メキシコの一般関税率引き上げ、タイやインドなどからの自動車・同部品輸入に大きく影響
(メキシコ)
調査部米州課
2025年12月15日
メキシコで12月10日に国会上下両院を通過した一般(MFN)関税率の引き上げ(2025年12月12日記事参照)は、メキシコ進出日系企業にも影響を与えそうだ。調査会社マークラインズによると、日系自動車部品メーカーのメキシコにおける製造拠点数は534カ所。日系メーカーのアジアとのつながりの強さから、日本から以外にもタイ、中国、ベトナム、インドネシアなどから部材を輸入し、メキシコにおける製品製造に用いている。ベトナムからの輸入については、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)を活用して無・低関税で輸入することが可能だが、こうした自由貿易協定(FTA)をメキシコと締結していない国からの輸入は、今回の引き上げの影響を受ける。主要自動車部品はおおむね25%(一部7%や35%がある)の関税率となるため、影響が大きい。
現地で自動車や自動車部品を製造する企業は、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC、注1)の適用により、MFN関税率よりも低い優遇関税率での輸入が可能だ。ただ、自動車部品の中には今までMFN関税率が0%だったものも多く、それらはそもそもPROSECの対象となっていない。具体的には、添付資料の表1に掲載されている自動車部品38品目については、PROSEC税率が設定されていない。これらの品目をタイや中国、インドネシア、インドなどメキシコのFTA非締結国から輸入する場合、レグラオクターバ(注2)を申請して特別無関税輸入許可を得ない限り、7~35%のMFN関税率負担が生じる。なお、PROSECやレグラオクターバは、製品製造に用いる部材や機械設備の輸入にのみ適用できるため、アフターマーケット用の補修部品には適用できない。補修部品を複数国で製造しており、その中に日本などFTA締結国が含まれている場合、FTA締結国からの調達に切り替えた方が無難だ。
FTA非締結国からの完成車輸入には、生産者特別枠を活用
今回のMFN関税率引き上げ対象品目のうち、最も高率の50%まで関税が引き上げられるのは完成車だ。近年、急速に市場シェアを拡大している中国系自動車メーカーの輸入に大きな影響を与えると報道されているが、影響は中国車にとどまらない。2025年1~11月にメキシコに輸入されたFTA非締結国を原産とする自動車は合計46万7,483台で、そのうち、中国製が27万1,735台、インド製が9万8,313台、タイ製が4万5,953台、インドネシア製が3万7,569台となっている(添付資料表2参照)。これらは全て関税率引き上げの影響を受ける。
自動車メーカーの中で最もFTA非締結国からの輸入が多いのはゼネラルモーターズ(GM)で、中国製を中心に11万3,940台を輸入している。ただし、メキシコで自動車を5万台以上生産する企業については、自動車産業振興政令に基づく生産者特別輸入割当(注3)が適用でき、原産国にかかわらず前年の生産台数の原則10%(注4)まで無関税で輸入できるため、同割当を活用して関税引き上げの影響を回避することは可能だ。
(注1)メキシコが国内生産を促進する24業種(自動車産業は第XIX業種)において、生産に用いる部品・原材料や機械設備をMFN関税率よりも低い優遇税率で輸入することを可能にするプログラム。
(注2)PROSECに登録している生産者は、PROSEC対象となっていない部品・原材料が国内で調達できない、または国内供給能力が不足しているなどを理由に、経済省に対して特別無関税輸入許可を申請することができる。この制度のことを「レグラオクターバ」と呼ぶ。特別輸入許可の有効期限は1年で、申請した数量枠内での無関税輸入が可能になる。
(注3)2004年1月1日に施行された「自動車完成車産業の競争力ならびに自動車国内市場の成長促進のための政令」に基づき、前年の自動車生産台数が5万台以上、かつ当該車両製造のために1億ドル以上の固定資産投資を行っている自動車メーカーは、「自動車新車製造企業」としての登録が可能で、さまざまな恩典が与えられる。同恩典の1つとして、生産者特別無関税輸入割当が活用できる。
(注4)割当数量は原則として前年の自動車生産台数の10%だが、(1)生産設備の拡張・近代化に向けた投資を行うこと、(2)労働者研修やサプライヤーへの技術移転などを通じた人材・技術開発、デザイン・技術開発センターへの支援、サプライヤー開発に役立つ投資を行うこと、(3)当該自動車メーカーのメキシコ国外工場向けにメキシコの部品サプライヤーから部品を調達すること、といった要件を満たせば、割当台数を上積みすることが可能。国家貿易統合サービス(SNICE)の情報公開サイト
によると、トヨタなどはこれらの要件を満たすことにより、生産台数の10%を上回る割当を受けている。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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