米国・カナダ市場のビジネスチャンスを探る
世界主要国・地域の最新経済動向セミナー報告 北米

2017年12月26日

ジェトロは12月4日、北米最新経済動向セミナーを東京で開催した。ニューヨーク事務所の田中博敏所長が日系企業の北米ビジネストレンドを説明し、その後、北米7事務所の所長や次長が米国各地域やカナダの消費市場としての魅力や産業集積・立地環境について紹介した。各講師の講演内容のポイントを紹介する。

基調講演

「日本企業の北米ビジネストレンド」
ニューヨーク事務所長 田中 博敏

米国経済は7年連続のプラスとなり、堅調な個人消費に支えられ、緩やかな成長が続いている。個人消費では、ネット販売を含む無店舗小売などを中心に増加している。衣料品・服飾雑貨などでネット販売が伸びているが、最近は、ネット販売中心の企業による実店舗展開の動きもみられる。

地域別にみると、特に西部、南部では自然増と国内外からの転入により人口が増加し、国内総生産(GDP)成長率も高い伸びを示している。所得水準は、ニューヨーク州および周辺州やカリフォルニア州で相対的に高いが、都市圏別にみると、高所得地域は中西部や南部にも分散している。また、地域によって人種構成も多様で、きめ細かなマーケティングが必要である(図1参照)。

図1:北米市場(主要都市)のビジネスチャンス
北米の地図:各都市の位置を示す
ニューヨーク
  • 市場規模は米国最大。
  • 世界展開に向けたゲートウェイ、トレンドの発信源。
  • 金融、メディア、ファッションの中心地。
アトランタ
  • 「ビジネスのしやすさ」、「低いビジネスコスト」、「成長フロンティア」が特徴の新規参入有望市場。
  • 自動車、航空宇宙、先端材料、観光など我が国企業が活躍できる多様な産業クラスターが南東部諸州に集積。
ヒューストン
  • 人口、経済活動とも急速に成長を遂げるテキサス州は、税制や立地等、投資環境の良さから、内外企業の進出・拠点集約化がさらに進む。
  • ヒューストンはエネルギーのみならず、ハイテク、インフラのほか小売・流通などにも商機拡大。
  • 一方、ダラスもトヨタ本社が移転するなど企業の参入が続き成長著しい。
ロサンゼルス
  • 物流、食品、サービスを中心としたアジア貿易のゲートウェイ。
  • ジャパンハウス@ハリウッドによるクールジャパン発信拠点。
  • ハワイ、ラスベガス(サービス産業)、サンディエゴ(ヘルスケア産業)等も有望市場。
サンフランシスコ(シリコンバレー)
  • 世界的なイノベーションの中心であり、若さとこだわりで市場を創り出す消費地。
  • シアトル(WA)、ポートランド(OR)も有力都市。
シカゴ
  • 中西部は製造業、農業の中心地。
  • 機械・部品、ライフサイエンス、ロボティクス等先端製造業が立地。
  • 研究開発拠点を置く自動車メーカーも多い。
トロント
  • カナダ最大都市。
  • 海外で生まれた移民の割合は46%にのぼる。特に、アジア系の移民が多く、“ジャパン・ブランド”が受け入れられやすいビジネス環境。
出所:
ジェトロ作成。

日本は英国、カナダに次ぐ対米投資国で、日系企業の進出は高い水準で継続している。州別ではカリフォルニア州やテキサス州が多く、業種別では自動車関連の投資が目立つ。

トランプ政権の通商政策は2国間通商交渉へシフトし、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉は、米国側のサンセット条項の導入や、自動車の原産地規則の厳格化などの厳しい要求から、先行き不透明な状況。税制改革法案は下院に加え、上院でも可決した。法人税の引き下げ時期や所得税率区分などで下院案と上院案は異なり、一本化作業が必要だが、上院案に沿った形でのすり合わせであれば、早期に成立する可能性がある。


講演する田中博敏所長(ジェトロ撮影)

各論(第1部):世界最大の消費市場としての魅力

「米国北東部経済の動向と最近の進出事例」
ニューヨーク事務所次長 若松 勇

「ニューヨークは米国ではない」と言われる。ニューヨーク市では、市民の約4割は外国生まれであるうえ、ヒスパニック系、アフリカ系市民がそれぞれ3割、2割を占めるなど、多様な人種で構成されているのが、その大きな理由だ。

