観光
政府の取り組み

インバウンド需要の拡大と観光産業のさらなる発展に向けて、デジタル化や持続可能な観光、地方観光の推進が進む

(1) インバウンド需要の拡大に向けた政府の取り組み

政府は、インバウンド強化に向けて日本の観光の魅力を発信しており、多様なマーケティング戦略を策定しています。2025年の大阪・関西万博の影響も大きいと考えられ、日本の観光産業の盛り上がりはさらに高まることが予測されています。

マーケティング戦略の1つとして、全世界への訪日プロモーションが挙げられます。民間企業や地方自治体と連携しながら、さまざまな切り口で観光資源を発信しており、訪日観光および国際交流を促進しています13

また、「観光立国推進基本計画」を踏まえ、2023年度-2025年度の訪日マーケティング戦略が決定されました。持続可能な観光・消費額拡大・地方誘客促進の実現に向けて、市場別マーケティング戦略(訪日経験者の数に基づいた、消費額増加・地方誘客促進等の市場別戦略策定)、市場横断マーケティング戦略(高付加価値旅行、アドベンチャートラベル、大阪・関西万博)、MICE(国際会議、インセンティブ旅行等)マーケティング戦略の3つで構成されています。とりわけ、市場別マーケティング戦略においては、22の国・地域別に戦略を策定しており、訪日経験者が多くリピーターが見込まれる市場(東アジアを中心としたアジア圏)や滞在期間が長く持続可能な観光への関心が高い市場(ヨーロッパ・カナダ)において、地方誘客の強化や地方の認知度向上を目標としています14(図表5)。

図表5「訪日マーケティング戦略(2023年度-2025年度)の抜粋」

戦略種 注力分野の概要(例)
市場別マーケティング戦略
  • リピーターへの更なる取り組み
    (東アジア、シンガポール)
  • リピーター・新規訪日層の両方を視野に入れた誘客
    (東南アジア、米国、オーストラリア)
  • 地方誘客の促進、地方部の認知度向上
    (東アジア、東南アジア、欧州、カナダ)
市場横断マーケティング戦略
  • 高付加価値旅行(*1)の取り組み強化
  • 日本国内のアドベンチャートラベル(*2)の推進
  • 大阪・関西万博にてSNS等活用した訪日旅行商品の造成支援
MICEマーケティング戦略 大阪・関西万博やポストコロナ禍のニーズの変化を踏まえたMICE(*3)の誘致

大阪・関西万博においては、万博を契機として、日本のものづくり技術やアニメ等のコンテンツの良さを国内外へ伝えることを目的とした催事も企画されており、生産誘発額は最大222.4億米ドル*(3.4兆円)に上ると見込まれます16。日本の魅力を世界へ発信する絶好の機会であり、観光産業に追い風となることが期待されます17


(2) 持続可能な観光と地方への観光客誘致

人口減少が進む日本において、外国人旅行者と地方の交流を生み出す観光は、地方活性化の切り札としてもとらえられています。訪日経験者における地方訪問意向が、高所得層を中心にアジア、欧米、オーストラリアで約9割に達するなど、日本国内の地方への観光に注目が集まっていることから18、観光客誘致による地方におけるインバウンド消費の増加が見込まれます。一方で、国際的な意識の高まりを受け、日本政府は持続可能な観光地域づくりの実現を目指しており、地域の観光資源(自然、文化・歴史、地場産業)の経済利用と保全の両立を図りながら、地方における持続可能な観光を推進すること19が重要となっていくと考えられます。

持続可能な観光が推進されている背景として、自然と自然に根ざした文化の提供およびオーバーツーリズムの防止・抑制が挙げられます20。また、地方を訪問する旅行者の急増が地域社会に与える経済効果だけではなく、自然環境等への負の影響も明らかになっています。地域に暮らす生活者と観光客の両方にとって、より良い地域づくりを目指す機運が日本国内で高まっています21。政府は、「日本版持続可能な観光ガイドライン」を公表し、関連研修の拡充や国際的な認証・表彰の取得促進等、持続可能な観光地域づくりに取り組む各地域へ支援を行っています22。こうした政府の後押しもあり、国連世界観光機関(UNWTO)による「ベストツーリズムビレッジ」に、2023年時点で計6地域(北海道美瑛町、北海道ニセコ地区、宮城県奥松島地区、長野県白馬村、岐阜県白川村、京都府南丹市美山地区)が認定されました。「ベストツーリズムビレッジ」とは、観光を通じた自然・文化遺産の保全等により、持続可能な観光地域づくりに取り組む優良な地域(人口1.5万人以下で第一次産業を行っている地域が対象)を認定するプロジェクトです23。観光庁は、「第4次観光立国推進基本計画」において、2025年までに持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数を100地域に、その中から「ベストツーリズムビレッジ」のような「国際認証・表彰地域」数を50地域にすることを目指しています24

