欧州委、実質的な緩和に向けたEU ETS改正案を発表、企業の脱炭素化負担を軽減
(EU)
ブリュッセル発
2026年07月29日
欧州委員会は7月17日、EU排出量取引制度(EU ETS、注)の改正案を発表した(プレスリリース
)。改正案は、2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標(1990年比で最低55%削減)の達成に向け大幅に引き上げられた排出上限の削減率(2022年12月20日記事参照)を緩和するものである。環境・人権規制(2025年12月16日記事、2026年5月7日記事参照)の簡素化から始まった域内産業の競争力強化に向けた規制緩和の流れが、欧州グリーンディールの中核であるGHG排出削減規制に及ぶことになる。欧州委は、改正案が2040年目標(2025年12月16日記事参照)に整合すると強調するものの、グリーンディールの基幹規制の緩和策であるだけに、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で議論の紛糾が予想される。
改正案の柱となるのが、毎年の排出上限の削減率の引き下げだ。現行法では排出上限が毎年4.3%、2028年以降は4.4%の割合で削減されるが、改正案では2031年以降は3.7%、2036年以降は1.7%へと引き下げる。現行法では、2039年までに新たに発行される排出枠がゼロになると想定されているが、改正案では2040年以降も排出枠の新規発行が継続される。また、無償排出枠については2030年代後半まで延長する。延長期間はセクターごとに異なるが、大部分のセクターで2038年まで延長する。これらの改正により、企業は脱炭素化において負担が軽減され、時間的猶予を得ることになる。
さらに、新たな排出枠の発行を可能にする枠組みも導入する。域内で実施される250メガトン分の永久的な炭素除去(2024年3月1日記事参照)をETSに統合し、その分の排出枠を発行する。また、2036年以降に域外のカーボンクレジットを購入し、最大2%分の排出枠の追加発行を可能にする。新規発行の拡大により排出枠の価格の押し下げ効果が期待される。
一方でETSの対象セクターは拡大する。自治体廃棄物焼却については、2031年から段階的にETSに組み込み、2034年から完全導入する。海運については、対象となる一般貨物船舶の総トン数要件を5,000トン超から400トン超に引き下げる。欧州経済領域(EEA)内外を運航する航空便については、域内空港発で域内最大の空港から5,000キロ以内に位置する域外空港着の航空便に限定し適用する。
企業の脱炭素化向けの財政支援も強化
欧州委は、企業向けの脱炭素化支援も強化する。EUの財政支援策として、1,000億ユーロ規模の産業脱炭素化銀行を立ち上げ、うち300億ユーロを投資ブースターとして2030年までに実施する。また、ETSの収益全体の4分の3超となる加盟国への配分額のうち対象セクターの脱炭素化投資に充てられる割合はごく一部にとどまっていることから(2026年2月18日記事参照)、加盟国に対し配分額の5割を関連投資に充当することを求める。これらを合わせると2030年までの投資額は1,000億ユーロ超が見込まれる。
一方で、企業に対しても、2031年から無償排出枠の付与条件として、脱炭素化計画を策定した上で、無償排出枠と同額を脱炭素化事業に投資することを求める。
(注)詳細は、調査レポート「EU ETSの改正およびEUETS II創設等に関する調査報告書(2024年5月)」を参照。
(吉沼啓介)
(EU)
ビジネス短信 057bd6183ff35124





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