ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版
コラムI 日本の農林水産物・食品輸出
農林水産物・食品の輸出額は1.7兆円超え
2025年の農林水産物・食品の輸出額は、前年比12.8%増の1兆7,005億円となり、13年連続で過去最高を更新した(図表1)。単月の輸出額は、全ての月で前年同月を上回った。内訳を見ると、少額貨物を含めた全体の64.7%を占める農産物は、前年比12.1%増の1兆1,008億円と初めて1兆円を超えた。林産物は同10.2%増の735億円だった。前年に減少した水産物も、17.2%増の4,231億円と顕著に伸びた。2023年8月に、東京電力福島第一原子力発電所がALPS処理水を海洋へ放出したことに伴う諸外国・地域の輸入規制の影響は残るが、輸出先の多角化により水産物全体の輸出額は増加した。
- 出所:
- 農林水産省「農林水産物・食品の輸出実績」から作成
関税の影響を受けつつ、米国が輸出先トップ
輸出額上位5カ国・地域は、米国、香港、台湾、中国、韓国の順で前年と変わらなかった(図表2)。輸出先上位20カ国・地域の中では、ロシア、インドネシア、英国、マレーシア、フィリピン、カナダ、韓国で、前年比20%以上の伸びが見られた。
輸出先首位の米国向け輸出は、13.7%増の2,762億円だった。上位3品目は、緑茶(293億円、82.6%増)、ぶり(284億円、24.1%増)、アルコール飲料(277億円、4.7%増)だった。緑茶が初めて米国向けで輸出額トップの品目となった。米国による相互関税措置が導入されたものの、緑茶や牛肉(154億円、14.5%増)に対する旺盛な需要を背景に、輸出は好調だった。
| 順位 | 国・地域名 | 2024年 | 2025年 | |
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 伸び率 | ||
| 1 | 米国 | 242,925 | 276,175 | 13.7% |
| 2 | 香港 | 220,964 | 222,845 | 0.9% |
| 3 | 台湾 | 170,279 | 181,165 | 6.4% |
| 4 | 中国 | 168,087 | 179,865 | 7.0% |
| 5 | 韓国 | 91,134 | 109,372 | 20.0% |
| 6 | ベトナム | 86,198 | 95,376 | 10.6% |
| 7 | タイ | 62,804 | 73,535 | 17.1% |
| 8 | シンガポール | 55,698 | 56,342 | 1.2% |
| 9 | ロシア | 7,677 | 41,401 | 439.3% |
| 10 | オーストラリア | 32,766 | 38,208 | 16.6% |
| 11 | フィリピン | 28,738 | 35,755 | 24.4% |
| 12 | オランダ | 26,784 | 30,257 | 13.0% |
| 13 | マレーシア | 23,062 | 29,118 | 26.3% |
| 14 | カナダ | 22,564 | 27,436 | 21.6% |
| 15 | ドイツ | 16,086 | 18,054 | 12.2% |
| 16 | 英国 | 13,201 | 17,726 | 34.3% |
| 17 | インドネシア | 12,739 | 17,256 | 35.5% |
| 18 | フランス | 14,377 | 16,266 | 13.1% |
| 19 | アラブ首長国連邦 | 10,114 | 11,917 | 17.8% |
| 20 | カンボジア | 11,013 | 11,892 | 8.0% |
| EU | 85,777 | 99,668 | 16.2% | |
- 出所:
- 財務省貿易統計、農林水産省「農林水産物輸出入概況」から作成
第2位の香港向け輸出は、0.9%増の2,228億円となった。真珠(355億円、5.8%増)や牛肉(85億円、10.3%増)、鶏卵(77億円、14.4%増)が好調な一方、ホタテ貝(調製、74億円、36.7%減)や乾燥なまこ(調製、70億円、22.6%減)が減少した。干し貝柱やボイルホタテ用のホタテ貝が不漁により減少したことや、なまこの単価下落などが要因だ。
第3位の台湾向け輸出は、6.4%増の1,812億円となった。牛肉(133億円、17.9%増)や清涼飲料水(53億円、13.4%増)、菓子(米菓除く)(45億円、13.4 %増)が好調な一方、りんご(105億円、32.5%減)、ぶどう(29億円、17.8%減)が減少した。特にりんごは、春節需要期のずれに加えて、高温や雪害により贈答用の大玉で見栄えの良いものが確保できなかったことなどにより大幅に減少した。
第4位の中国向け輸出は、7.0%増の1,799億円だった。アルコール飲料(292億円、19.4%増)、小麦粉(61億円、15.9%増)を中心に増加した。ALPS処理水の海洋放出による輸入規制の影響により、水産物の輸出額は67億円だった注1。前年比では9.8%増とやや増加したものの、輸出規模としてはいまだ、規制が導入された2023年比で約1割にとどまる。
