ブラジル政府、米国の追加関税措置に対しWTO協議要請
(ブラジル、米国)
サンパウロ発
2025年08月12日
ブラジル政府は8月6日、米国がブラジルからの輸入品に対して世界共通関税と相互関税を課す大統領令を発表し(2025年4月3日記事参照)、8月7日から40%の追加関税を適用することに対し(2025年8月1日記事参照、2025年8月6日記事参照)、WTOに協議の開始を要請した。ブラジル外務省は同日付の公式声明で「米国の措置は、WTOの最恵国待遇原則や、合意なしの譲許税率引き上げを禁止する規定に明確に違反している」と主張した(注1)。
WTOルールに基づき、協議要請を受けた日から60日以内に協議によって紛争が解決しない場合、ブラジルは紛争解決機関(DSB、注2)にパネル設置(注3)を要請することが可能となる。さらに、パネルでも解決に至らなかった場合には、上級委員会(注4)による審理を求めることができる。ただし、同委員会は米国による新委員の任命拒否により、現在は機能停止状態にある(2023年8月29日付地域・分析レポート参照)。
現地誌「ベージャ」(8月6日付)は、米国が協議に応じる可能性は低く、上級委員会の機能停止とも相まって、今回の協議要請に実効性は期待しにくいと報じた。一方で、ブラジル政府は多国間主義とWTOの紛争解決制度の重要性を強調する象徴的な意味合いがあるとも指摘している。
(注1)WTO加盟国・地域は、他加盟国・地域に対して一定率以上の関税を課さないことについて、WTO協定の一部である自国の譲許表で約束している。GATT第2条はWTO加盟国・地域に対して、約束されたWTO協定税率(譲許税率)を超えない関税率の適用を義務づけている。また、一方的な譲許税率の引き上げは禁止しており、加盟国が譲許税率の引き上げや撤回を行うには、GATT第28条に基づき、関係国と交渉して合意を得る必要がある。
(注2)紛争解決機関(Dispute Settlement Body)。一般理事会などと並ぶWTOの主要機関で、全加盟国が参加して、各紛争案件についてパネル設置の承認や報告書の採択などを行う。加盟国間の貿易紛争を解決するために設置された機関。
(注3)紛争当事国の要請により設置され、通常3人の専門家からなる小委員会。事実関係の審理やWTO協定違反の有無について判断を示す。
(注4)パネルの報告に不服がある場合に上訴できる、7人の委員からなる最終審。法律的な問題について審理する。現在、上級委員会に委員はおらず、最後に在任していた上級委員の任期は2020年11月30日に満了している。なお、2020年4月には、機能停止中の上級委を代替させる機能を求め、EUやカナダ、中国をはじめとする46カ国・地域が多数国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)を立ち上げた。日本やブラジルもMPIAに参加している。米国は参加していない。MPIA参加国同士の紛争では、パネル判断を不服とする場合、上級委に上訴せず、上級委に類似した手続き(MPIAに基づく仲裁手続)による解決を図ることができる。
(エルナニ・オダ)
(ブラジル、米国)
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