太陽電池のセーフガードやAD措置をめぐる動き(インド)
政府は貿易救済総局を設立

2018年6月22日

インドは経済成長を続ける中、大気汚染が深刻になり、再生可能エネルギーの導入を推進している。国内各地で太陽光発電プロジェクトの計画が開始されており、国内外の投資家や関連企業の大きなビジネスチャンスとなっている。一方で、安価な輸入モジュールが急増していることを背景に、自国産業保護のため緊急輸入制限(セーフガード)やアンチダンピング(AD)措置に向けた動きもあり、今後の動向に注目が集まっている。

拡大するインドの太陽光発電市場

インドは2025年までには、中国と米国に次ぐ電力消費大国になると予想されている。こうした中、政府は2022年までに175ギガワット(GW)の再生可能エネルギーを導入し、2030年には国内の発電設備における再生可能エネルギーの割合を40%まで引き上げる目標を掲げる。このうち、太陽光発電については、2022年までに100GWを導入する計画だ。実際に、2016年度末時点で9.0GWだった太陽光の発電容量は2017年11月末時点で16.6 GWまで拡大した。1年間の太陽光発電の新規導入容量は中国、米国に続く3位になることが見込まれ、急速に拡大するインドの太陽光市場に海外からの注目も集まっている。

シェア低下で自国産業保護に動く

インドは、太陽電池モジュールの約9割を海外からの輸入に依存している。主な輸入相手国は中国、マレーシア、シンガポール、台湾などだが、特に中国製品の割合が大きく、国内マーケット全体の8割以上のシェアを占めるとされる。需要拡大に伴う安価な輸入製品の急増により、国内メーカーは価格競争に巻き込まれ、苦戦を強いられている。インド太陽光発電機器製造者協会(ISMA:Indian Solar Manufactures Association)の調査によれば、インド国内メーカーのシェアは2014年度から2017年度にかけて13%から7%まで低下した。

こうした状況を背景に、ISMAは国内メーカーの意見を取りまとめ、最大4年間のセーフガード発動要請を緊急輸入制限総局(DGS:The Director General of Safeguards)に提出した。これを受けたDGSは2018年1月、太陽光電池モジュールの輸入について、200日間にわたり70%の追加関税を課す暫定的なセーフガード措置を勧告した。

同時に、太陽光発電の関連製品についてのAD調査も行われている。2017年7月には中国、台湾、マレーシアを原産地とする太陽電池モジュールに係る調査(2017年10月19日記事参照)が開始されたほか、2018年4月には中国、マレーシア、韓国、タイ、サウジアラビアを原産国とする太陽電池用EVAシートにかかる調査が開始されている。2017年7月開始の調査については、2018年3月時点でいったん取り下げられたが、申請団体であるISMAは再度、新たな申し立てを行う方向だ。

開発業者や投資家からは反発の声も

太陽光発電プロジェクトを取り仕切る開発業者や投資家は、こうした動きに反発を強めている。地場大手開発業者シャプールジ・アンド・パロンジは、DGSによる2018年1月のセーフガード勧告を不服とし、マドラス高等裁判所に提訴した。また、デリー高等裁判所においても、開発業者アクメ・ソーラーが同様の訴訟を起こしている。「エコノミック・タイムズ」紙(5月31日)によれば、デリー高等裁判所の同訴訟において、DGSのセーフガード勧告自体に法的拘束力がないと判断された。現状では、同勧告の施行に必要な財務省の最終決定は下されていない。

インドの格付け会社クリシルの調査では、70%の追加関税を課すセーフガードが実行されれば、プロジェクト費用が最大25%程度上昇すると試算している。コストの上昇は事業者の収益低下を招くだけでなく、今後の入札価格の上昇を引き起こし、最終的には消費者の負担増につながる可能性もある。また、今後もセーフガードやAD措置をめぐる不透明な状況が続けば、開発業者や投資家心理に悪影響を与え、インド政府が推進する再生エネルギー目標達成の足かせとなることも予想される。

関係する機能を貿易救済局に統合

こうした中、インド政府は2018年5月、商工省内に新たな組織として貿易救済総局(DGTR)を設立した。これまで財務省の傘下にあった緊急輸入制限総局(DGS)と、商工省傘下のアンチダンピング・関連税総局(DGAD)および外国貿易部(DGFT)の一部の機能を貿易救済総局に統合することで、調査に係る手続きの期間短縮を図る方針だ。なお、DGTRは6月26日に太陽電池モジュールを対象としたセーフガード措置の是非についての公聴会を開催することを発表した。これにより、明確な方針が打ち出されることが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
山本 直毅(やまもと なおき)
2011年、株式会社日本政策金融公庫入社。2016年4月からジェトロ出向。ビジネス展開支援部新興国進出支援課を経て、同年10月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。