第5位の韓国向け輸出は、20.0%増の1,094億円だった。いわし(18億円、618.2%増)、インスタントコーヒー(23億円、144.1%増)、ぶり(119億円、55.4%増)、菓子(米菓除く)(26億円、24.4%増)などが好調で、韓国向け輸出全体を大きく押し上げた。
緑茶、ホタテ貝、ぶりなどの輸出額増加が顕著
輸出額上位5品目は、アルコール飲料、ホタテ貝(生鮮など)、緑茶、牛肉、ソース混合調味料だった(図表3)。昨年8位であった緑茶の輸出が急増した結果、3位となった(詳細は後述)。上位10品目の顔ぶれは前年から変わらなかった。
| 順位 | 品目名 | 2024年 | 2025年 | |
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 伸び率 | ||
| 1 | アルコール飲料 | 133,710 | 149,477 | 11.8 |
| 2 | ホタテ貝(生鮮・冷蔵・冷凍・塩蔵・乾燥・くん製) | 69,489 | 90,587 | 30.4 |
| 3 | 緑茶 | 36,380 | 72,094 | 98.2 |
| 4 | 牛肉 | 63,588 | 71,664 | 12.7 |
| 5 | ソース混合調味料 | 62,988 | 67,735 | 7.5 |
| 6 | 清涼飲料水 | 57,431 | 60,428 | 5.2 |
| 7 | ぶり(活・生鮮・冷蔵・冷凍) | 41,427 | 52,775 | 27.4 |
| 8 | 真珠(天然・養殖) | 41,189 | 41,167 | △ 0.1 |
| 9 | 菓子(米菓を除く) | 34,372 | 37,384 | 8.8 |
| 10 | 丸太 | 28,227 | 29,848 | 5.7 |
- 出所:
- 財務省貿易統計、農林水産省「農林水産物輸出入概況」から作成
首位のアルコール飲料の輸出額は、前年比11.8%増の1,495億円。シンガポールでの日本産ウイスキーの認知度向上や需要拡大を背景に、ウイスキーが12.2%増の490億円と好調だったことが要因の1つだ。2位のホタテ貝は、30.4%増の906億円。中国や香港による輸入規制の導入以降、輸出先が多角化され、特にベトナム向けで加工用冷凍ホタテの輸出が増加した。また、日本国内でのホタテ貝の不足により、輸出量は減少したものの単価が高騰したことで輸出額が増加したことが背景にある。4位の牛肉は12.7%増の717億円と堅調に増加。5 位のソース混合調味料は、7.5%増の677億円。米国・アジアでの日本食への関心の高まりやインバウンドの増加により、マヨネーズのほか、ごま味やしそ味などさまざまな調味料の人気が高まったことなどが背景にある。
そのほか、7位のぶりは、脂の乗った大型サイズの需要の高まりなどで米国向け輸出の単価が上昇した結果、輸出額の増加(528億円、27.4%増)が目立った。
抹茶ブームで爆発的な輸出増
輸出の伸びが顕著なのが緑茶だ。2025年の輸出額は、前年比98.2%増加の721億円(数量は43.3%増の1万2,612トン)と、2021年比で3.5倍以上へ急増した(図表4)。首位の米国向けが293億円(シェア40.7%)と圧倒的で、ドイツ、英国、タイ、台湾がこれに続く。オランダ(5.9倍、7位)や英国(5.0倍、3位)の増加も目立った。
世界的な抹茶ブームを背景に、特に欧米や東南アジアにおいては、健康志向や日本食への関心の高まりなどから、ラテやスイーツなどの食品原料として利用される抹茶を含む粉末状茶の需要が増加した。同様に、アジア向けを中心に緑茶飲料の人気が高まり、清涼飲料水の輸出増加の一因となっている。一方、海外需要の高まりを受け、日本産の原料不足により供給が追い付かない状況も生まれ、他国産への切り替えの流れも出つつある。
そのほか上位10品目に入っていないものの、納豆(32億円、48.2%増)や、かんしょ(さつまいも)・加工品(44.7億円、24.0%増)などはタイをはじめとするアジア市場での人気を背景に、輸出の伸びが顕著であり、抹茶に続くブームとなることが期待される。
- 注:
-
- 緑茶はHS0902.10、HS0902.20。
- 2025年の上位10カ国・地域を表示。
- 出所:
- 財務省貿易統計から作成
米国に関する相談最多、新規市場への関心高まりも
ジェトロは2012年度より農林水産物・食品輸出相談窓口を設置し、日本企業からの相談を受け付けている。2025年度は1万件近くの相談が寄せられた。相談対象国・地域としては、米国、タイ、台湾、中国、ベトナムの順位相談件数が多かった(図表5)。
米国は、従前からの米国食品安全強化法(FSMA)に関する相談が多く、加えて米国の関税措置に伴う関税率や手続きに関する相談が寄せられた。
また、ALPS処理水放出に伴う輸入規制について、一部条件付きでの輸入再開や日中関係の情勢も影響して、中国向けの相談割合が若干増加した。そのほかベトナム、UAE、インドなど新規市場への相談割合も増加傾向にあった。
- 注:
-
- 詳細な相談件数は未公表。
