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エチオピア発スタートアップ、農業や医療テックで社会課題の解決目指す

2018年8月17日

エチオピアの通信市場は国営エチオテレコムが独占しているが、政府は部分民営化を進める計画を2018年6月に発表した。既に南アフリカ共和国の通信大手MTNやボーダコムなどが市場参入の意向を示しており、市場競争によるサービスの改善が見込まれている。こうした中、テクノロジーを活用したビジネスモデルで、社会課題の解決を目指すスタートアップの動きが加速している。エチオピアの首都アディスアベバ市内のスタートアップや、インキュベーション施設の関係者に最新の動向を聞いた(取材日:8月9、10日)

アグリテックを支えるインキュベーション施設

民間インキュベーション施設のブルームーンは2016年に設立され、これまでにスタートアップ30社を支援した。設立者のエレニ・ガブレ・マディン氏は、元エチオピア商品取引所の代表取締役で、アフリカにおける農業経済学の第一人者とされる女性だ。支援対象は農業に特化しており、中でもアグリテックが大半を占める。農業バリューチェーンをシステム統合することで仲介業者を減らし、農家と市場を直接つなぐプラットフォーム形成を目指すスタートアップなどが入居する。同施設のコーディネーターであるビルク・ヨセフ氏は「農業はGDPの4割を占め、雇用の8割を創出している。テクノロジーの導入で課題が解決され、効率化が図られれば、経済発展へのインパクトは大きい」と語る。


ブルームーン:アグリテックに特化した起業支援を行う(ジェトロ撮影)

起業を目指す若者の姿(ジェトロ撮影)

援助ではない持続可能な医療ビジネスを追求

エチオピア初のインキュベーション施設アイスアディスは2011年に設立された。ドイツ国際協力公社(GIZ)の援助で設立されたが、現在は民間運営で成り立っている。投資業務は行っておらず、コワーキングスペースや起業促進のためのイベントを運営する。

入居企業の1つである50ロミは、アディスアベバ大学出身のエンジニア2人が起業した医療テック企業だ。2015年に設立され、従業員は5人。病院向けの統合型業務システム(ERP)を開発し、サービスを提供している。創設者のテメスゲン・フィセハ氏はビジネス拡大の課題として、「産業界全体としてIT技術へのなじみが薄く、システムの理解が得られるまでに時間を要すること」を指摘する。同じく投資家も、テクノロジー分野に関する知見が少ないため、国内での資金調達のハードルが高いという。また、停電が多いことも障壁だが、オフラインでも機能するシステムを開発し、送信データを圧縮するなど対策を講じている。テメスゲン氏は「目指すところは社会におけるビジネスのデジタル化。エチオピアは1億の人口を有する大市場で、インターネット普及率の上昇とともに加速度的な成長が見込まれる」と将来を描く。


50ロミの創業者たち。右が創業者のテメスゲン・フィセハ氏(ジェトロ撮影)

海外から帰国して起業するケースも

もう1つの医療テックであるオービットヘルスは、米国シアトルで育ったエチオピア出身のエンジニアが、帰国して2016年に起業した会社だ。従業員は8人で、病院向けの予約管理、電子カルテ、薬剤管理などの統合システムの開発を手掛ける。創業者のパジオン・シェリネット氏は「米国の医療システムと比べることでアフリカの課題が見えてきた」という。病院の前で患者が長蛇の列をなしていること、電子カルテが病院や薬局間で共有されていないこと、偽造医薬品の流通、患者の検査データの取り違えのほか、診療・検査結果の患者へのメール通知サービスがなく頻繁な通院が求められること、など課題は山積だ。

こうした問題を解決するビジネスモデルを構築し、農村部や他のアフリカ諸国への広域展開を目指す。シェリネット氏によると、政府は多額の医療予算を計上しており、援助資金も加えると医療市場は新規システムを導入するのに十分な規模だ。政府に対しては、公立病院のデジタル化を進める提案も行っている。社会貢献の側面も大きいが、同氏は「より多くの収益を上げてビジネスを拡大させないことには、社会広範に改善をもたらすことはできない」と語気を強める。このため、米国での資金調達にも注力するほか、政府、政策決定者、国際機関、援助団体などへの説明に日々、奔走している。


オービットヘルス創業者のシェリネット氏:アフリカ展開を目指す(ジェトロ撮影)

専門家の視点―東京大学社会科学研究所・伊藤亜聖准教授のコメント―

今回、ジェトロと共同で調査を実施した東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授は、以下のように分析している。

  • 前提として、1人当たりGDPが900ドルに満たないエチオピアにおいて、IT技術を活用したスタートアップが存在するのか、どのようなビジネスモデルを持ち、いかなる人材がそこで活躍しているのかは、調査前には不明だった。これらの現地スタートアップの具体的な姿を理解するうえで、今回の調査は有意義だった。
  • 調査から見えてきたのは、第1に、エチオピアの現地スタートアップが、着実なビジネスモデルを模索している点である。ある意味で「中小企業」的ともいえるような、ビジネスモデルを採用していた。一般にはベンチャー企業やスタートアップは、ベンチャーキャピタルからの投資を受け、急激な成長によるスケール化と株式上場や大企業への売却による退出(Exit)を目指す。これに対して、アディスアベバにはブルームーンのようなアクセラレータが存在するものの、活発な投資を行うベンチャーキャピタルはいまだ存在せず、また起業家自身もIT技術を活用したソリューションビジネスを提供することで、持続的に事業を展開しており、例えば従業員を100人雇用することを目標にするようなパターンが現地で観察された。いわゆるシリコンバレー的なスタートアップとは大きく異なる将来像を描いている。
  • 第2に、スタートアップが事業展開しようとしている分野が、現状では農業(アグリテック)と健康・医療(ヘルステック)に集中していることは、エチオピアの現地経済の環境を反映している。農業セクターの大きさはアグリテックの領域で解決されるべき経済的・社会的課題の多さを意味するし、病院向けのITシステムの提供を目指す企業が複数確認できたのは、現状のエチオピアには、比較的高価なITシステムへのニーズを持ち、同時にIT化が遅れた領域が、病院セクター以外に存在しないからではないかと考えられる。ITシステムの導入は、例えば小売りチェーンなども候補として考えられるが、アディスアベバ市内を視察した限り、現時点ではサービスセクターの大規模チェーンの展開はいまだに限られていた。
  • このように考えると、アディスアベバで観察されたスタートアップ企業は、現地経済の現状の発展段階で、そして金融セクターから支援が限られているという環境下で、クラウドを前提として少額の資本で立ち上げて、なおかつビジネスとしても成り立ちうる領域で、徐々に拡大を目指している。米国での経験を持つ起業家や、米国の支援者との関係を持つ事例もあり、今後、それぞれの事業のパイロットケースが成功すれば、外国からの資金的援助も得て、当該領域でサービスを加速的に広げる可能性もあるだろう。
  • 個人的には、新興国で広くデジタルエコノミーの領域で加速的発展が起きる可能性があると考えており、「新興国×テック」という問題設定を行っている。この観点から言えば、1人当たりGDPの面では最も貧しいとされる地域においても、クラウドベースのITシステムによるソリューションを提供しようとする現地発ベンチャー企業が生まれていることは明記しておきたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。

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