2025年12月
世界のライフサイエンス投資呼び込む柏の葉
2025年12月16日
セラレスの新施設の外観イメージ図(提供:三井不動産)
CAR-T細胞療法製品の製造拠点に
長年、ものづくりの分野で、その高い技術力を誇ってきた日本が今、ライフサイエンスの分野でも注目を浴びています。そのなかでも、2030年まで年率30%以上の成長率で市場が拡大するとされる、細胞・遺伝子治療の領域(*1)に海外から投資の波が押し寄せています。
細胞治療薬などの受託製造を手掛ける米カリフォルニア州の統合開発製造機構(IDMO)、セラレス(Cellares)は2025年5月に、千葉県柏市の柏の葉地区にアジア初の主要開発・製造拠点を設立すると発表しました。米製薬大手ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)と締結した3億8000万ドル(約580億円)のグローバル・パートナーシップに基づき、同社からの委託を受けて、がん患者から採取した免疫細胞を遺伝子操作する「CAR-T細胞療法」の治療薬製品を国内で製造します。
セラレスのCEOであるFabian Gerlinghaus氏は、インタビューに、「世界レベルの医療規制当局を持つ日本には、深い科学的専門知識の蓄積がある。また、CAR-T細胞療法に対して高い需要が存在する」と指摘しました。日本の科学インフラや成長するバイオテック・エコシステムが、ビジネス上の大きな魅力であるとしたうえで、「私たちは、日本をアジアネットワークの要、またより広範な地域への事業拡大の起点と位置づけています」と語ります。
セラレスCEOのFabian Gerlinghaus氏
バイオメディカルクラスターの形成を強化 海外の企業・投資家にとって、魅力的なエコシステムに
千葉県柏市の柏の葉地区は、東京都心から電車で30分の距離に位置します。同地区はこの10年で、東京大学と国立がん研究センターのサテライトキャンパスを核に、スタートアップやグローバルな医療関連企業、研究機関が集積するバイオメディカルクラスターへと変貌しました。
セラレスは施設の本格稼働に伴い、数百人規模の日本人研究者、臨床医、技術者を採用する見込みです。また、地元の大学や医療機関と提携して次世代の細胞療法専門家を育成するなど、バイオテック分野で日本の競争力を強化する「人材への投資」を続ける計画です。
柏市の太田和美市長は、セラレスの進出について、「ライフサイエンス拠点化に向けたまちづくりを行ってきた当該地区の成長をさらに加速させるもので、本市にとって大変意義深く、うれしく思っている」と歓迎するコメントを出しました。
これらの進展の背景には、日本政府が行ってきた許認可プロセスの効率化や研究への資金補助、柏の葉などのバイオメディカルクラスターの強化への支援があります。バイオメディカルの分野で市場アクセスや研究協力を求める、海外の企業・投資家にとって、魅力的でより力強いエコシステムが形成されています。
提供:東京大学柏キャンパス
「命を救う治療」迅速化とコスト削減
細胞治療薬の製造拠点が国内に作られることで、患者は即座に大きなメリットを実感できるようになります。これまで、一般的には、日本の医療機関は患者から採取した血液細胞を、米国内の施設にいったん輸送し、細胞医薬品として加工したものを日本へ輸送し患者に戻しており、複雑な輸送のリスクやコスト面の課題を抱えてきました。セラレスの柏の葉新施設が稼働することで、物流リスクやコストが低減され、医療業界で「Vein-to-Vein(血管から血管へ)タイム」と呼ばれる採血から患者への投与までの時間が大幅に短縮されます。
あわせて、セラレスのような企業の進出が、新たなパートナーやサプライヤー、さらには関係企業を地域に惹きつけてクラスターの評価を向上させ、さらなる日本への投資を呼び込む好循環となることが期待されます。
日本をバイオテックの牽引役に
日本はこれまで、米国や欧州と比較して、バイオテックの牽引役とは見られていませんでしたが、その認識は変わりつつあります。Gerlinghaus氏は、「再生医療の急速な進歩、政府のイノベーション支援に加えて、高齢化や慢性疾患の増加などの人口動態面の変化が、「新たな治療法」への需要増大につながっている」と指摘します。
「柏の葉のエコシステムに加わることを嬉しく思います。日本の関係機関と手を携えることで、新たな治療法を発展させ、雇用を生み出し、患者さんにより良い未来を提供できる。こうした共通の目標と長期的な協力関係、相互発展によって細胞治療の未来を真に加速することのできるエコシステムが日本には存在しています。それこそが、日本が魅力的な投資先である理由です」。Gerlinghaus氏はそう力を込めます。
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