本レポートにおいては、観光産業における魅力的な市場として以下の3分野を取り上げます。
(1)金融サービス
(2)OTA
(3)ホテル・宿泊施設
日本政府は観光を、成長戦略の柱、地方創生への切り札と定め、2016年3月の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、訪日外客数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人という目標を掲げました。一方で、新型コロナ感染拡大の影響により、全方面からのインバウンド需要は大幅に減少しており、また、国内においても旅行のキャンセル、予約控えや外出自粛の影響を受け、観光需要は大きく減少し、全国の旅行業、宿泊業はもとより、地域の交通や飲食業、物品販売業など多くの産業に深刻な影響が生じています。政府は、感染状況や旅行需要の回復状況を踏まえながら、感染拡大防止策を取ることを前提に、当面の観光需要を担う国内旅行の需要を喚起しつつ、本格的なインバウンド回復に備えた取り組みを進める予定です。
最先端のICTを活用して製品・サービスやビジネスモデルの革新を図るDXを観光分野に取り入れることは、日本の観光競争力向上に向けての喫緊の課題です。また、新型コロナによって深刻なダメージを受けている地域経済を立て直すためにも、DXによる観光ビジネスの生産性向上や高付加価値化は必要不可欠になっています。
2020年7月には内閣に設置された「まち・ひと・しごと創生本部」が、地方創生の政策の方向としてDXを強力に支援することを明確に発信しており、さらに、総務省は2021年度予算の概算要求で、地方自治体のDXに向けて38億8千万円を計上しています。経済産業省は、「スマートリゾートハンドブック」を発行し、DXを通じて、訪日客の誘客や消費促進を図るとともに、地域の生産性や持続性を高め、高い国際競争力を持った観光産業を生業とする地域づくりをするための情報をまとめています(図表4)。
技術名 | 特徴 | 活用事例 |
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第五世代移動 通信システム(5G) |
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Wi-Fi6 |
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IoT |
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位置情報 |
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生体認証 |
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AR・VR |
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AI(人工知能) |
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ロボット技術 |
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ビッグデータ |
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自動運転 |
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社会的課題の解決に観光DXを役立てている例として、オーバーツーリズムが深刻化していた京都市では、観光スポットにおける人出と過去のデータを組み合わせてAIで分析し、渋滞予測を提供して消費者の行動変容(行く先や訪問時刻の変更)を促しています。また、新型コロナ禍で「新しい旅の形」が求められる中、オンラインツアーで消費者との接点を保ったり、ホテルやショッピングモール、エンターテイメント施設等で、非接触型サービスによる高度な衛生管理を実現したりする事例が、日本各地で始まっている状況です。
その他、国内観光需要喚起とコロナ後のインバウンド喚起のための観光広報活動やプロモーション、インバウンド回復までの受け入れ環境整備(観光地等における多言語対応や無料Wi-Fi整備、空海港での旅客手続き自動化、税関手続きにおける電子ゲートの導入等)においても、ICT活用が期待されています。
日本政府観光局(JNTO)は、訪日しようとする外国人旅行者が容易に日本の情報を入手できるよう支援しています。訪日に必要なビザ情報等は元より、災害時の情報の広く迅速な発信を行うとともに、デジタルマーケティングを強化し、データ分析の高度化や分析データのプロモーションへの活用等を行うことで、相手方の属性や関心を踏まえた的確な情報発信や効果的なプロモーションを実施しています。
