中南米 ‐ シェアリングが生む新たな社会

2017年8月15日

中南米・カリブ地域では、シェアリングエコノミーが拡大している。フィンテックを利用する国も増えており、安全資産としての注目度が高まっている。シェアリングやフィンテックから生まれる新しいビジネス形態が、この地域の社会生活にどのような影響を与えているか報告する。

民泊やレンタルサイクルの利用拡大

自動車、バイク、自転車などの移動手段や、自宅の空き部屋・スペースを他人とシェアすることで休眠状態にある資産を有効活用できるシェアリングエコノミーが世界中で広まっている。それをもたらしたのがスマートフォン(以下、スマホ)の普及だ。GSMA(携帯通信事業者団体)によれば、中南米・カリブ地域における2015年の携帯電話普及率は約65%(4億1,400万人)と世界平均(約62%)を上回り、20年には78%まで上昇すると予測している。中南米・カリブ地域の場合、その上昇率はサブサハラアフリカ(6.2%)に次ぐ第2位(4.8%)。また、携帯電話保有者のうち、スマホ保有率は12年の 10%から20年には70%に拡大すると予測される。特にブラジルは80%にも達するといわれる。スマホの普及は、SNSの利用だけでなく、休眠資産のシェア(シェアリングエコノミー)の浸透に寄与する可能性を秘めている。

シェアリングエコノミーが最も浸透するのは、ホテルを含む住環境面やタクシーなどの移動手段(モビリティー)面である。住環境面での代表例は、民家などの空き部屋・スペースの貸し出し仲介プラットフォームをオンライン上で提供する米国のエアビーアンドビー(Airbnb)。中南米・カリブ地域における民泊サイトの中では、サービスを利用できる国が最多。同地域内で同社サービスを導入している国数は、同業他社を圧倒する。

特に注目すべきはキューバでのサービスが開始されたことだ。15年7月の米国との国交回復に伴い、翌年の観光客数は前年比13%増の400万人に達した。急激な観光客数の増加に伴うホテル不足が問題となり、1泊当たりの宿泊費が急上昇した。国交回復に先立つ15年4月、一足先にキューバ市場に参入した Airbnbは、空き部屋の検索のしやすさや安価な価格を武器に、拡大する民泊需要を取り込んだ。米国では若者を中心に民泊サイトの利用が多く、民泊への抵抗感が少ない。キューバ側での米国人観光客の受け入れもスムーズに進んだといえる。また、宿泊料の支払いはサイト上で決済されるものの、観光客から受け取るチップはドル紙幣が多い。キューバ国民にとってはこれが重要な現金収入源となっている。

シェアリングエコノミーを税収確保の手段として着目した自治体も出てきた。例えばメキシコ市のケース。16年には約100万人がAirbnbを利用して民泊した同市では、17年6月1日からAirbnbを介して宿泊予約した場合には宿泊費の3%相当分を徴税すると発表した。今後、宿泊費が高額なリゾート観光地などでも、こうした課税手法が適用される可能性があるとみられる。

モビリティー面では、米国のウーバーテクノロジー(Uber)やスペインのキャビファイ(Cabify)が圧倒的なシェアを誇る。世界80カ国・地域で導入されている前者については、中南米では15カ国で利用可能だ。後者は11年にスペインの起業家がサービスを開始した。15年と16年には日本の楽天が計1億2,000万ドルを投資したことでも知られる。サービスの提供先はスペイン、ポルトガルに加え、中南米の10カ国に絞っている。

どちらのサービスもモバイルアプリを通じての配車が可能で、目的地までの経路を事前にオンライン上で確認できる。クレジットカードから引き落とすキャッシュレス決済が可能であり、車中での現金受け渡しは必要ない。さらに、利用料金を事前に確認することができるため、外国人やその土地に不慣れな旅行者も安心して利用できる。わざと回り道して高額な料金を請求するといった、いわゆる白タクの被害に遭わずに済むというわけだ。

メキシコやブラジルなど日本人駐在員の多い国ではこうした安全面を評価する日系企業が法人契約するケースも多い。そうしたケースでは、利用者個人が支払う必要はなく、UberやCabifyから契約企業宛てに送られた請求書に基づき、企業はまとめて支払えるという会計面での明瞭さも好まれる理由だ。

メキシコ市では自転車のシェアリングも人気。世界保健機関(WHO)によると、14年のメキシコの肥満率は27.6%と、中南米ではチリに次いで第2位。国民のダイエットを促進すべく、同市は10年からシェアリング型のレンタルサイクル「エコビシ」を導入している。年間416ペソ(約 2,500円、1ペソ= 6.0円)で、自転車が乗り放題、45分以内であれば最寄りのスタンドに無料で返却できる乗り捨て可能、非接触型の利用カードが使いやすい……などが「エコビシ」好評の理由だ。

現在、市内には450カ所の「エコビシ」スタンドがあり、6,000台の自転車が設置されている。10年の導入から17年5月末までの登録者数は延べ約25万人、利用回数は延べ4,200万回を数える。これは、カードを保有するメキシコ市民1人当たり平均168 回利用している計算だ。非接触型の専用カードだけでなく、モバイルアプリでの利用も可能となれば、登録者はさらに増えることだろう。

フィンテックの利用も

自国通貨の下落によるインフレ対策として、仮想通貨での資産保有に注目が集まっている。ハイパーインフレに見舞われているベネズエラでは、インフレ率が17 年に720%、18年には2,068%に達するとIMFは予測している。政府は二つの公式外貨発給システムのうち、固定為替レートの切り下げを13年 2月と16年3月に実施。3年間で1ドル=4.3ボリバルから10.0ボリバルへと切り下げた。また16年12月にはインフレ対応策として高額紙幣を発行するなど、国民にとっては金融資産確保が難しい状況だ。そこで、ビットコインをはじめとする仮想通貨に資産を移す国民が増えてきているという。こうした潮流に伴い、ベネズエラ政府は17年6月、金融規制当局監視の下、国内初のビットコイン取引所「マネーコイン(Moneycoin)」の運営を許可する決定を下した。

図:中南米のフィンテック関連スタートアップ企業数(2016年時点)

出所:米州開発銀行

メキシコでも同様の動きがある。国外に居住する家族からの送金額が、16年には過去10年で最多の 269億7,000万ドルとなった同国では、米国からの送金が257億4,200万ドルと全体の96.5%を占めた。特にトランプ米国大統領が候補時に、米国・メキシコ間の国境沿いの壁の建設費用としてメキシコに送金される金額の2%相当額を徴税して充てると公言していたことから、米国大統領選の開票月だった16年11月には、前年同月比25%増の23億7,100万ドルという家族送金額を記録した。米国側の送金者にとっては、国際送金にかかる送金手数料が大きな負担となる。そのため、今後は送金時の決済手数料や課税がほぼゼロであるビットコインなどの仮想通貨利用が増えると予測される。携帯電話利用者のうち、スマホ保有者が 70%を超えているメキシコでは、送金手段としての仮想通貨がブームとなる下地は十分あると考えられる。

主にスマホのアプリが利用されるシェアリングエコノミーには、アプリさえ開発すれば、個人ベースでもビジネスを始められるメリットがある。ただし国によっては、日本で言う旅行業法や白タク規制のような、独自の規制や労働組合との折衝に直面するなどのリスクが生じる可能性はあるため、法整備動向にアンテナを張っておく必要があろう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)などを経て現職。