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中・東欧 電気自動車普及の現状
市場シェアは小さいが、電池など生産拠点開発は旺盛

2017年12月26日

欧州では、電気自動車(EV)の普及で西欧が中・東欧に先行している。欧州委員会(以下、欧州委)は2016年7月、運輸部門から排出される温室効果ガス(GHG)削減のための政策指針「低排出モビリティー戦略」を公表し、さらに2017年11月には新たな自動車の二酸化炭素(CO2)排出規制案を公表した。中・東欧では、EV普及支援へのインセンティブが整っていない国が多いためか、西欧と比較してEVの市場シェアが小さい。一方、日韓企業を中心として、電池などのEV関連部品生産のための中・東欧への投資は増加しており、欧州企業も対抗策を検討している。

欧州委は新たな排出基準を公表

欧州では、EVの普及に向けた動きが加速している。ノルウェーではEVの市場シェアが約3割と突出して高いが、欧州連合(EU)加盟国ではオランダ(6.0%)とスウェーデン(3.6%)はEV普及の先頭を走る。また、フォルクスワーゲンの排ガス不正問題によるディーゼル車を敬遠する動きなどから、2017年7月にはフランスと英国が相次いで、2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する方針を発表するなど、特に西欧ではEVの導入促進に向けた動きが進む。

欧州委は2016年7月に、運輸部門から排出されるGHG削減のための政策指針「低排出 モビリティー戦略」を発表した。同戦略では、運輸部門から排出されるGHGが欧州全体の約4分の1に達しているとし、同部門におけるGHG排出量の70%以上を占める道路交通について排出規制を集中的に進めるとしており、エンジンから排出されるCO2を2021年以降も削減させることと、2030年までに、CO2排出が少ない、もしくはゼロの車両の市場シェアを拡大することの必要性を強調している。また、EUの運輸部門の約94%の消費エネルギーは石油に依存しているとし、電力、水素などの、代替エネルギーのシェアを、2030年までに同部門のエネルギー需要の15~17%に拡大する意向としている(注)。

また、欧州委は同戦略に沿って、2017年11月に2030年までの自動車のCO2排出規制案(新規制案)を発表した。欧州では2014年に改正された現行のCO2排出規制により、既に自動車メーカーは、2021年までに新車の平均CO2排出量を1キロ走行当たり95グラムまで削減する目標に取り組んでいる。新規制案では、CO2排出量を、2025年には段階的な目標として2021年の目標値(95グラム)から15%削減、2030年までには30%削減することを求めている。ガソリン車はもとより、現行のハイブリッド車にも厳しい目標値であり、今後さらにEVへの移行が加速すると見られる。

中・東欧ではEVの普及に遅れ

中・東欧では西欧に比べ、EVの市場シェアが小さい国が多い。中・東欧でシェアが最も大きいのはハンガリーの0.4%で、リトアニア(0.3%)、ラトビア(0.3%)、エストニア(0.2%)と続く。近年では自動車産業の集積地となっているポーランド、チェコ、スロバキアはEVの市場シェアではいずれも0.1%と低い数字が並ぶ。西欧では、アイルランド(0.5%)、スペイン(0.3%)、イタリア(0.2%)が比較的低いものの、大半の国でEVの市場シェアが既に1%に近いか、もしくは1%を超える水準となっており、中・東欧とはEVの普及に開きがある(表1)。また、全体の傾向として、1人当たりのGDP(国内総生産)が低い国で、EVの市場シェアが小さい国が多い。

表1:EU各国における電気自動車の市場シェアと1人当たりGDP(2016年) (単位:%、ユーロ)
市場シェア 1人当たりGDP
オランダ 6.00 40,400
スウェーデン 3.60 46,600
ベルギー 1.70 37,400
オーストリア 1.50 40,000
英国 1.40 36,400
フランス 1.40 33,400
フィンランド 1.20 39,000
デンマーク 0.90 48,400
ポルトガル 0.90 17,900
ドイツ 0.80 37,900
アイルランド 0.50 56,800
ハンガリー 0.40 11,500
スペイン 0.30 24,000
リトアニア 0.30 13,500
ラトビア 0.30 12,800
チェコ 0.10 16,500
イタリア 0.20 27,600
エストニア 0.20 15,900
スロバキア 0.10 14,900
ポーランド 0.10 11,000
ルーマニア 0.10 8,600
ブルガリア 0.05 6,600
ギリシャ 0.00 16,300
ルクセンブルグ n.a 92,900
マルタ n.a 22,700
キプロス n.a 21,000
スロベニア n.a 19,300
クロアチア n.a 10,900
ノルウェー(EU非加盟、参考) 29.00 64,000
スイス(EU非加盟、参考) 2.00 72,500
出所:
欧州自動車工業会(ACEA)を基にジェトロ作成

