米USTR、USMCA見直しに向けた公的手続き開始、運用状況に関するパブコメ募集
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2025年09月18日
米国通商代表部(USTR)は9月17日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しに向け、協定の運用状況に関するパブリックコメントを募集する官報を発表した(USTRの発表はこちら
)。参加国はこれまでも非公式に会合を重ねてきたことが報じられていたが(2025年9月5日記事参照)、今回の官報公示により、正式に米国内でUSMCA見直しに向けた手続きが始まったことになる。
USMCAは、発効後6年目(2026年7月)に協定参加国で見直しを実施することが条文で定められている(注1)。また、USMCA実施法はUSTRに対して、見直しに先立ってUSMCAの運用に関するパブコメの募集などを行い、2026年1月までに見直しで提案する具体的な措置やUSMCAの延長に関する米国の立場などについて、議会へ報告するよう義務付けている。
USTRが今回、特に意見を求める分野は次のとおり。
- USMCAの運用または実施に関するあらゆる内容
- 協定順守に関するあらゆる課題
- 見直しに当たってUSTRが提案すべき具体的措置
- 参加国の投資環境に影響を与える要因、ならびに米国の競争力、生産性、技術的リーダーシップを強化する投資促進へのUSMCAの有効性
- 北米の経済安全保障と競争力強化のための戦略〔これには競争力委員会(注2)での共同作業、他国の非市場的政策・慣行に関連する問題への協力が含まれる〕
パブコメはUSTRのウェブサイト(ドケット番号USTR-2025-0004)から提出可能で、11月3日まで受け付ける。USTRはその後、11月17日に公聴会を開催する。公聴会後に7日間、さらに反論を提出できる。
ドナルド・トランプ米大統領は就任前にUSMCAの見直しに関し、中国企業によるメキシコ経由の無税での自動車部品輸出を制限する趣旨の発言をしている(2024年10月15日記事参照)。具体的には、インフレ削減法(IRA)の下で定めている電気自動車(EV)などの購入に対する税額控除要件をUSMCAの原産地規則にも盛り込むのではないかといった指摘がある(2024年12月12日付地域・分析レポート参照)。ジェトロのヒアリングに対して、在米の日系企業からは、米中対立の深化・長期化を受け、中国から米国へ直接輸入するサプライチェーンは縮小した一方で、中国の部品を利用してメキシコで生産し、米国へ販売するサプライチェーンは残るとの声が2024年末以降、継続的に聞かれる。原産地規則の内容次第では、日本企業の北米サプライチェーンに影響する。
また、米国は現在、合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入阻止を目的に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、メキシコに対しては25%、カナダに対しては原則35%の追加関税を課している(注3)。ただし、いずれも、USMCAの原産地規則を満たしていれば当該追加関税の対象外としている。これら追加関税措置とUSMCAとの関係性も注目点となる。
(注1)USMCAは協定発効16年目(2036年7月)に失効する。ただし、協定発効6年目に協定の見直しを実施し、3カ国が延長に合意した場合、16年後(2042年7月)まで延長される。3カ国のいずれかが延長に同意しない場合には、以降、見直しを毎年実施することが規定され、延長を検討することになっている。
(注2)USMCAの26章「競争力」では、北米での生産強化などに関する活動の策定・実施などを目的とする競争力委員会の設置が定められている(2024年5月24日記事参照)。
(注3)メキシコとカナダ産のカリウム、カナダ産のエネルギーに対しては10%。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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