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拡大するサイバーセキュリティー市場

2018年12月26日

データ流通量が急増するにつれて、サイバー攻撃の脅威が高まっている。本レポートでは拡大するサイバーセキュリティー市場を取り上げ、日本への進出が増加している外資系企業の動向を検証する。

サイバーセキュリティー需要が世界的に拡大

米IT大手シスコが発表したレポート「ゼタバイト時代:トレンドと分析」によると、2017年に発生したウィンドウズを標的とするランサムウエア「WannaCry」によって、150以上の国で約20万台のコンピュータが攻撃された。このような攻撃の大規模化に加え、近年、モノのインターネット(IoT)や仮想通貨取引といった分野でのデータ流通量が増加することに伴い、セキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)性への懸念が高まっている。デジタル空間における情報の安全性確保に向け、関連製品・サービスを提供するサイバーセキュリティー市場が急速に拡大している。ドイツのオンライン統計Statistaによると、世界のサイバーセキュリティー市場は、2018年に1,530億ドルに至ると予測され、2021年には2,000億ドルを超す見通しである。(図1参照)

図1:世界のサイバーセキュリティー市場予測
単位10億ドル。2017年137.85、2018年153.01、2019年169.84、2020年188.53、2021年209.27、2022年231.94
出所:
Statistaよりジェトロ作成

高度化・巧妙化するサイバー攻撃に対抗するための、先端技術を開発する新興企業も多数生まれている。スタートアップゲノム社の「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート2018」によると、サイバーセキュリティー関連のスタートアップ企業が多く輩出しているエコシステム(注1)は、世界12都市・地域(ニューヨーク、ボストン、シリコンバレー、フェニックス、トロント・ウォータールー、オタワ、ハーグ、フランクフルト、ベルリン、プラハ、テルアビブ、ベエルシェバ)に存在する。特にイスラエルでは、退役軍人が兵役時代に培った技術を生かして起業するケースが増えており、サイバーセキュリティー分野だけで毎年80社以上のスタートアップが生まれている。

世界に後れを取る日本のサイバーセキュリティー企業

一方、世界のサイバーセキュリティー市場における、日本企業の存在感は限られている。新エネルギー・産業技術総合開発機構の「サービス・ソフトウエアの国際競争ポジションに関する情報収集」のレポートによると、日本企業が販売するウイルス対策ソフトの世界市場(BtoC)シェアは2016年時点で14.7%である(図2参照)。さらに、ゲートウェイセキュリティー(注2)の市場におけるシェアはわずか1%と、米国や他の先進国に大きく後れを取っている。

図2:セキュリティー関連製品の地域別市場シェア(2016年)
ウイルス対策ソフト(BtoC)の日系シェアは14.7%、米国系は43.7%、欧州系40.0%、その他1.6%。ゲートウェイセキュリティの日系シェアは1.0%、米国系63.3%、欧州系8.6%、その他27.2%。
出所:
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「平成29年度サービス・ソフトウェアの国際競争ポジションに関する情報収集」よりジェトロ作成

日本企業のサイバーセキュリティー体制も、十分とは言えない。経済産業省が策定した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」の中でも、セキュリティー対策に対して経営者が十分なリーダーシップを発揮していないことが指摘されている。セキュリティー対策を、「投資」ではなく「費用」と考える企業が64%であり、経営資源が十分に配分されていない(注3)。2016年に日本市場へ参入したイスラエルのサイバーリーズン・ジャパンのシャイ・ホロヴィッツ氏は、日本企業が「米国企業などと比べサイバー攻撃を防ぐ体制は5年から10年遅れている」と指摘する。(2017年4月12日ジェトロ「世界は今」参照)

しかし、日本でも危機感が高まりつつある。日本の情報セキュリティー市場(注4)の規模は年々拡大し、2018年に1兆円を超す見通しである(図3参照)。近年では人工知能(AI)によるウイルス検知など新技術を生かした製品や、サイバー保険、セキュリティー設計コンサルティングなどの新たな関連サービスも増えてきている。

図3:日本の情報セキュリティー市場
単位10億円。2011年694、2012年731、2013年777、2014年843、2015年897、2016年933、2017年980、2018年予測値1046。 うち、ツールの推移は、2011年366、2012年385、2013年414、2014年449、2015年471、2016年488、2017年510、2018年予測値556。 サービスの推移は2011年329、2012年347、2013年363、2014年394、2015年426、2016年445、2017年470、2018年予測値489。
注:
ツールの対象は、統合型アプライアンス、ネットワーク脅威対策製品、コンテンツセキュリティー対策製品、アイデンティティー・アクセス管理製品、システムセキュリティー管理製品、暗号製品。サービスの対象は、情報セキュリティーコンサルテーション、セキュアシステム構築サービス、セキュリティー運用・管理サービス、情報セキュリティー教育、情報セキュリティー保護。
出所:
日本ネットワークセキュリティ協会「国内情報セキュリティ市場調査」よりジェトロ作成

外資の参入が続く日本市場

拡大する情報セキュリティー市場を支えているのは、近年、日本市場への参入が増加傾向にある外資系企業である。各社報道およびプレスリリースから筆者が把握できただけでも2015年以降、少なくとも18のサイバーセキュリティー関連の外資系企業が日本企業との提携や子会社の設立に至った(表参照)。