ニューヨークのある北東部には、コネチカット州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州など1人当たり平均所得の上位州が多くあり、日本企業にとって有望な市場を提供している。ニューヨーク都市圏のGDPは1.6兆ドル規模で、韓国やロシアを上回る。実際、ニューヨークを攻める日本企業は後を絶たない。最近では、立ち食いステーキ、おにぎり、理容店など、現地にはない日本らしいサービスを提供する企業が注目を集めている。

また、ニューヨークは「世界第2の起業都市」に変貌しつつある(図2、3参照)。金融、不動産、ファッション、メディアなど、多様な産業とIT技術を組み合わせて新しいサービスを提供する「ハイフンテック」が多く生まれている。数は多くないものの、日本人起業家によるニューヨークでのビジネス展開事例も出始めている。

図2:地域別VC投資の内訳(単位:%)(2016年)
シリコンバレー42.5%、ニューヨーク都市圏13.5%、ニューイングランド10.6%、ロサンゼルス・オレンジ郡8.5%、南東部4.7%、ワシントンDC都市圏4.6%、中西部3.7%、テキサス2.3%、北西部2.2%、その他5.2%
出所:
「マネーツリー・レポート」(CBインサイト、PwC)データを基にジェトロ作成。
図3:ニューヨーク都市圏の業種別VC投資額の内訳(単位:%)(2014-2016年)
インターネット65.1%、モバイル・通信9.2%、ヘルスケア6.2%、ソフトウェア(インターネット、モバイル除く)3.0%、コンピュータハードウェア・サービス0.8%、その他15.6%
注:
業種は全米で投資額が大きい上位5業種。
出所:
「マネーツリー・レポート」(CBインサイト、PwC)データを基にジェトロ作成。

「成長市場として注目集めるテキサス州」
ヒューストン事務所長 黒川 淳二

日本企業の進出先としてテキサス州が注目されている。理由は(1)地理的な好条件、すなわち米国の中央に位置し、米国内はもとより中南米地域へのアクセスが良好であること、(2)労働力や消費の担い手となる人口が豊富であること、(3)不動産やエネルギーなどビジネスや生活面でのコストが安いこと、さらに、(4)他州と比べて州の法人・個人所得税がないこと、などによる。

州内に本社をおく米国フォーチュン500企業は50社に達する。ジェトロの調査でも、「今後2~3年で拡大を期待する地域」としてテキサス州は3年連続トップを独占し、進出日系企業の期待を集めている(表1、2参照)。このため、日系企業による本社機能の州内への移転・新設が相次ぐ。

表1:今後2~3年で市場が拡大すると思われる州(2016年、業種別、複数回答)
順位 州名 業種 回答数
1 テキサス 合計 273
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 65
化学品/石油製品 34
一般機械(金型/機械工具を含む) 29
2 カリフォルニア 合計 175
化学品/石油製品 21
食品/農水産加工 19
電気機械/電子機器 18
3 ジョージア 合計 88
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 16
一般機械(金型/機械工具を含む) 15
食品/農水産加工 9
化学品/石油製品 9
4 ニューヨーク 合計 74
化学品/石油製品 12
食品/農水産加工 9
電気機械/電子機器 9
5 ミシガン 合計 67
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 20
化学品/石油製品 11
一般機械(金型/機械工具を含む) 7
6 イリノイ 合計 66
化学品/石油製品 10
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 9
その他製造業 7
7 インディアナ 合計 66
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 22
化学品/石油製品 8
鉄鋼(鋳鍛造品を含む) 6
8 オハイオ 合計 60
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 15
一般機械(金型/機械工具を含む) 12
化学品/石油製品 8
9 アラバマ 合計 60
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 22
一般機械(金型/機械工具を含む) 6
化学品/石油製品 5
鉄鋼(鋳鍛造品を含む) 5
金属製品(メッキ加工を含む) 5
10 テネシー 合計 59
輸送用機器部品(自動車/二輪車) 15
鉄鋼(鋳鍛造品を含む) 7
化学品/石油製品 5
注:
回答企業数は461社。
出所:
ジェトロ「2016年度米国進出日系企業経営実態調査」(2016年12月発表)

表2:今後2~3年で市場が拡大すると思われる州(2015年および2014年、業種別、複数回答)

