半を占める。残り14%がLNGでの輸入で、カタール(41%)、ナイジェリア(19%)、アルジェリア(17%)、ペルー(7%)、ノルウェー(7%)からで、米国からの輸入はLNG輸入全体の4%にすぎない。

2017年におけるEUのLNG輸入は前年比12%増の550億立方メートルで、スペイン(31%)、フランス(20%)、イタリア(15%)、英国(12%)が主な輸入国である。米国がEU向けにLNGの輸出を開始したのは2016年4月のポルトガル向けが最初で、2017年時点では米国のLNG輸出の5%がEU向けである。

EUはウクライナ危機以降、ロシア産天然ガス輸入の削減を目指してきたが、2017年のロシアからの天然ガス輸入は逆に過去最大となった。トランプ大統領はかねて、EU(とりわけドイツ)がロシアからのパイプライン経由での天然ガスに依存していることに対して、経済制裁相手国ロシアを利するものとして批判的だ。

2019年には、ロシア産天然ガスのドイツへのパイプラインNord Stream 2外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (NS2)が開通する。NS2は、既存のパイプラインNord Stream 1(NS1)(年間送ガス能力は550億立方メートル)に加えて敷設されるもので、ロシア産天然ガスの欧州向け供給能力は一気に倍増する。

対ロ経済制裁下にもかかわらず、ドイツがロシアからの天然ガス輸入を増やしている背景には、脱石炭・脱原発を進めるというエネルギー政策に加えて、ロシアとの安定的な経済関係を維持しようとするドイツの伝統的な「東方政策」がある。しかし、米国務省は2018年7月、NS2に参加している欧州企業(注)は、経済制裁の対象となり得ると表明している。

米国の優位性は安価な価格、転売可能な取引条件

欧州の天然ガス価格は、長期契約に基づく原油価格連動方式(北海ブレント原油価格などにリンク)と、スポット契約に基づく価格が併存している。ブレント価格は昨今の原油高を背景に、1バレル70ドル台半ばで推移しており、欧州の天然ガス価格は足元で100万BTU(英国熱量単位)当たり6ドル前後に高止まりしている。一方、米国の天然ガスは米国の天然ガス市場価格(米国内の天然ガス価格の指標であるヘンリーハブ価格)連動型で、3ドル前後と欧州天然ガス価格の半分である。従ってこれを液化して、欧州向けに輸出しても、米国産LNGは十分な価格競争力を維持できる。加えて、米国産は仕向け地フリーのため、買い主は天然ガス需給の変動に対応して、第三国への転売が可能である。

米国産LNGの最大の魅力は、こうした原油価格に連動しない安価な価格、そして転売可能な取引条件だ。このため、ロシア産天然ガスへの過度の依存を避けるために、欧州サイドでも米国産LNGの受け入れ基地を整備しつつある。

他方、供給側である米国では、シェニエール社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が米国本土から初のLNG輸出となったサビーン・パス(ルイジアナ州)に加えて、コーパスクリスティ(テキサス州)で輸出ターミナルの整備を進めている。日系企業が米国内のコーブポイント、キャメロン、フリーポートの3 カ所で手掛けるトーリング契約方式の LNGプロジェクトと異なり、シェニエール社は通常の売買契約 (SPA)でLNGを販売している。すなわち、シェニエールがガスを自社で調達し、液化した上で FOB建てで輸出する。従って海外の買い主は、米国内でのLNGターミナルの建設、天然ガスの調達などには関わらないため、取引を開始しやすい。このため、海外とりわけ欧州各国からLNGの受注が順調に行われている。(表2参照)

表2:米国シェニエール社のLNG輸出プロジェクトと主要買い主
プロジェクト名 液化能力 進捗状況 主要買い主
サビーンパス
(ルイジアナ州)
年間450万トンx6系列 系列1~4:操業中
系列5:建設終了、2019年操業予定
系列6:FID(最終投資決定)待ち
BG Group(英国)
Gas Natural Fenosa(スペイン)
KOGAS(韓国)
GAIL(インド)
Total (フランス)
Centrica(英国)
コーパスクリスティ
(テキサス州)
年間450万トンx5系列 系列1~3:2019年以降操業予定 Pertamina(インドネシア)
Endesa(スペイン)
Iberdrola(スペイン)
Gas Natural Fenosa(スペイン)
Woodside(豪州)
EDF(英国)
EDP(ポルトガル)
出所:
シェニエールHP

米国の課題はLNG輸出規制の撤廃

2018年7月の米EU首脳会談では、EUが米国産LNGを拡大することを表明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます したが、同時に、米国産LNGの輸入を拡大するには、安価な価格の実現に加えて、米国がLNG輸出の事前承認制などの規制を撤廃することが必要だと訴えている。

