EU、1990年比90%減(実質85%減)とするGHG排出削減の2040年目標で合意

(EU)

ブリュッセル発

2025年12月16日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月10日、温室効果ガス(GHG)排出削減の2040年目標を設定する欧州気候法改正案で政治合意した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の合意によると、欧州委員会が提案した「EU全体のGHG排出量を2040年までに1990年比で90%削減する」という2040年目標(2025年7月8日記事参照)の大枠を維持した上で、実質的には85%削減に引き下げる。

欧州気候法は2050年までの気候中立の実現を法制化したもので、改正案は「1990年比で55%削減」という2030年目標(2021年4月22日記事参照)に続く、法的拘束力を持った新たな中間目標である2040年目標を設定するものだ。改正案は今後、両機関による正式な採択を経て施行される見込み。

改正案において最も議論を呼んだのは、EU経済と産業競争力の停滞を受け、欧州委が「現実的かつ柔軟な」アプローチとして提案したEU域外のカーボンクレジットの活用だ。欧州委は、域外カーボンクレジットの活用を1990年のEU全体のGHG排出量の最大3%に限定し、2036年以降に2040年目標の達成に計上可能とすることを提案したが、今回の合意ではこれを5%まで引き上げた。これにより、域内のGHG排出削減目標は1990年比で85%削減となる。一方で、計上が認められる域外カーボンクレジットについては、パリ協定に沿った厳格な基準を満たす活動に限るとの要件を加えた。欧州委は今後、域外カーボンクレジットの具体的な活用方法を規定する法案を策定する。

EU排出量取引制度(EU ETS、注)については、恒久的な炭素除去を活用し削減が困難なGHG排出との相殺を認めることや、ガソリン車などの道路輸送と化石燃料を暖房に利用する建物などを対象にしたEU ETS IIの開始時期を1年延期し2028年とすることで合意した。

また、欧州委に対しては、2年ごとに2040年目標の達成に向けた進捗状況を評価することや、最新の科学的知見や国際的な動向だけでなく、産業競争力やエネルギー価格を考慮した上で、必要に応じて目標の修正を含めた見直しを実施することを義務付けた。

さらに、欧州委が今後、2040年目標の達成に向け、「Fit for 55」(2024年5月28日記事参照)に続く2030年以降の政策枠組みを策定する際には、産業競争力、規制の簡素化、エネルギーの安定供給と価格の手頃さ、再生可能エネルギーだけを重視しない技術中立の原則などを考慮することも義務付けた。

(注)詳細は、調査レポート「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書」(2024年5月)を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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