国務院機構改革は、共産党および国家機関の改革案の一部(中国)
進出企業支援セミナー開催(1)
2018年5月31日
ジェトロは、2018年4月24日に北京市で中国日本商会と、4月27日には天津市で天津日本人会との共催により、「2018年の立法計画と機構改革の最新動向」をテーマにセミナーを開催した。北京市大地法律事務所の熊琳パートナー弁護士が、2018年3月に発表された「国務院機構改革案」「共産党および国家機関の改革深化案」「2018年の立法計画」の概要と日系企業の留意点について解説した。2回に分けて報告する。
行政効率の引き上げが目的
2018年3月17日の第13期全国人民代表大会(以下、全人代)第1回大会で、「国務院機構改革案」が可決された。これに続き、中国共産党中央委員会第19回三中全会で可決された「共産党および国家機関の改革深化案」が3月21日に公布された。5年ぶりで前回より大規模な国務院機構改革が注目されがちであるが、国務院機構改革は、共産党および国家機関の改革深化案の一部を国務院が全人代の法定プロセスにより議決したものであり、共産党および国家機関の改革深化案の方が、内容が詳細にわたり、重要である。
今回の機構改革の目的は、行政が複数の政府機関にまたがり、管理しているようで誰も管理していない「多頭管理」の状況をなくし、行政効率を引き上げることにある。また、中央政府と地方政府の職責関係を整理し、省級以下の地方政府の機関により多くの自主決定権を付与することも規定されている。
日本の中央省庁に相当する国務院の構成機関数は、改革前の25から26となった。このうち、廃止が6、新設が7、再編が2、機能調整が2と、半分以上が変更された(参考1)。廃止された6つの機関の機能は他機関のものと統合されたため、機能自体がなくなるわけではない。
参考1:国務院構成機関の調整の概要(新設:7、廃止:6、再編:2、機能調整:2)
改革前
国務院弁公庁を除いて、
- 外交部
- 国防部
- 国家発展改革委員会
- 教育部
- 科学技術部(再編)
- 工業情報化部
- 国家民族事務委員会
- 公安部
- 国家安全部
- 監察部(廃止)
- 民政部
- 司法部(再編)
- 財政部
- 人力資源・社会保障部
- 国土資源部(廃止)
- 環境保護部(廃止)
- 住宅都市農村建設部
- 交通運輸部
- 水利部(機能調整)
- 農業部(廃止)
- 商務部
- 文化部(廃止)
- 国家衛生計画生育委員会(廃止)
- 中国人民銀行
- 会計監査署(機能調整)
改革後
国務院弁公庁を除いて、
- 外交部
- 国防部
- 国家発展改革委員会
- 教育部
- 科学技術部(再編)
- 工業情報化部
- 国家民族事務委員会
- 公安部
- 国家安全部
- 民政部
- 司法部(再編)
- 財政部
- 人力資源・社会保障部
- 自然資源部(新設)
- 生態環境部(新設)
- 住宅都市農村建設部
- 交通運輸部
- 水利部(機能調整)
- 農業農村部(新設)
- 商務部
- 文化観光部(新設)
- 国家衛生健康委員会(新設)
- 退役軍人事務部(新設)
- 危機管理部(新設)
- 中国人民銀行
- 会計監査署(機能調整)
- 出所:
- 北京市大地法律事務所を基にジェトロ作成
このほか、国家工商行政管理総局などが廃止され、新設の国家市場監督管理総局に統合されるなど、国務院の直属機関も調整された(図1)。

- 出所:
- 北京市大地法律事務所を基にジェトロ作成
13分野の国務院の機構改革の内容と企業の留意点
国務院の機構改革の詳細と日系企業の留意点を13の主な分野別に紹介する。
- 土地、資源関連
国土資源部が廃止され、同部の職責、国家発展改革委員会の主体効能区規画を組織編成する職責、住宅都市農村建設部の都市・農村規画管理の職責のほか、水利部、農業部、国家林業局の資源調査と権利確認登記の管理の職責、国家海洋局、国家測量製図地理情報局の職責が、新設の自然資源部に統合された。土地の用途の確定、国有地使用権の払い下げ、土地使用権の譲渡・期限延長、地図、衛星利用測位システム(GPS)、測量などの行政管理体制が変更された点に留意が必要だ。 - 環境保護関連
環境保護部が廃止され、同部、国家発展改革委員会、国土資源部、水利部などにまたがっていた大気、水、農業などの各種環境保護の職責が、新設の生態環境部に統合されたほか、生態環境保護総合法執行隊が生態環境部内に設立された。環境保護にかかわる取り締まりの専門性と効率が引き上げられた点に留意が必要だ。 - 衛生・健康関連
国家衛生・計画生育(出産)委員会が廃止され、同委員会の職責、国務院医薬衛生体制改革深化指導小組弁公室、全国高齢工作委員会弁公室、国家安全生産監督管理総局の職業安全健康監督管理の職責などが、新設の国家衛生健康委員会に統合された。医薬衛生体制改革がさらに強化され、医療と介護の融合などの高齢化対策も進む。 - 災害、緊急事態対応関連
国家安全生産監督管理総局が廃止され、同局、国務院弁公庁、公安部、民政部などにまたがる災害対応の職責が、新設の危機管理部に統合された。企業運営上の、安全生産監督、消防審査認可、危険化学品・危険物質の監督管理、職業上の健康などの法執行体制が改変され、危機管理部とその所管の地方機関が担当することになる。 - ビザ、就労許可関連
