ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版
コラムII 世界を引きつける日本発コンテンツ、さらなる成長の先へ
日々の活力の源となり、伸びるコンテンツ市場
読者の皆さまにとって日々の活力の源は何だろうか。食事、運動、スポーツ観戦、家族との時間など、三者三様の回答が予想されるが、アニメや映画、音楽の鑑賞、ゲーム、読書を挙げる方も多いのではないだろうか。キャラクターやアーティストの「推し活」という方もいるかもしれない。特に2020年以降、コロナ禍における急速なデジタル化を背景に、外出制限下における娯楽として、コンテンツを楽しむことが習慣化した人も多いだろう。
日本のコンテンツ市場規模は、こうした変化を背景に 2025年は前年比4.0%増の15兆8,676億円注1と過去最高を記録した。2020年以降、映像や音楽配信などのオンラインコンテンツやオンライン広告が牽引するかたちで、日本のコンテンツ市場は右肩上がりに成長を続けている。
デジタル化の波がコンテンツの普及を後押し
コンテンツ市場の拡大は、世界的なトレンドでもある。例えば、米国の大手動画配信サービスであるネットフリックスは、2019年末時点で1億6,709万人注2だった全世界の有料会員数が、2025年末には3億2,500万人に達し、世界190以上の国・地域でサービスを提供中だ注3。世界最大級のPCゲームプラットフォームSteamは、2020年に初めて同時接続ユーザー数2,500万人を突破したが、2025年にはピーク時の同ユーザー数が4,200万人に達している注4。また、2021年8月にソニーグループ傘下となったアニメ配信サービス、クランチロールの有料会員数は2,100万人に上り注5、2021年2月時点の約400万人注6から約5倍の成長を遂げた。これらデジタルプラットフォームの普及も後押しし、コンテンツは世界中に広がっている。また、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の拡大も背景に、消費者の声・ニーズが国境を越え、リアルタイムに発信されることが一般的となり、消費者がトレンドを作る動きも顕著だ。
存在感を発揮する日本発コンテンツ
こうした世界的な潮流の中で、日本発のコンテンツが注目されている。2024年の日本のコンテンツの海外売り上げ注7は前年比4.0%増の6兆44億円と、初めて6兆円を突破した(図表)。家庭用ゲームとアニメの合計が、全体の約9割を占める。中でも、全体の約3分の1(2.2兆円)を占めるアニメの海外売り上げは前年比26%増と大幅に増加し、牽引役となっている。
- 注:
- コンテンツ7分野は脚注7参照。
- 出所:
- ヒューマンメディア
世界では過去に類を見ない日本発コンテンツのブームが到来している。例えば、漫画『鬼滅の刃』は、アニメシリーズの配信に加え、劇場版2作品も世界各国で公開された。両作品の世界映画興行収入における日本以外の割合は、1作目の22.8%から、2作目は66.2%と約3倍に増加し、海外ファンの存在感が際立つ注8。ゲーム分野では、他業種から市場に参入する企業の動きや、小規模開発のゲームが大ヒットする事例が多く見られる。出版分野では、漫画だけでなく、日本の文学作品への関心も高まる。最近では、作家・柚木麻子氏による小説『BUTTER』が全世界累計201万部を超える大ベストセラーとなり、話題を呼んだ注9。現代小説では「猫」「書店」「カフェ」などをモチーフに何気ない日常や登場人物の悩みを解決する様を描く日本の文学作品が「ヒーリングフィクション」という新たなジャンルとして確立したほか、横溝正史や松本清張に代表されるミステリーから、純文学に至るまで、日本の文学作品全般が世界的なブームを生み出している。音楽分野では、海外でも人気となったアニメの主題歌を中心にストリーミング数における海外の比率が高まる。2025年の世界ストリーミング数では、アニメ主題歌である『チェンソーマン』の『KICK BACK』(米津玄師)や『【推しの子】』の『アイドル』(YOASOBI)で、海外再生比率が日本を上回った注10。
また、コンテンツのヒットにより、グッズなどに対する需要も高まる。中国発キャラクター『Labubu(ラブブ)』の世界的流行などに端を発し、性別や年齢を問わず、キャラクターグッズを身に着ける文化が定着し始めているほか、「キダルト(Kidult)注11」消費の拡大も注目されている。アジアを中心に癒やしや脱力感を与える日本の『カワイイ』キャラクターへの需要や日本でも流行する「平成レトロ注12」感のあるコンテンツへの関心の高まりも見られる。
デジタル化により流行の伝播(でんぱ)は加速したが、一方で衰退の速さや競争の激しさも増す。これらの海外ファンのニーズをいかに時差なく取り込み、日本発コンテンツのプレゼンスを持続させるかが課題だ。
