トランプ関税に対する米国企業の対応方法を解説、米国シンクタンク

(米国)

ニューヨーク発

2025年07月22日

米国シンクタンクのケイトー研究所バイスプレジデント(経済・貿易担当)のスコット・リンシカム氏は7月17日、米国の関税措置のインフレ影響や、米国企業の対応方法に関する論説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。

同氏は、関税が引き上げられれば調達価格が上昇し、販売価格に転嫁されればインフレ率が上昇すると説明した。ただし、いったん価格調整が済めば、販売価格は上げ止まるため、むしろインフレ率は低下すると説明し、「経済専門家の間で広く共有される見解は、消費者物価指数(CPI)および個人消費支出(PCE)の数値が今後1%程度の増加を示し、2025年後半から2026年初頭にピークに達するが、2026年以降は低下するというものだ」と述べた。

また同氏は、現時点でCPIやPCEの顕著な上昇が見られない理由として、(1)メキシコ・カナダ原産品に対する追加関税の対象から「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」原産地規則を満たす商品が除外される(2025年3月7日記事参照)などの例外措置があること、(2)関税措置導入の発表から実際の関税適用開始まで、数週間の時差があること、(3)米国企業が関税影響緩和の取り組みを行っていること、(4)外国企業が部分的に関税コストを吸収していること、の4点を挙げた。

このうち、米国企業の価格転嫁以外の関税影響緩和の取り組みは次のとおり。

  • 在庫の積み増し:関税の発効前に在庫を積み増し、関税コストの負担時期の分散や転嫁時期の延期を図る(注)。
  • タリフ・エンジニアリング:関税率がより低く設定された製品群に分類されるよう、製品の素材や構造を調整する。
  • サプライチェーンの移管:製品の最終生産地を関税率がより低く設定された国・地域に移管する。
  • USMCAの活用:USMCA原産地規則を満たす製品はメキシコ・カナダ原産品に対する追加関税の適用の対象などから除外されることから、同協定を積極活用する。
  • 保税倉庫(CBW)・外国貿易地域(FTZ)の活用:CBW・FTZに搬入した貨物は、米国市場での販売を目的に正式に輸入するまで関税の支払いが留保されることから、CBW・FTZを積極活用する。
  • 販売・請求手法の変更:無料配送や返品などの特典の廃止、使用済み商品や開封済み商品の再販に注力、決済方法の変更や割引の削減、利益率の低い商品の販売中止、「関税割増料金(tariff surcharge)」を追加で請求、商品の付属品(アクセサリー)を分離し販売、安価な部品やグレードダウンした部品の使用、など。

同氏は、これらの取り組みのほか、米国企業が市場シェアを維持するため、価格転嫁を行わずに関税コストを吸収する場合もあると指摘した。ただし、徐々に価格転嫁は進むとして、2025年秋ごろに各社の価格転嫁が最大化するだろうとの見通しを述べた。

在米日系企業の対応手法の事例は、2025年6月24日付地域・分析レポート参照

(注)実際に、2025年第1四半期(1~3月)は輸入が急増し、輸入額・赤字額ともに1960年以降で最大となった(2025年7月8日記事参照)。

(葛西泰介)

(米国)

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