高い購買力の先進市場にビジネスチャンス
世界主要国・地域の最新経済動向セミナー報告 オセアニア

2017年12月28日

ジェトロは2017年12月12日、オセアニア最新経済動向セミナーと題し、オーストラリア、ニュージーランドの現地ジェトロ所長による講演会を開催した。両国の最新経済動向、日本企業へのビジネスチャンス、投資環境上の課題等について報告する。

堅調なGDP成長率と人口増、高い所得水準

オーストラリアとニュージーランドにおける2016年通年の実質国内総生産(GDP)成長率は、順に2.5%、3.6%であり、2017年はそれぞれ2.2%、3.5%と予測されている。両国とも、安定的に推移しており、特にオーストラリアの四半期別成長率(前期比)は、1991年以来26年(105四半期)連続で成長し、世界最長記録を更新している。

また、両国における長期的な人口増予測は消費市場および労働市場の拡大にもつながると期待される。オーストラリアは、移民増による影響もあるが、2017年3月時点で人口が約2,451万人(前年同月比1.6%増)、これが2056年には約3,572万人以上に増加すると見込まれている。ニュージーランドも2017年推計で約480万人の人口を有し、一定数の自然増による人口増が続いていることから、今後も経済をけん引する要因の一つとして期待される。

両国の消費市場の特徴は、富裕層が多く、購買力の高い消費者層が存在することだ。シドニー事務所の中里浩之所長は「オーストラリアの1人当たりGDP(国際通貨基金(IMF)統計で52,000米ドル(2016年11位)は、2005年との比較で43%も上昇している」と、所得水準の高まりをアピールする。オークランド事務所の林道郎所長も「ニュージーランドの1人当たり名目GDPは3万8,000米ドルに上り(2016年)、今後も富裕層は増加する見込みだ」と強調する。

日本からの主な輸出品目は自動車

2016年のオーストラリアから日本への輸出を品目別にみると、鉱物・燃料(57.6%)、飲食品・たばこ(11.3%)、製造品(4.1%)の順に多い。一方、日本からの輸入では、製造品(71.7%)、鉱物・燃料(13.4%)が上位を占め、そのうち製造品では特に自動車(35.3%)の割合が高い。2017年10月にトヨタ自動車がオーストラリアでの自動車生産を終了したため、今後は日本からの自動車輸入がさらに増えると予想される。

2016年のニュージーランドから日本への輸出品目別では、アルミニウム(15.2%)、酪農製品(13.8%)、木材・同製品(13.6%)、果実・ナッツ類(12.3%)など農林水産物・食品が中心となっている。一方、日本からの輸入は輸送用機器・部品(61.5%)や一般機械(15.6%)が上位を占め、ニュージーランドと日本は補完関係を維持している。

日系企業の進出動向と課題

外務省統計によると、オーストラリア進出日系企業数は698社であり(2016年10月時点)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などアジアと比べて進出数は少ない。しかし、中里所長は、「オーストラリアにおける投資残高を国別にみると、日本が世界第2位である。従来は資源・エネルギー分野の日本企業による進出が多かったが、近年はサービス産業を含めた他分野へも広がっている」と分析する。

一方、ニュージーランドには226社の日系企業が進出している(2016年10月時点)。林所長は、「農産地取得や高額投資プロジェクトなど一部例外を除き、一般的に同国の投資規制は最小限にとどまり、外資へ開放的な投資環境である」と説明し、日本企業による新規投資や事業拡大に期待する。

ジェトロが毎年実施する「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、ジェトロ調査)を参照しつつ、両所長が説明するところによると、2016年は両国とも、現地進出日系企業のうち7割以上が営業利益の黒字を見込んでいる。また、9割以上が今後の事業「拡大」または「現状維持」の意向を示しており、安定した成熟市場であることが伺えるという。

しかし、両国ともに日系企業が抱える投資環境上の課題として、人件費などの事業コストの上昇が挙げられる。特にオーストラリアでは、賃金は業種別、職級別のいずれも日本より高く、事務所賃料や電力料金などの物価水準も日本の約2倍に達する。中里所長によると、トヨタのオーストラリアからの撤退も、こうした現地の製造コストの高騰が背景にあるという。


現地市場の高い購買力を説明する、中里シドニー事務所長

整備された現地投資環境を紹介する、林オークランド事務所長

オーストラリアのビジネスチャンス

このように、コスト面で課題を抱える両国ではあるが、日本企業へのビジネスチャンスは残されている。中里所長は「サービス産業や農林水産・食品分野にビジネスチャンスが期待される。ジェトロ事業を活用して、オーストラリアへの進出や輸出に挑戦してほしい」と語気を強め、成功事例を紹介する。

サービス産業分野においては、ボディーケアやリフレクソロジーなどのヘルスケアサービスを提供する日本企業A社が、ジェトロが今年2月に実施した「オーストラリア・サービス産業海外進出支援ミッション」に参加し、その後もジェトロの支援ツールを活用し、12月にシドニーに店舗を出店した。同社によれば、進出理由として、物価水準が日本と近いこと、ワーキングホリデー制度を利用した現地日本人も多く、現地スタッフも確保しやすいことが挙げられるという。