在外公館においては、運用しているSNSアカウントを活用して、外務省、JNTO、地方公共団体、現地メディア等が発信した日本情報(観光・文化・歴史・トレンド等)のコンテンツを再発信し、日本の魅力を広く世界に届け、欧米豪及び大口新興国マーケット、若年層、富裕層を主なターゲットに親日層を開拓しています。サンパウロ、ロンドン、ロサンゼルス3都市にあるジャパン・ハウスや、「日本ブランド」を体現する専門家を派遣しての現地での実演やワークショップを通じて、日本の文化、伝統、科学、技術等を発信しているところです。SNS等を活用した動きは、紙媒体や記録媒体中心であった古い観光広報ツールからの脱却を図るものであり、誰もがアクセスできるインターネット上で公開することで、情報の透明性をより高めることに繋がっています。
訪日外国人旅行者向け消費税免税制度は、利用者・事業者双方のニーズに対応するため、毎年改正されています(図表5)。2016年5月の改正では、免税の対象となる最低購入金額が「5,000円以上」に引き下げられました。化粧品や医薬品、トイレタリー製品など単価の低い消耗品や、地方への波及効果が見込まれる民芸品・伝統工芸品についても、免税で購入しやすくなることで、訪日外国人旅行者のインバウンド消費を促進しています。財務省と観光庁はさらに 2018 年度税制改正で、一般の物品と消耗品の購入額を合算し 5,000 円以上になれば免税対象とする改正を行いました。
年月 | 改正内容 | |
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2014年10月 |
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2015年4月 |
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2016年5月 |
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2017年10月 |
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2018年7月 |
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2019年7月 |
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2020年4月 |
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近年、訪日外国人旅行者向けにお土産を販売するIoT技術を搭載した自動販売機が人気であり、従業員を介さずに販売を行った物品についても免税の対象にして欲しいという事業者のニーズに応える形で、2020年の改正では、一定の基準を満たす自動販売機の設置については人員の配置が不要となりました。パスポートの提示に代わり、顔認証機能や文字認識機能で免税手続きが完了するため、外国語対応等ができる人員の確保が難しい地方部においても、免税販売が拡大することが予想されます。
外国人旅行者数が大幅に伸びている日本において、旅行体験の満足度を高めるための多言語対応は喫緊の課題と言えます。空港・港湾、公共交通等の移動手段、観光地に至るまで、より一層快適でストレスフリーな旅行環境を実現させるため、政府や各自治体は、観光案内所、デジタルサイネージ等の案内板、スマートフォンを通じたトータルでの多言語情報提供体制の整備に努めています。また、東京オリンピック・パラリンピックに向けて設置された「多言語対応協議会」はポータルサイトを開設し、多言語対応に取り組む上での参考資料、全国各地の自治体や民間団体等による先進的な取組事例等を全国へ発信し、各地で多言語対応を推進しています。多言語対応サービスを提供するベンチャー企業等も積極的に紹介しています。
多言語対応の事例として、「ホテルマイステイズ」では、ソフトバンクが開発した人型ロボット「Pepper(ペッパー)」をリモートコンシェルジュとして導入しました。Pepperはマイステイズのコールセンターと連携することで、日本語・英語・中国語での言語サポートを実現しています。これは国内のホテル業界としては初の試みで、多言語対応はもちろん、人材不足解消の足がかりとなる等、プロモーションの一環にもなっています。
また、神奈川県鎌倉市では、オリックスと協定を結び、訪日外国人観光客向けの情報案内サービスを導入しています。NFC(近距離無線通信技術)が搭載されたプレートや二次元バーコードをスマートフォン等のモバイル端末で読み取ることで、端末の言語設定に対応した言語(日本語、英語、中国語、韓国語)に翻訳された状態で観光情報を取得できるようになっています。さらに、AR(拡張現実)技術を活用し、日本語表記情報をリアルタイムで多言語化するサービスを展開する計画も立てており、さらなる多言語化対応が期待されています。
その他、こちらも急増するインバウンド需要に対応するため、2018年に通訳ガイド制度が大きく変わりました。通訳案内士の業務独占規制が廃止され、これからは資格を有さない人であっても、有償で通訳案内業務を行えるようになります。通訳ガイドの一定の質を確保しつつ、量的確保を目的とした改正となり、外国人旅行者の個人ツアー等で活動できる人材が増加する見込みです。
1. 全体概況
2. 政府の取組
3. 魅力的な注目市場分野
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