ブームを一過性とせず、官民合同で産業振興へ
2022年6月、経団連はクリエイティブエコノミー委員会を立ち上げ、2023年4月に「Entertainment Contents ∞ 2023」と題した提言を発表した。同提言では、日本コンテンツの海外売り上げは拡大する一方、「機会損失により韓国・中国の後塵(こうじん)を拝し、世界シェアは減少傾向にある」と警鐘を鳴らし、2033年の日本のコンテンツ産業のあるべき将来像として「世界における日本発コンテンツのプレゼンスを持続的に拡大する」ことを定めた。これを契機に、日本のコンテンツ産業振興を目的とする政策が前進し、2024年6月発表の「新たなクールジャパン戦略」において「2033年までにコンテンツの海外市場規模を20兆円」とする政府目標が設定された。今の海外売り上げを3倍以上に引き上げる必要がある。2025年10月に発表された経団連の緊急提言では、「これまで以上に本腰を入れ、複数年にわたる大規模かつ戦略的な支援を今すぐ行うべき」と指摘する。海外展開支援においては、(1)グローバル市場調査・情報提供体制の強化、(2)グローバル展開作品へのローカライズ注13費用の支援強化、(3)重点IPなどの海外向けプロモーション強化に重点が置かれる。経済産業省では、コンテンツ産業政策の見直しを行い、2026年3月から新たな支援制度(IP360)注14を開始している。政府支援の拡充により、官民投資双方の拡大を目指す狙いだ。
ジェトロでは、映画・映像、アニメ、ゲーム、音楽、書籍・漫画、キャラクター分野を対象に、日本のコンテンツ企業の海外展開を後押しすべく、2024年度から「コンテンツ海外展開支援拠点」を設置し、2026年5月末現在で、海外7事務所注15にコンテンツ専門人材を置いた。業界からの高いニーズが期待される情報発信、相談対応、プロモーション支援、ネットワーキング・マッチング支援などを行っている。最近では、海外のコンテンツ関連イベントにおいて、食品分野などの他の産業との連携を図り、新たなターゲット層への露出拡大にも取り組む。世界のファンを引きつける日本発コンテンツの魅力は、「多様性」と「深み」にある。あらゆるジャンルが重層的に広がり、古典から最新作に至るまで豊富な作品が存在することで、一人ひとりの異なる「好き」に応え続けてきた。この強みを礎に、今後も世界中のファンへ日本のコンテンツを届けていくためには、官民が一体となり、不断の取り組みを推進していくことが不可欠だ。
注記
- 注1
-
ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース2026 Vol.19【速報版】【概要案内】
」(2026年) - 注2
-
Netflix “Letter to Shareholders, 2019 Fourth Quarter Earnings
(476KB)”(2020年1月21日付) - 注3
-
Netflix “Letter to Shareholders, 2025 Fourth Quarter Earnings
(2MB)”(2026年1月20日付) - 注4
-
Steam「Steam-2025年を振り返って
」(2026年3月7日付) - 注5
-
SONY「決算短信・業績説明会資料:2025年度スピーチ原稿(経営方針)
(6.2MB)」(2026年5月8日付) - 注6
-
Crunchyroll “Crunchyroll Reaches Four Million Subscribers!” (2021年2月2日付)
- 注7
-
脚注1参照。コンテンツ7分野の海外売り上げ合計。7分野は、映画(実写)、テレビ番組(一般)、アニメ(劇場・放送・配信等の映像と商品化ライセンス含む)、家庭用ゲーム(ソフト販売)、家庭用ゲーム(オンライン)、スマホ・PCゲーム、出版(漫画を主とする)。
- 注8
-
Box Office Mojo by IMDbPro “Worldwide Box Office
”(2026年5月8日閲覧)。1作目は2020年、2作目は2025年の世界映画興行収入を参照。2作目の世界興行収入は、1作目の約2倍となる7.9億ドルで世界第7位。 - 注9
-
河出書房新社リリース
(2026年6月25日付) - 注10
-
ルミネイト調べ(2026年5月8日時点)
- 注11
-
子供(Kid)と大人(Adult)を組み合わせた造語で、一般的に子供向けとされる商品やコンテンツなどを積極的に楽しむ大人、その消費行動を指す。
- 注12
-
平成期に流行したファッションやキャラクターに注目し楽しむ文化。
- 注13
-
海外の言語、文化、規制への対応等。
- 注14
-
経済産業省「コンテンツ産業支援メニューIP360
」(2026年5月8日閲覧) - 注15
-
ロサンゼルス、バンコク、ニューデリー、上海、ソウル、パリ、サンパウロ。
(2026年7月28日)