米国がLNGを輸出する場合、LNGの液化輸出基地やパイプラインなど陸上インフラに関し、1969年国家環境政策法(NEPA)に基づく連邦エネルギー規制委員会(FERC)の建設承認と、1938年天然ガス法に基づくエネルギー省(DOE)の輸出承認の2つを得る必要がある。

(1)長期化するFERCの承認プロセス

FERCが行うLNGターミナルの建設承認は、「プレファイリング(仮申請)」、「フォーマル・アプリケーション(正式申請)」、「FERCによる環境影響評価(EIS)」、「FERCによる承認」の4段階に分かれるが、プレファイリングから最終的な承認判断まで最短で1年半を要する。これは、「FERCによるEIS」でのパブリックコメントの収集、FERCに提出される利害関係者との調整などに多大な時間を要するためである。日系企業が絡んだキャメロンLNGの輸出プロジェクトは、プレファイリング(2012年4月30日)からFERC承認(2014年6月19日)まで実に2年以上かかった。

現在、米国で操業中のLNG輸出ターミナルはルイジアナ州サビーンパス、メリーランド州コーブポイントのわずか2カ所のみ。テキサス州フリーポート、キャメロン、コーパスクリスティ、ジョージア州エルバアイランドの4カ所は既にFERCの承認が下りているものの、建設の遅れから稼働はいずれも2019年以降となる。さらにFERCの承認を待っているLNG輸出ターミナルは2018年6月時点で13件に達する(表3参照)。

表3:米国LNG輸出プロジェクトの建設承認状況 
プロジェクト・ステージ プロジェクト
(件)
液化能力
(100万トン/年)
操業中・建設中 6 75.4
FERC承認済み 4 64.4
ファイリング 11 146.9
プレファイリング 2 24
合計 23 310.7
注:
2018年6月24日時点。
出所:
FERC, LNG Allies

このため連邦議会では、FERCの人員強化により承認に要する期間を短縮しようとする動きがある。また、FERCも2018年8月、環境評価プロセスを12カ月以内に短縮すると表明している。しかし、民主党の一部や環境保護団体は、承認プロセスの短縮化・簡素化には反対している。

(2)FTA非締結国向けDOEの輸出許可に「リボケーション・リスク」

天然ガス法第3条によると、米国との間で内国民待遇を含む自由貿易協定(FTA)を締結している国への輸出であれば、エネルギー省(DOE)は変更や遅延なく輸出を許可しなければならない。一方、FTA非締結国への輸出の場合、DOEは輸出許可申請を「公共の利益」の観点から審査することになる。審査のポイントは、輸出申請のあった天然ガスに対する米国内の需給、米国のエネルギー安全保障、天然ガスの国内価格を含む米国経済への影響などについてである。このため、最終的に輸出が許可されない可能性もある。

トランプ大統領の意向を受けて、DOEは迅速に輸出承認を行うようになってきた。また、カリブ海、中米、南米諸国向け輸出で、天然ガスの輸出規模がLNG換算で年間100万トン以下の小規模輸出である場合、FTA非締結国への輸出申請であっても、DOEは個別審査なしで、これを認める方向で認可手続きを変更した(2018年8月24日から)。また、FERCの審査が長期化することもあり、DOEは「FERCの承認を条件」として輸出承認を行うこともある。

しかし、日本や欧州を含むFTA非締結国のLNG買い主が最も懸念しているのは、輸出許可が出された後、契約の途中で輸出許可が取り消される可能性である。天然ガス法16条では、DOEは米国内の天然ガス需給や価格の変動、米国のエネルギー安全保障の変化などを理由に、DOEがいったん発行した輸出許可の修正、取り消しができるとしている。FTA 非締結国のLNG買い主は、米国LNGの20年に及ぶ長期売買契約を締結する際に、将来、LNG輸出許可が取り消される「リボケーション・リスク」に直面することになる。

米EU首脳会談でのLNG輸入拡大合意を受けて、米EU間ではこれを実現するため事務レベル協議が2018年8月から始まった。米国がEUの輸出規制撤廃要求をどこまで受け入れていくのか注目される。その結果は、当然のことながら日本やアジアにも大きな影響を与えていく。


注:
ドイツの化学大手BASF傘下のウィンターシャル、ウニパー、オーストラリアのOMV、英蘭系のロイヤル・ダッチ・シェル、フランスのエンジーの5社。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 アドバイザー
木村 誠(きむら まこと)
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所産業協力部長、ジェトロ・ロンドン事務所次長(調査・広報担当)、ジェトロ・ヒューストン事務所長などを経て2013年4月より現職。

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