人力資源社会保障部所轄だった国家外国専門家局の、国外からの人材誘致の職責が強化され、科学技術部の中に再編された。また、ビザ、不法滞在、不法就労などの管理強化を目的に国家移民管理局が公安部の中に設立され、公安部の出入国管理、国境警備の職責が同局に統合された。 - 法制度構築関連
法律・行政法規の草案の作成、立法調整や届け出審査、解釈などを担ってきた国務院法制弁公室が廃止され、司法部に統合された。法制弁公室は、具体的な案件において法執行機関の判断に影響を与えてきたため、今後、司法部もしくは司法局のどこを窓口とすべきかが明らかになるまで、企業が混乱する可能性がある。 - 市場監督管理関連
国家工商行政管理総局、国家品質監督検査検疫総局、国家食品薬品監督管理総局、国家認証認可監督管理委員会、国家標準化管理委員会が廃止され、新設の国家市場監督管理総局に統合された。また、国家発展改革委員会の価格監督検査と独占禁止法の取り締まりの職責、商務部の経営者の集中に係る独占禁止法の取り締まりの職責、国務院独占禁止委員会弁公室の職責も同局に統合された。さらに、国家市場監督管理総局の中に、国家薬品監督管理局が新設された。なお、国家品質監督検査検疫総局の出入国検査検疫管理の職責は、国家市場監督管理総局ではなく、税関総署に組み入れられた。
国家市場監督管理総局が取り扱う分野は、企業の登録登記、独占禁止法、不正競争防止法、広告法、食品と薬品の安全監督管理にまたがり、企業の今後の日常的な経営活動において、国家市場監督管理総局とのやりとりが大幅に増えることになる。
国家知的財産権局の特許に関する行政、国家工商行政管理総局の商標管理の職責、国家品質監督検査検疫総局の原産地・地理的表示管理の職責は、国家市場監督管理総局が管轄する国家知的財産権局に統合された。これにより、特許、商標の行政取り締まりは統合されたが、著作権については統合されなかった。国家知的財産権局は、国家市場監督管理総局の管轄下となり形式上は格下げされたようにみえるが、特許、商標の登録登記や行政裁判決による決定の法的効力には影響しない。むしろ、市場監督管理の総合法執行チームが担当することで、市場における取り締まりが強化されることが予想される。 - メディア、出版関連
国家新聞出版広電総局が管理してきた分野のうち、ラジオとテレビは、新設の国家放送総局が管理し、報道・出版については、中国共産党中央宣伝部が管理することになった。また、中央電視台(CCTV)、中央人民ラジオ局、中国国際ラジオ局は、新設の中央放送総台に統合された。
企業の宣伝や製品の紹介に使用するインターネット上の動画も、管理や審査の対象となること、国家報道出版署が党中央宣伝部の直接管理を受けるようになり、報道・出版分野での取り締まり方針が変化する可能性があることに注意が必要である。 - 金融監督管理関連
中国銀行業監督管理委員会と中国保険監督管理委員会が廃止され、新設の中国銀行保険監督管理委員会に統合された。統合前の両委員会にあった、銀行業と保険業の重要法令の起草とプルーデンス(健全性・安定性)監督管理基本制度を制定する職責は、中国人民銀行に組み入れられた。統合の目的は、銀行業や保険業の合法かつ安定的な運営により、金融リスクを防止することにある。 - 社会保障関連
人力資源・社会保障部、国家衛生計画生育委員会、国家発展改革委員会、民政部にまたがっていた医療保険、生育保険の職責、医薬品や医療サービス価格を管理する職責などが、新設の国家医療保障局に統合された。ただし、社会保険のうち、養老保険や労災保険は、従来どおり人力資源・社会保障部が担当することから、社会保険については2つの組織で管理されることになった。 - 税務と社会保険料関連
地方政府における国家税務局と地方税務局が合併し、管轄区域内の税などの徴収、監督管理が一本化される。また、一部の地方政府では、労働行政機関が行っていた社会保険料の徴収が、税務局に統一される。税務局が社会保険料を徴収することにより、これまで存在していた、個人所得税の納税基数と社会保険料の計算基数が異なる状況が、当局から指摘され、いずれか高い方を採用して徴収される可能性が出てくる。 - 監察・監査関連
監察部、国家腐敗予防局が、新設の国家監察委員会に統合された。国家監察委員会は、国務院と同じレベルの権限を得る組織となり、全人代に対してのみ責任を負うことから、公務員に対する監察が厳しくなる。また、国家発展改革委員会、財政部、国務院国有資産監督管理委員会の監査機能が、監査署に組み入れられた。国有資産の譲渡、投資などの監督管理がより厳格化される可能性に留意が必要となる。 - 行政執行関連
行政処分権限が、国家市場監督管理総局の市場監督管理総合法執行隊、生態環境部の生態環境保護総合法執行隊、文化観光部の文化市場総合法執行隊、交通運輸部の交通運輸総合法執行隊、農業農村部の農業総合法執行隊の5つに集約された。従来の体制下における法執行の根拠となっていた法律、法規の整理、改正が予想される。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・北京事務所 次長
日向 裕弥(ひなた ひろみ) - 2016年からジェトロ・北京事務所勤務。