外国人による地方エリア(東京・大阪・京都を除く地域)の訪問希望率の高さから、都市部や有名観光地だけではなく、日本の地方・非都市部への関心が集まっていることがうかがえます。地方エリアの訪問は、コロナ禍前の調査においても一定の注目を集めていましたが、訪日旅行リピーターが多い台湾・シンガポール等のアジア圏を中心に、地方エリアへの訪問意向が高まっており、地方への外国人観光客増加が予測されます(図表6)。

図表6「日本の地方エリア(東京・大阪・京都以外の地域)へ訪問意向のある人の割合(上位22の国と地域)」

台湾、大都市+地方エリア訪問希望58.8%、地方エリアのみ訪問希望34.1%。 タイ、大都市+地方エリア訪問希望45.0%、地方エリアのみ訪問希望44.9%。 フィリピン、大都市+地方エリア訪問希望55.5%、地方エリアのみ訪問希望32.3%。 香港、大都市+地方エリア訪問希望54.6%、地方エリアのみ訪問希望32.9%。 インドネシア、大都市+地方エリア訪問希望56.8%、地方エリアのみ訪問希望30.3%。 シンガポール、大都市+地方エリア訪問希望51.2%、地方エリアのみ訪問希望34.1%。 ベトナム、大都市+地方エリア訪問希望46.1%、地方エリアのみ訪問希望38.0%。 インド、大都市+地方エリア訪問希望42.5%、地方エリアのみ訪問希望41.4%。 韓国、大都市+地方エリア訪問希望39.4%、地方エリアのみ訪問希望43.7%。 マレーシア、大都市+地方エリア訪問希望49.6%、地方エリアのみ訪問希望32.1%。 中国、大都市+地方エリア訪問希望43.2%、地方エリアのみ訪問希望37.6%。 メキシコ、大都市+地方エリア訪問希望48.1%、地方エリアのみ訪問希望29.8%。 イタリア、大都市+地方エリア訪問希望49.2%、地方エリアのみ訪問希望22.0%。 スペイン、大都市+地方エリア訪問希望45.0%、地方エリアのみ訪問希望23.8%。 米国、大都市+地方エリア訪問希望37.9%、地方エリアのみ訪問希望28.6%。 豪州、大都市+地方エリア訪問希望46.1%、地方エリアのみ訪問希望17.3%。 中東地域、大都市+地方エリア訪問希望40.5%、地方エリアのみ訪問希望20.6%。 ドイツ、大都市+地方エリア訪問希望31.1%、地方エリアのみ訪問希望28.9%。 フランス、大都市+地方エリア訪問希望38.6%、地方エリアのみ訪問希望20.9%。 英国、大都市+地方エリア訪問希望34.8%、地方エリアのみ訪問希望23.8%。 カナダ、大都市+地方エリア訪問希望38.8%、地方エリアのみ訪問希望17.4%。 北欧地域、大都市+地方エリア訪問希望34.1%、地方エリアのみ訪問希望20.2%。

〔出所〕日本政府観光局のデータを基にジェトロ作成25


(3) 観光DX、ICT活用による観光地・観光産業の付加価値事業

訪日外国人観光客の増加に伴う、観光産業の収益や生産性の向上には、先進的なデジタル技術やデジタル化によって収集されたデータを利活用することが必要不可欠となります。2023年、観光分野のDXを通じて、地域活性化・持続可能な経済社会を実現する方針が観光庁により発表され26、ICTを活用したインバウンド受け入れ環境整備や、DXを通じた観光地・観光産業の付加価値化支援が進められています。旅行形態・消費者ニーズへの対応を通じた観光客の利便性の向上、観光地経営の高度化、観光デジタル人材の育成・活用といった課題がある 中27、解決に向けて各地域では観光DXの導入が進むと考えられます。

先進事例の創出に向けた観光DXの実証事業も進められており28、旅行者の消費拡大、再来訪促進、観光産業の収益・生産性向上や事業者間・地域間のデータ連携の強化によって収益の最大化を目指す取り組みが実施されています29

例えば、観光分野のDX推進に向けた優良事例集では、渋滞・混雑情報や予約機能を備えたデジタルマップを導入し、最適な周遊ルートと観光資源を表示・推奨することで、オーバーツーリズムの防止と旅行者の消費促進の両方を可能にした事例(神奈川県箱根町)や、体験アクティビティの一元予約システムを導入することで収益を増加させながら、地域の飲食・交通・宿泊等の集約したデータを事業者に提供することで、効果的な経営を支援する事例(北海道ニセコ地区)等の国内事例が紹介されています30

