ミャンマーの織物職業訓練所のいま

2017年11月22日

ミャンマーでは今でも伝統的な衣装であるロンジーなどの織物が日常的に着用されている。織物の模様や柄は地域によって異なり、それぞれの特徴によってどこで織られたものかが分かるほどだ。しかし、伝統的な手法で作る織物は手間がかかるが、価格がそれほど高くなく、安定収入が得られないため将来の担い手が不足してきた。ミャンマー政府は伝統文化を保護するため全国の職業訓練所を積極的に支援している。本稿では、マグウェー管区のパコックとマンダレー管区のアマラプラにある織物職業訓練所の現状を紹介する。

1950年代の日本製織機が現役で稼働

ミャンマーでロンジーとよばれる巻きスカートを着用する人々の姿を目にした方も多いだろう。地方に旅行した際には、その地域の特徴的な模様や柄が施されたロンジーを土産品として購入するミャンマー人も多い。政府はこうした織物の伝統文化を保護するため、各地に織物の職業訓練所を設立し、入学者1人当たりに対し30,000チャット(22ドル)を支給するなど支援している。ミャンマー中央統計局によると、近年、織物の職業訓練所への入学者数は250人前後で推移している(図1)。


ミャンマーで一般的に着用される伝統衣装ロンジー。(ジェトロ撮影)

女性用には鮮やかな色合いのロンジーも多い。(ジェトロ撮影)
図1: 織物職業訓練所の入学者数の推移
2010年度206人、2011年度160人、2012年度234人、2013年度288人、2014年度231人、2015年度240人。

(出所)中央統計局資料に基づきジェトロ作成

マグウェー管区のパコックにあるパコック織物職業訓練所は、1951年に開校した伝統織物のみを取り扱う職業訓練所だ。現在、機械コースに15人、ハンドメードコースに2人の計17人の生徒が在籍している。機械コースといっても、近代的な全自動機織り機ではなく、旧式の機織り機で織るコースで、ハンドメードコースは手で地道に織るコースのことだ。同訓練所への入学資格は、機械コースが第8学年(日本の中学2年生に相当)、ハンドメードコースが第4学年(同小学校4年生)修了程度とされている。生徒はマンダレー管区やマグウェー管区、チン州、カチン州などミャンマー北部から集まる。チン州やカチン州には少数民族が多く居住しており、これらの地域には伝統的な織物会社が多く存在しているからだ。近年はハンドメードコースを中心に入学希望者が減少しており、生徒の獲得のために訓練所の講師が現地に赴くことも多いという。


パコック織物職業訓練所の機械コースの様子。
近代的な全自動機織り機ではなく、生徒は旧式の織機で織っている。(ジェトロ撮影)

マンダレー管区のアマラプラ(図2)にあるサウンダー織物職業訓練所は1914年に開校し、これまで4,500人の生徒が卒業した伝統校である。1950年代には日本から織物機械が送られたが、今なお現役で稼働しており、生徒が毎日日本製の機械で織物を作っている。訓練所の生徒は現在51人だが、パコックの織物訓練所と同様にハンドメードコースは人気が低く、4人しか在籍していない。同校にはミャンマー北部を中心に、バゴー管区やエヤワディー管区などからも生徒が集まるという。訓練所には織物の理論を教えるディプロマコースが設置されているのが特徴だ。この他にもハンドメード、タペストリー等のコースも設置されている。

図2:パコック・アマラプラ位置図
今回ヒアリングした織物訓練所は、ミャンマー中央部のパコック(マグウェイ管区)とアマラプラ(マンダレー管区)にある。

出所:ジェトロ作成


サウンダー織物職業訓練所には、1950年代に日本から送られた織物機械が
現在も稼働しており、今もなお大切に使われている。(ジェトロ撮影)

伝統文化をいかに残すか

両訓練所に共通する課題は、ハンドメードの織物の人気が低迷していることだ。サウンダー織物職業訓練所のドー・ティン・ティン校長は「ハンドメードは商品の完成までに1カ月かかるが、商品価格は150ドルから250ドル程度。他業種の方が収入が良く、魅力を感じられないのでは」と分析する。パコックの職業訓練所のウー・チョー・サム講師らも「地方に学生集めのため訪問すると、サンダルなどの履物工場やタバコ製造工場などに就職を希望する生徒が多い」という。事実、中央統計局によると、ミャンマーの綿織物の生産量は、2000年度に2万3,000キロメートルだったものが、2015年度は1,400キロメートルと大幅に減少している(図3)。

図3:ミャンマーにおける綿織物の生産量の推移
2000年度23,373キロメートル、2005年度16,187キロメートル、2010年度17,358キロメートル、2011年度10,001キロメートル、2012年度6,738キロメートル、2013年度2,946キロメートル、2014年度1,625キロメートル、2015年度1,387キロメートル。

出所:中央統計局資料に基づきジェトロ作成

一方、両職業訓練所の卒業生の満足度は高いという。入学者の多くは小学校や中学校でドロップアウトした子供たちが多く、職業訓練所が実質再教育の場となっているからだ。ドー・ティン・ティン校長は、「生徒は職業訓練所で初めて規律ある生活を送り、職業訓練所の寮で初めて団体生活を経験する。生徒へのしつけは大変だが、卒業時には見違えるほど成長する。生徒からも勉強になったと高評価だ」という。こうした評価が卒業生から伝わり、彼らの友人や知人が入学を希望してくることがよくあるという。

日本の伝統産業の分野では高齢化が進み、技術の存続が危ぶまれている。一方、ミャンマーでは若い年齢層が多く、伝統産業への担い手は豊富であるものの、多くの時間を費やす割に所得が低いなど、織物産業には若者らが魅力を感じないことが明らかにされた。このままではミャンマーの伝統産業も日本と同様衰退していくことが予想される。ミャンマー政府はこうした若者を支援し、いかに伝統産業を守り、残していくかが大きな課題といえよう。

執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
堀間 洋平(ほりま ようへい)
2003年中国電力株式会社入社。2015年ジェトロ海外調査部アジア大洋州課(出向)、2016年よりジェトロ・ヤンゴン事務所勤務。