また、農林水産・食品分野での対オーストラリア輸出にもビジネスチャンスがあるという。高級木材を利用したインテリア家具を販売する日本企業B社は、ジェトロが日本で実施した「海外バイヤー招へい商談会」に参加し、メルボルンの家具輸入会社との成約に結びついた。同社によれば、オーストラリアの高い所得水準が輸出成功の要因の一つであり、オーストラリア進出日系企業が抱える課題(高い物価や賃金水準)も、裏を返せば、高付加価値な日本製品が売れるチャンスを秘めているとのことだ。

さらに、日本からの農林水産物・食品の国別輸出額で、オーストラリアは9位(2016年は約124億円)であり、日本にとって重要な海外食品市場である。農林水産省統計によると、2016年は、清涼飲料水(約24億円)、ソース・調味料(約17億円)、アルコール飲料(約14億円)、ホタテ類(約8億円)などを筆頭に、日本からオーストラリアへ多くの加工食品が輸出された。中里所長によれば「価格帯が高く、高付加価値な日本製品は、物価水準が元々高いオーストラリア市場では需要がある」という。

最後に、イノベーション分野におけるビジネスチャンスが紹介された。同分野では、インフラ整備、産学連携、外国との共同研究など、イノベーション創出やスタートアップ育成を推進するため、オーストラリア政府による支援プラットフォームが整いつつある。また、バイオ分野での連携など、日豪間の連携の動きも見られるという。

ニュージーランドのビジネスチャンス

林所長は「安定した経済成長を続け、整ったビジネス環境を有する一方で、人口が少ないニュージーランドは、海外進出・輸出のテスト市場として最適だ」と強調する。実際、ジェトロ調査においても、ニュージーランド進出日系企業は、投資環境上のメリットとして、十分なインフラ、迅速で簡素な許認可手続き、簡素・透明な税制などを挙げている。また、欧米のIT企業ではニュージーランドで新技術・サービスのテスト販売を行い、その後オーストラリアで大規模展開する例も多々あるという。

また、ニュージーランドは、日本製中古車の有望な輸出市場でもある。財務省貿易統計(2016年)によると、日本の中古車の国別輸出台数では、ニュージーランドは第1位のUAE(117,236台)に続く第2位(114,904台)に位置している。同国では日本と同じく右ハンドル車の走行であり、かつ安全基準や排出ガス基準、所有権の証明書等の条件を満たした車両であれば、原則として自由に中古車を輸入できる。

さらに、ニュージーランド政府が、増加する移民流入などを背景に、不足する国内住宅問題を解決するため、今後10年間で10万戸の住宅を建設する方針である。林所長は、「目標達成には、地場の住宅建設業者だけでは供給が追い付かない可能性があり、ここにも日本企業が参入するチャンスがある」と分析する。

2018年に向けた注目ポイント:留意事項

オーストラリア政府は2017年4月、既存の長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)を2018年3月で廃止し、TSS(Temporary Skills Shortage Visa)ビザに移行することを決定した。これにより、長期就労ビザの対象職種(CSOL)の大幅な削減や、一部職種への追加要件の付与のほか、CSOLについてはビザの有効期限を2年とする職種リストと、4年とする職種リストに分割される予定だ。中里所長は、当該決定が現地日系企業にも多大な影響を与えることから、日本側から官民で、削減された職種の復活などを要望していると説明する。その上で、「2018年3月のTSSビザ導入以降は、もろもろの追加要件が発生するため、日系企業の負担増につながる可能性がある。現状、新制度の運用方法など詳細が不明な部分も多いため、今後の制度見直し状況や、順次公開される内容に留意する必要がある」と注意を喚起する。

一方ニュージーランドでは、9月23日に総選挙が行われ、与党(当時)の国民党(56議席)が第一党を維持したが、単独過半数には至らなかった。結果、9議席を確保した少数野党のニュージーランド・ファースト党(NZファースト党)が、第二党の労働党(46議席)と連立政権を組むことで、10月26日に政権交代し、新政権が発足した。林所長は、「新政権への移行後、与党の労働党は、11月11日にハノイで大筋合意されたCPTPP協定を歓迎するなど、CPTPPに対する前向きな姿勢を見せている」と報告する。しかし、同時に、連立政権内においても、CPTPPに対する姿勢は一枚岩ではないため、今後の政権運営に難しさを伴う可能性も指摘する。林所長は「ニュージーランドは、基本的には貿易・投資において開放的な国であるが、今後の政権運営や政策が、ビジネスに与える影響についても、注意深く見ていく必要がある」とまとめた。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 アジア大洋州課
田口 裕介(たぐち ゆうすけ)
2007年、ジェトロ入構。海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所出向(2014~2017年)。2017年より現職。