その他にも、JTBと他3社による、決済プラットフォーム「stera」を活用した宿泊・観光事業者へのキャッシュレス推進31やJR西日本による、観光DXプラットフォーム「tabiwa by WESTER」を活用した、観光・交通チケットのキャッシュレス化32といった事例が挙げられます。多様な観光DXの事業事例が確認でき、観光DX分野のさらなる盛り上がりが期待されます。

一方で、観光産業におけるデジタル化は発展途上であり、さまざまな課題に対して政府は解決の方向性を示しています(図表7)。

図表7「政府資料に示されている、観光産業におけるデジタル化の課題と観光DX推進における解決の方向性」

デジタル化の課題
  • 旅行会社への過度な依存とアナログな予約管理形態
    旅行者の情報収集ツールはSNSに変化し、旅行形態もFIT(個人旅行)、SIT(特定の興味や目的に絞った旅行)へ変化しているにもかかわらず、特に宿泊業において、旅行会社からの送客への過度な依存や紙台帳による予約管理といったアナログな経営がみられる。
  • DMPおよびCRM導入の遅れ
    地方公共団体、観光地域づくり法人などでは、デジタル化やDXに対する意識への高まりを見ることができるが、DMP(データ管理プラットフォーム)やCRM(顧客関係管理システム)を導入している団体・法人は全体の2割に満たず、活用が限定されている。
  • 地域間・事業者間の連携の不足
    観光アプリ等のサービス開発や、PMS(顧客予約管理システム)のカスタマイズ等、独自で観光地、宿泊事業者がDXを進めることによって、地域間・事業者間での連携が困難な状況になっている。
解決の方向性
  • 旅行者の利便性向上・周遊促進
    シームレスな情報発信、予約・決済が可能な地域OTAサイトを構築する。その時・その場所・その人に応じたレコメンドを提供する。
  • 観光産業の生産性向上
    PMSの導入徹底による情報管理の高度化、経営資源の適正な配分を行う。PMSやOTA等で扱うデータ仕様の統一化を行う。地域単位での予約情報や販売価格等の共有によるレベニューマネジメントの実施・収益向上を図る。
  • 観光地経営の高度化
    旅行者の移動・宿泊・購買データ等を用いたマーケティング(CRM)を行う。DMPの活用を通じた誘客促進・消費拡大を目指す。

このような国内の観光DXの課題に対応するために、国外のデジタル人材・ICTノウハウのさらなる活用や、DX活用やデータ連携を通じた、利便性向上と消費促進を図る試みが期待されています。


  1. *

    日銀換算レート1ドル150.07円で計算(2024年3月1日時点)


脚注
  1. 日本政府観光局 「持続的な観光・消費額拡大・地方誘客の実現に向けた訪日プロモーションを展開」 (pp.5-15)
  2. 日本政府観光局「訪日マーケティング戦略」
  3. 前掲注13, 14
  4. アジア太平洋研究所「大阪・関西万博の経済波及効果-最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-」
  5. 近畿経済産業局「大阪・関西万博を契機とした日本の魅力発信」
  6. 日本政策投資銀行・日本交通公社「DBJ・JTBF アジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査2023年度版」 (p.24)
  7. 観光庁「持続可能な観光地域づくりのための体制整備等の推進」
  8. 観光庁 「新たな『訪日マーケティング戦略』を策定しました」 (p.3)
  9. 日本政府観光局「サステナブル・ツーリズムの推進」
  10. 前掲注20
  11. 観光庁 「日本の4地域が『ベストツーリズムビレッジ』に選ばれました!」
  12. 観光庁「観光立国推進基本計画」
  13. 日本政府観光局 「世界 22 市場を対象とした国外旅行・訪日旅行に関する新たな調査結果を公表!」 (pp.8, 9, 34) 、日本政府観光局「往来再開を見据え、世界 22 市場で訪日旅行意向に関する独自調査を実施 ~訪日旅行の潜在的な市場規模は推計3.3億人~」 (p.14)
  14. 観光庁 「観光DX推進のあり方に関する検討会 最終取りまとめ(概要)」 (p.2)
  15. 観光庁「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」
  16. 観光庁「『観光DXによる地域経済活性化に関する先進的な観光地の創出に向けた実証事業』の公募を開始します」
  17. 前掲注26
  18. 観光庁「観光分野のDX推進に向けた優良事例集~地域一体で進める観光DX~」 (pp.13-14, 30-31)
  19. JTB「決済プラットフォーム『stera』を活用した、宿泊・観光事業者へのキャッシュレス推進とDX支援について」
  20. JR西日本「観光DXプラットフォーム『tabiwa by WESTER』」
  21. 観光庁 「観光DXナレッジ集」 (p.5)

観光レポート

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