また、各国のEV購入に対するインセンティブにも差がある。例えば、EVの市場シェアの比較的大きいオランダでは、EVの購入者は自動車取得税を免除されるほか、複数の税制上の優遇措置を受けることができる。また、スウェーデンでは、CO2排出量が出ないEVの購入者に4万スウェーデン・クローナ(約53万2,000円、1スウェーデン・クローナ=13.3円)の購入補助金を与えられるほか、税控除などの優遇措置がある。EVの市場シェアが大きい国ではインセンティブが整っているところが多い。

表2:EU各国におけるEV購入支援施策の有無
購入補助(購入に関連する税控除・減額、登録税、輸入税、資金その他の購入支援) 所有者利益(年税控除、電力・エネルギーコスト減額) ビジネス・インフラ支援 地方インセンティブ(無料駐車、バスレーン通行、通行料金無償化、無料充電、市街中心の制限箇所の通行)
オランダ
スウェーデン
ベルギー ×
オーストリア
英国
フランス
フィンランド ×
デンマーク
ポルトガル
ドイツ
アイルランド
ハンガリー ×
スペイン
リトアニア × ×
ラトビア ×
チェコ ×
イタリア
エストニア × ×
スロバキア × × ×
ポーランド × × ×
ルーマニア × ×
ブルガリア × ×
ギリシャ × ×
ルクセンブルグ × ×
マルタ
キプロス × ×
スロベニア × ×
クロアチア × ×
ノルウェー(EU非加盟、参考)
スイス(EU非加盟、参考)
出所:
欧州環境機関(EEA)資料を基にジェトロ作成

中・東欧では西欧と比較してインセンティブが整っていない国が多いが、EVの普及を促進するための対策を導入する動きもみられる。ルーマニアでは、政府が電気自動車購入時のインセンティブを提供する「ラブラ・プラス・プログラム」を導入し、新規でEVを購入すると、4万5,000レイ(約130万5,000円、1レイ=29円)の補助金が与えられる。ポーランドでは、イノベーション促進、国内企業の海外進出支援などのための政府の経済政策「責任ある開発戦略」の一環として、「エレクトロ・モビリティー開発計画」を推進しており、2025年までに100万台のEVを普及させることを目標としている。また、チェコでは、政府が投資優遇措置を通じてエレクトロ・モビリティーの開発を支援する意向であることに加え、急速充電スタンドの普及に10億コルナ(約52億円、1コルナ=5.2円)を投資する計画がある。

電池で先行する日韓企業に欧州勢も対抗

欧州では日本・韓国企業のEV電池関連投資の動きも盛んだ。パナソニックは2022年までに車載用リチウムイオン電池の工場を欧州に建設する方針とされる。東レは2018年8月にはドイツにグリーンイノベーション関連事業の研究開発センターを開所するほか、2020年頃までにリチウムイオン二次電池用絶縁材の生産能力を引き上げる方針とされる。また旭化成は2017年10月にドイツに自動車・環境・エネルギー関連の研究開発センターを開所した。

中・東欧でも日韓企業の進出が進む。セントラル硝子は2017年3月にチェコにリチウムイオン二次電池用電解液製造・販売会社を設立し、今後生産工場を建設する予定だ。韓国のLG化学は 2016年10月に、ポーランドに4,000億ウォン(約400億円、1ウォン=0.1円)を投じて、EV電池工場を建設することを発表した。2017年5月には韓国のサムスンSDIがハンガリーに、1,000億フォリント(約420億円、1フォリント=0.42円)を投資して欧州初のEV電池工場を建設した。

欧州委は2017年10月に電池の開発・生産で欧州の関連企業を結集させる方針を発表した。電池関連投資で欧州へ進出するアジア企業や米国テスラに対抗するため、欧州企業のコンソーシアム構築を目指し、2018年2月にも「EUバッテリー・アライアンス」のロードマップを示すとみられる。また、欧州委は発表同日に、欧州の自動車大手や素材メーカーの役員らを招集しブリュッセルで会合を開いた。会合に参加したのは自動車大手のドイツのダイムラーやフランスのルノーに加え、ドイツの機械大手のシーメンスや化学大手のBASFなど。現在はEV電池生産で日本や韓国のメーカーが主導権を握るが、欧州企業が協力して、ギガファクトリー(巨大なEV電池生産工場)の設立を目指し、EVの生産・供給体制の主導権獲得を目指す考えだ。


注:
2016年8月10日付『通商弘報』「環境負荷が少ない車社会の実現目指す-欧州委発表の2021~2030年の気候変動対策(2)-」(ジェトロ)参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。

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