- 上位15カ国・地域を表示、それ以外は「その他」。「全地域」は国・地域を特定しない相談。
- 出所:
- ジェトロ
新規市場への販路拡大や輸出先の多角化が急務
日本政府は、「食料・農業・農村基本計画」(2025年4月11日閣議決定)に基づく「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(2025年5月30日改訂)にて、2030年までに達成すべき政府目標として、(1)農林水産物・食品の輸出額5兆円 、(2)食品産業の海外展開による収益額3兆円、(3)インバウンド(訪日外国人旅行者)による食関連消費額4兆5,000億円を設定した。
「輸出の促進」に関しては、輸出拡大などによる「海外から稼ぐ力」の強化が掲げられた。「今後成長する海外の食市場を取り込み、農林水産物・食品の輸出の促進を図ること」が重要であるとし、モノの輸出のみならず、食品産業の海外展開やインバウンドによる食関連消費の拡大と併せた相乗効果を図る方針を定めた。
中東情勢や米国関税措置、日中関係の緊張など先行き不透明な国際情勢の下で輸出先が偏ることをリスクと捉え、新規市場への販路拡大や輸出先の多角化に取り組むことが急務である。これらの状況を踏まえて、日本企業や生産者は、日本政府、自治体や関係機関などの支援策をうまく活用することも選択肢となる。
「日本の食輸出1万者支援プログラム」始動
2026年4月10日、農林水産省と経済産業省、ジェトロなどは、農林水産物・食品の輸出拡大に向けた新たな支援の枠組みとして、「日本の食輸出1万者支援プログラム」を開始した。政府を挙げて、輸出先として有望な市場への売り込みや、輸出に取り組む事業者の掘り起こしを進める。特に付加価値の高い加工食品の輸出を伸ばすため、輸出に挑戦する中小企業に対し、相談対応や伴走型支援を行うとともに、適切な支援策の周知を図る。
政府が目標とする2030年までの5兆円と、現状の輸出実績との差は大きく、達成に向けて抜本的なペースアップが不可欠である。そのためには、ホタテや牛肉、緑茶などの一次産品だけではなく、みそ、しょうゆ、菓子、納豆などの加工食品の輸出増が期待される。
「フラッグシップ輸出産地」との連携
また、農林水産省は2024年から、海外の規制やニーズに対応しながら継続的に輸出に取り組み、他の産地の規範となる産地を「フラッグシップ輸出産地」として認定している。畜産物、青果物、水産物、茶、米などを中心に、2025年12月時点で全国108産地が認定を受けている。輸出産地の生産や供給力を強化するとともに、輸出先国での販路拡大およびサプライチェーン構築による継続的・安定的な輸出拡大を図る。ジェトロや農林水産物・食品輸出支援プラットフォーム注2などと連携して、海外でのプロモーション活動を実施することで、新市場での販路開拓や非日系市場などの新規商流の構築を目指す。
成長戦略分野フードテックへの期待
最後に、農林水産物・食品の輸出拡大の前提として、日本国内の食料安全保障を確保するために、農林水産業の振興が必要とされる。そこで期待されるのが、日本政府が掲げる成長戦略分野の1つであるフードテックだ。フードテックは、生産から加工、流通、消費などへとつながる食分野の新しい技術やその技術を活用したビジネスモデルを指す注3。例えば、持続可能な食料供給に貢献できるものとして、わさびやいちごなどの植物工場や、サーモンの陸上養殖などが挙げられる。今後、日本独自の技術やノウハウは、食や農業分野において競争力あるビジネスを創出し、輸出拡大にも寄与することが期待される。
注記
- 注1
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2025年6月、中国が日本産水産物の輸入の一部再開を発表したものの、現時点では実質的に停止されたままだ。そのため、日本から中国への水産物輸出は、錦鯉などの観賞魚や真珠、さんごが大半を占めた。なお、ALPS処理水にかかる規制導入前の対中水産物輸出は、2022年に過去最多の871億円を記録していた。
- 注2
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「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略
」に基づき、マーケットイン・マーケットメイクの輸出を進めるため、輸出先国・地域において輸出事業者を包括的・専門的・継続的に支援するため設立。在外公館、ジェトロ海外事務所、JFOODO海外駐在員が主な構成員となり、10カ国・地域(16拠点)に設置。 - 注3
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日本でも、(1)大豆などの植物性たんぱく質を用いた植物性商品の開発、(2)フードロス削減など持続可能な食料供給、(3)省人化や農業・水産業のスマート化など食産業の生産性向上、(4)栄養食やアレルギー対応など健康な食生活といった観点で、新たなビジネス創出への取り組みが進む。詳細は、農林水産省:大臣官房新事業・食品産業部「フードテックをめぐる状況
(4.2MB)」(2026年2月)参照。
(2026年7月28日)