2015年度調査結果(回答企業数499社)
順位 州/業種 回答数
1 テキサス 239
輸送用機器部品 54
化学品・石油製品 30
電気機器・電子機器 20
食品・農水産加工 20
2 カリフォルニア 162
3 ジョージア 69
4 ニューヨーク 65
4 オハイオ 65
5 テネシー 54
6 ミシガン 53
7 インディアナ 51
8 アラバマ 47
9 サウスカロライナ 42
2014年度調査結果(回答企業数469社)
順位 州/業種 回答数
1 テキサス 196
輸送用機器部品 44
電気機器・電子機器 20
食品・農水産加工 18
化学品・石油製品 18
2 カリフォルニア 123
3 オハイオ 76
4 ニューヨーク 65
5 ジョージア 52
6 テネシー 51
7 ミシガン 50
8 マサチューセッツ 45
9 インディアナ 39
9 ノースカロライナ 39

出所:ジェトロ「2016年度米国進出日系企業経営実態調査」(2016年12月発表)

産業別にみると、ヒューストン経済圏にはエネルギー企業の集積が多いが、上流の石油ガス採掘や精製に加えて、最近では石油化学分野、液化天然ガス(LNG)輸出のための用船需要など、バリューチェーンが拡大している。また、ダラス・フォートワース経済圏では、北米トヨタの本社が位置するプレイノ、ハイテク産業が集積するリチャードソンなど、経済エリアが北方へと拡大している。これに伴い日系スーパー、回転ずし、書店など外食産業・サービス産業の進出も相次いでいる。

「食品・サービス産業のゲートウェイ(米国西部)」
ロサンゼルス事務所長 西本 敬一

カリフォルニア州の人口は約4,000万人で全米1位、GDPは2兆6,020億ドルで世界第6位の規模。レストラン数は約7万軒、日本食レストランは約4,000軒あり、米国西部は食品・サービスのゲートウェイとなっている。

米国の農林水産物・食品の輸入状況をみると、日本のプレゼンスが低く、日本からの輸出を拡大するためには、非日系市場開拓がポイントとなる。非日系市場開拓の第1の鍵はターゲット・マーケティングで、平均世帯年収が高く、アジア系住民が多い定番都市以外の注目都市をいかに攻めるかが重要だ。カリフォルニア州クパチーノの平均世帯年収は10万ドルを超え、中国系比率は23.3%で、ミルピタスの平均世帯年収8万5,000ドルで、ベトナム系が13%集積している(表3参照)。

表3:注目都市の世帯平均年収(米ドル)、人口(人)、人種比率(%)
都市名 年収 人口 アジア 中国 韓国 フィリピン ベトナム 日本 白人
Cupertino $100,020 54,412 44.4 23.3(*) 4.1 0.8 1.0 4.5 50.0
Milpitas $84,565 62,840 51.7 12.9 1.2 14.9 13.0(*) 0.8 31.0
Cerritos $72,906 51,542 58.3 15.0 17.3(*) 11.8 1.8 3.2 26.9
Union City $71,863 66,457 43.8 9.1 1.4 18.8 3.2 0.6 30.0
Alameda $69,876 72,515 26.1 11.2 1.9 7.5 1.9 1.2 56.9
Mountain View $68,566 73,424 20.4 7.8 1.0 3.2 1.0 2.3 63.6
Daly City $62,623 110,768 49.6 13.3 0.8 30.7(*) 0.7 0.8 27.2
California $46,766 10.9 2.9 1.0 2.7 1.3 0.9 59.6
USA $39,349 3.6 0.9 0.4 0.7 0.4 0.3 75.2
注:
* はアジア系住民が多い注目都市。
出所:
Zip Atlas 2017

第2の鍵はマーケット・クリエーション。例えば、米国人はそもそも焼酎を知らないため、まずはシェフ、バーテンダー、ブロガーとともに知名度を上げていく。みそ汁については、菜食主義者にビーガンスープとしてPRし、Eコマースを活用するなど、商品の売れる市場を自ら作り出すことが必要。


第1部質疑応答の様子(ジェトロ撮影)

各論(第2部):恵まれた産業集積・立地環境

「再評価が進む製造業基盤:研究開発から生産まで幅広い分野に強み」
シカゴ事務所長 ラルフ・インフォザート

多くの米国企業は日本の製品や技術が素晴らしいことを認識しているものの、より良い関係を築くためには日本の高い技術力と同じくらい、人材(担当者)を育成することが重要だと米国企業の担当者は口をそろえる。