表:近年のサイバーセキュリティー関連外資系企業の日本市場参入案件(2015~2018年)
発表日 企業名 国籍 内容 参入方法
2018年10月 SCADAfence イスラエル 三井不動産、グローバル・ブレインの協力のもとサイバーセキュリティー対策ソリューションを日本で事業展開 販売・技術・生産などの業務提携
2018年10月 Templarbit 米国 サイバー攻撃やデータ漏洩からソフトウエアを保護可能な、AIを利用したセキュリティーソリューションを開発 新会社の設立
2018年9月 ESET スロバキア ESET製品の国内総販売代理店であるキヤノンITソリューションズと、合弁会社イーセットジャパンを設立 共同出資会社の設立
2017年7月 Quarkslab フランス カルソニックカンセイと合弁会社を設立 共同出資会社の設立
2017年5月 シスコ 米国 NICTとサイバーセキュリティーの強化を目的とした研究協力覚書を締結 販売・技術・生産などの業務提携
2017年4月 アバスト チェコ 日本におけるカスタマーサポートの質を向上させるため、日本語によるテクニカルサポートやコンタクトセンターを開設 新会社の設立
2017年3月 コロネットサイバーセキュリティ イスラエル アズジェントと契約しMSSPサービスとして提供 販売・技術・生産などの業務提携
2017年2月 ダークトレース 英国 セグエグループ子会社のジェイズ・コミュニケーションと代理店契約締結 販売・技術・生産などの業務提携
2017年1月 シュアバイン 英国 日立システムズと協業し、異なる企業・組織間でサイバー攻撃などの対処情報などをリアルタイムに共有可能にするサービスを提供 販売・技術・生産などの業務提携
2017年1月 セキオン 米国 インフォメーション・ディベロプメントと独占販売契約締結 販売・技術・生産などの業務提携
2016年10月 テレコム シンガポール TISとセキュリティーサービスの日本展開で業務提携 販売・技術・生産などの業務提携
2016年8月 カーボンブラック 米国 ネットワークバリューコンポネンツと国内販売代理店契約締結 販売・技術・生産などの業務提携
2016年1月 サイバーリーズン イスラエル ソフトバンクと、日本市場への提供を目的とした合弁会社を設立 共同出資会社の設立
2015年11月 プライスウォーターハウスクーパース 米国 サイバーセキュリティーサービスの新会社設立 新会社の設立
2015年8月 イージー・ソリューションズ 米国 シグマクシスと包括提携 販売・技術・生産などの業務提携
2015年7月 ダークトレース 英国 人工知能(AI)による新しい監視技術を持つダークトレースが日本での事業を開始することを発表 新会社の設立
2015年2月 ダイサート 英国 NRIセキュアテクノロジーと提携 販売・技術・生産などの業務提携
2015年2月 シスコ 米国 横河電機とサイバーセキュリティー管理ソリューションの提供で提携 販売・技術・生産などの業務提携
出所:
各社報道およびプレスリリースよりジェトロ作成

2015年は米国や英国の企業の参入が目立ったが、2017~2018年には英国以外の欧州企業の動きも活発にみられる。2017年にはウイルス対策ソフトウエア世界シェア1位であるアバスト(チェコ)がアジア初となる拠点を東京都内に設立し、ESET(スロバキア)とキヤノンITソリューションズが合弁会社の設立を2018年9月に発表するなど、中・東欧地域からの案件もみられる。同地域は高いブロードバンド普及率や、大学での情報通信技術(ICT)研究プログラムによる人材育成を背景に、IT分野のクラスターが育つ。2018年10月に幕張メッセで開催されたアジア最大のIT関連展示会「CEATEC」では、米国がサイバーセキュリティーに特化したパビリオンを設置したほか、イスラエルからはIoT関連のサイバーセキュリティー企業が多数出展した。海外企業の日本市場に対する期待は、ますます高まっている。

外資系企業が日本に進出する理由としては、日本では競合企業が少なく、セキュリティー分野のニーズが高いことが挙げられる。一方、共通の課題となるのがセキュリティー人材の確保である。これは日本に進出する外資系企業に限ったことではなく、日本全体として大きな課題である。経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2020年には約19万3,000人のセキュリティー人材が不足すると推計され、今後の対応が急務となっている。


注1:
複数の企業や団体が、創業してから間もない革新性のある企業を、成長させ事業を加速させる仕組み。
注2:
高度な監視・分析能力によって、外部と社内ネットワークとの境界で不正アクセス、ウイルスなどの脅威を阻止する対策。
注3:
国内上場企業、および売上高500億円以上の未上場企業の情報セキュリティー責任者を対象としたアンケート調査。調査期間は2017年4月~5月、回答企業数は457社。
注4:
一般的に情報セキュリティーは、サイバーセキュリティーより広義とされる。サイバーセキュリティーは「情報システムおよび情報通信ネットワークの安全性および信頼性の確保のために必要な措置が講じられ、その状態が適切に維持管理されていること」(2014年サイバーセキュリティ基本法)と定義付けられ、サイバー空間に限定されるのに対し、情報セキュリティーは情報資産を守るための仕組み全体を示している。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。

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