USMCA見直しに向けた公聴会実施、研究者や業界団体は協定の更新・維持を主張
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2025年12月12日
米国通商代表部(USTR)は12月3~5日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しに向けた公聴会
を行った。当初は11月に予定されていたが(2025年9月18日記事参照)、連邦政府閉鎖の影響で12月に延期された。公聴会の様子を詳報している通商専門誌インサイドUSトレード(12月4、8日)によると、通商政策の研究者らは通商環境の変化に即した協定の更新(Update)を、業界団体や企業は協定の継続を提案した一方、消費者団体や労働組合は協定の廃止を提案した。
公聴会の初日、通商政策の研究者らは、USMCAのこれまでの実績についておおむね肯定的な評価を示すとともに、協定更新に向けた具体的な提言をした。新米国安全保障センター(CNAS)シニアフェローのエミリー・キルクリース氏は、見直しを機に輸出管理や投資審査など経済安全保障に関する内容を設けるべきだと主張した。経済安保への対応が急務であることや、トランプ政権が経済安保に関する協定の締結に反対していないことなどから、経済安保に関する条項を通商協定へ組み込むべきとの主張は、ここ最近、首都ワシントンで頻繁に聞かれる主張の1つとなっている(注1)。戦略国際問題研究所(CSIS)米州プログラムフェローのディエゴ・マロキン・ビタル氏は、強制労働によって生産された産品や「積み替え品」(注2)の輸入への対応として、3カ国がリアルタイムで製品に組み込まれる中間財を追跡するデジタルツール「北米製品パスポート」を創設すべきと提案した。
一方で、消費者団体のパブリック・シチズンは、「USMCAは消費者を犠牲にしたビッグテック企業にとっての大勝利だった」と述べ、「政府へのソースコードの開示制限」や「越境データ流通の促進」など、撤廃すべき条項を列挙し、政府による監視や安全性確認、個人情報保護がこれらの条項によって困難になっていると指摘しながら、協定を非難した。
2日目となる12月4日の公聴会では、業界団体などが証言した。USMCAに大幅な改革が必要か、的を絞った小規模な変更だけでよいかについて意見は分かれたが、2026年以降もUSMCAを継続すべきとする点ではおおむね共通した。米国企業の最高経営責任者(CEO)約200人で構成されるビジネス・ラウンドテーブルは、USMCAは「北米の競争力に不可欠」だとし、延長は「米国企業の活力にとって極めて重要」と述べた。
他方、USMCAをはじめとする自由貿易協定(FTA)は、一定条件を満たせば、協定参加国以外で生産された部品を利用してもUSMCAによる特恵関税(無関税)の恩恵を享受できる。こうした観点から、一部の業界では、USMCAの原産地規則の強化を望む声が聞かれている(注3)。米国鉄鋼構造協会(AISC)のブライアン・ラフ副会長は、「北米自由貿易協定(NAFTA) が残した抜け穴をふさぐために USMCA を支持したが、5 年経った今でもその課題は変わっていない」とし、「USMCA の規則の厳格化がより重要になっている」と述べた。
最終日の公聴会の様子は2025年12月12日記事参照。
(注1)トランプ政権2期目発足以降に結んだ協定のうち、マレーシアとカンボジアとの協定には経済安保に関する条項が設けられている(2025年10月28日記事参照)。
(注2)国・地域ごとに異なる関税率を課しているトランプ政権は、関税回避を目的とした「積み替え品」へ高関税を設定するなど対策を進めている。ただし、「積み替え品」の条件や定義などは明らかではない(2025年8月1日記事参照)。
(注3)自動車をはじめとする多くの産業界は、特に完成車に対する原産地規則がNAFTAからUSMCAに代わった際に強化されたため、これ以上の原産地規則の厳格化には反対している(2024年12月12日付地域・分析レポート参照)。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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