ビジネス英語で自社製品の技術的な内容を簡潔に説明できる能力や自社のグローバルな生産体制への深い理解など、効果的に商談を進められる人材が求められている。

シカゴ事務所次長 渡邉 尚之

日系企業は中西部12州で2,372社が25万人を雇用。雇用創出等による地元経済への貢献は日本が最も高く、2016年のジェトロ調査では8割の企業が黒字を見込む。2016年春ごろからは直接投資の相談も増加している傾向だ。

各州政府は企業誘致を競っており、企業の個別具体なニーズに応じて即座に即応性のある対応をとるなど、企業誘致のプロフェッショナルと言える(表4参照)。進出に当たっては幅広に検討し、州のインセンティブを引き出すことも重要と考えられる。

中西部の投資環境

  1. 対日感情が良好。日系企業は中西部12州で2,372社が25万人を雇用。諸外国の中で日本が雇用創出等地元経済への貢献度が最も高く、「信頼できるパートナー」と認識されている。80、90年代の貿易摩擦当時とは大きく異なっている。
    (日系企業による大型買収の例)
    • ソフトバンクによるスプリント(カンザス州)(米第3位の通信大手)買収、丸紅によるガビロン(ネブラスカ州)(穀物大手)、サントリーによるビーム(イリノイ州)(酒類大手)買収など。
      いずれも米国の基幹産業を担う大手企業だが、地元からの反発は見られない。州知事含め地元は日本企業が買収することによってむしろ「グローバルに発展させてくれる」との期待。
  2. 各州が日系企業の誘致を競う。インセンティブを比較しながら最適立地の検討が可能(ジェトロ・シカゴ事務所で州政府や地域の関係者をご紹介)。
    (投資優遇措置の例)
    • 固定資産税の軽減幅の拡大、免除期間の延長
    • 工事コスト、水道光熱費、従業員訓練費等の助成・一部負担
    • 低利融資
    • 州法人税の税額控除(新規雇用の規模、適格資産の取得価額、適格研究費金額など基準はケース・バイ・ケース)
注:
業種は全米で投資額が大きい上位5業種。
出所:
「マネーツリー・レポート」(CBインサイト、PwC)データを基にジェトロ作成。

一方、昨今の日系企業を取り巻く環境としては、雇用市場の逼迫(ひっぱく)やビザ発給が厳しくなっているとの意見も聞かれる。

「一層高まる『ビジネスしやすい場』としての魅力」
アトランタ事務所長 森 則和

「ビジネスしやすい州別ランキング」調査で米国南東部は常に上位を占める。「サイトセレクション」誌では上位10州のうち5州(ジョージア、ノースカロライナ、テネシー、サウスカロライナ、アラバマ)が南東部州である(表5参照)。理由は(1)低い労働組合組織率、安価な労働コストに代表される労働力、(2)乗降客数世界最大のアトランタ国際空港、貨物取扱量全米第4位のサバンナ港など、充実した物流インフラ、(3)低い法人税率、積極的な税額控除に代表される州政府・自治体による積極的な企業誘致など、による。

表4:ビジネスしやすい州別ランキング:南東部州が常に上位

「サイト・セレクション」誌 Business Climate
2016年
ランク
1 ジョージア
2 ノースカロライナ
3 オハイオ
4 テネシー
4 テキサス
6 バージニア
7 ルイジアナ
7 サウスカロライナ
9 アラバマ
10 インディアナ
「エリア・デベロプメント」誌 Doing Business
2016年
ランク
1 ジョージア
2 サウスカロライナ
3 テキサス
4 テネシー
5 ルイジアナ
6 アラバマ
7 フロリダ
8 インディアナ
9 ノースカロライナ
10 ミシシッピ

出所:各種資料を基にジェトロ作成。

産業別では各州とも自動車産業の集積が厚いことが最大の特徴だ。日産、ホンダ、トヨタなど日系企業、起亜、現代など韓国企業、メルセデスベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、ボルボ、ポルシェなど欧州系企業の進出に伴い、自動車部品企業が多く集積している。また、ボーイング787組立工場があるサウスカロライナ州では東レがボーイング社向け炭素繊維の工場を新設中だ。また進出日系企業の多くは、フロリダ州沿海部に立ち並ぶ高級コンドミニアムに代表されるハイエンド市場での高級子供服の販売、大型農機、オフロードバギーなど日本ではみられない魅力的な市場を開拓している。加えて、アトランタにはフィンテックやエンターテインメント産業など新しい企業の集積も進んでいる。

「米国発イノベーションの最新動向」
サンフランシスコ事務所長 中沢 則夫

シリコンバレーには名だたるIT企業が集積し、全米のベンチャーキャピタルの投資額の4割以上が集まるなど、ビジネスを行う魅力が多い(図4参照)。新しい産業・サービスも生まれ、破壊的イノベーションが日常的に起きている。また、成功した起業家が、その後エンジェル投資家となり、後進を育てるという好循環もある。

図4:2016年全米ベンチャーキャピタルの地域別投資額(単位:100万ドル)
Silicon Valley 24,916百万ドル、42.5% NY Metro 7,906百万ドル、13.5% New England 6,193百万ドル、10.6% LA/Orange County 4,965百万ドル、8.5% Southeast 2,770百万ドル DC/Metroplex 2,707百万ドル Midwest 2,163百万ドル Texas 1,330百万ドル Northwest 1,327百万ドル San Diego 1,275百万ドル Southwest 959百万ドル Colorado 671百万ドル North Central 523百万ドル Philadelphia Metro 497百万ドル Sacramento/N.Cal 152百万ドル Unknown 97百万ドル Upstate NY 72百万ドル South Central 67百万ドル AK/HI/PR 2百万ドル
参考:
日本のVC投資額は、2015年度で1,302億円。
注:
"Silicon Valley" は Northern California, Bay Area and Coastline を指す。
出所:
PWC MoneyTree Report Q1 2017

ただし、このイノベーションエコシステムも万能ではなく、課題もある。顕著なのは、人件費や賃料などコストの高騰だ。新卒エンジニアの年収は20万ドル程度と、日本の役員級になっている。賃料の高さは全米有数だ。また、シリコンバレーには何にでも挑戦できる風土がある一方、コアな情報が集まるインナーサークルに入り込むには、紹介してもらえる人脈を必要とするなど、華やかだけではない厳しい世界もある。

シリコンバレーには、2,000社を超える町工場がある。日々生まれる新しいコンセプトを形にするための試作工場の需要もある。産業別のGDPをみても、製造業は、金融・保険、専門・ビジネスサービスに次いで3番目に大きい。製造業の拠点ととらえることで、日本のものづくり企業にとっての魅力があることも最後に強調したい。

「日加ビジネス:そのポテンシャルをいかに生かすか?」
トロント事務所長 酒井 拓司

カナダは10の州と3の準州から成り、トロントは人口279万人の北米第3位の都市で多くの国から移民が流入し、「人種のモザイク」とも呼ばれている。カナダの移民の特徴は、インド、中国、フィリピンなどアジア系の割合が高い。

カナダ経済は好調で、国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、2017年は3.0%のGDP成長が見込まれる。自動車産業は米国中西部からオンタリオ州まで一つのサプライチェーンでつながり、米自動車大手3社とともに、トヨタ、ホンダもカナダで自動車を生産している。ケベック州には航空宇宙産業、西部は資源エネルギーや林業が盛んだ(図5参照)。

図5:カナダ各州の主な産業集積イメージ
ブリティッシュ・コロンビア、アルバータ:資源エネルギー、林業、IT/ゲーム/ビデオプロダクション アルバータ、サスカチュワン、マニトバ:農業 オンタリオ、ケベック:自動車、航空宇宙、IT/ゲーム/ビデオプロダクション、金融、小売・流通・サービス ニューブランズウィック、ノバスコシア、プリンス・エドワード・アイランド:水産業
出所:
ジェトロ作成。

日系企業の最近の進出事例としては、東明工業、富士通研究所、三井ハイテックなどが新規拠点を設立している。サービス分野では、ユニクロ、牛角、無印良品などが進出しており、最近は米国市場で成功後にトロントに進出するケースが増えている。カナダ市場での成功要因として、アジア系移民が移住する前から日本の商品を気に入っており、日本ブランドが評価され、SNSで人気が広がっていることが挙げられる。日本酒のカナダへの輸出量も伸びており、量より額の伸びが高い。中国系移民などが主に高額の日本酒を購入している。


第2部質疑応答の様子(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 課長代理
中溝 丘(なかみぞ たかし)
1997年、ジェトロ入構。海外調査部、国際交流部、経済産業省通商政策局(出向)、ジェトロ・ヒューストン事務所、産業技術部、企画部、経済産業省貿易経済協力局(出向)、ジェトロ・ヒューストン事務所長、サービス産業部などを経て、2016年4月より現職。