トランプ米政権発足から100日、変わる関税政策、限定的な議会の関与

(米国)

ニューヨーク発

2025年05月01日

米国のドナルド・トランプ大統領は政権発足から100日目を迎える4月29日、ミシガン州で演説し、100日間の経済政策の成果を強調した。一方で、マクロ経済指標ではネガティブな影響もみられ始めた。

ホワイトハウスのウェブサイトには、就任100日に合わせて政権の成果をまとめた声明が複数掲載された。アップルによる新工場などへの5,000億ドル投資、エヌビディアによる人工知能(AI)インフラへの5,000億ドル投資、IBMによる量子コンピュータの研究開発などの1,500億ドル投資など、5兆ドル以上の新規投資をまとめた発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも含まれる。

トランプ政権は米国への製造業回帰を主要な政策目標の1つに掲げている。スコット・ベッセント財務長官は政権発足100日を機に経済成果をまとめた財務省の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、「トランプ政権の経済政策の3つの柱『関税、減税、規制緩和』は独立した政策ではない。これらは、経済成長と米国内製造業の活性化を推進するエンジンの相互に連携した要素だ」と述べた(注1)。トランプ氏も演説で「今後数週間から数カ月で、米国史上最大の減税を成立させる」と述べた。

他方で、経済政策の柱の1つとなっている関税政策は二転三転した。トランプ氏はこれまで、複数の追加関税措置を行ってきた(注2)。首都ワシントンの有識者からは「想定以上のペースだった」との声が聞かれる。だが、相互関税については、発表から1週間で90日間の適用停止を発表した(2025年4月11日記事参照)。さらに、4月29日には、一部の追加関税の累積停止と、自動車部品関税の緩和措置を発表した(2025年4月30日記事参照)。こうした日々変わる関税政策の中で、大半の在米日系企業は適用除外制度を申し入れつつ、情勢を見守らざるを得ない状況にある。サプライチェーンの変更には時間がかかる上、関税の還付制度なども期待されるためだ。実際に、累積停止の対象となった関税は、3月4日以降の輸入にさかのぼって、還付が認められる。また、こうした新たな関税政策の導入による輸入の急増によって(2025年3月7日記事参照)、2025年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率0.3%減で、2022年第1四半期以来3年ぶりのマイナスになるなど(2025年5月1日記事参照)、必ずしも政権が望んだ成果につながっていない面もある。

こうした状況に対し、議会の関与はこれまで限定的だった。短期間に大量の行政命令を出すことによって議論すべき対象を絞らせない、トランプ政権による「洪水作戦」によるとの指摘が多い。トランプ氏は4月29日までに143本の大統領令を発表している。ジョー・バイデン前大統領は4年間の任期で162本、バラク・オバマ元大統領は2期8年で276本だった(注3)。

今後の政局を占う上では、議会の影響力が増してくるかが注目点の1つとなる。相互関税の適用停止期間内に関税措置を巡って各国と合意できるのか、中国に対する高関税率がいつまで維持されるのか、規制緩和がいつ実行されるのか、減税が本当に延長されるのかといった点が焦点になる。

(注1)ベッセント長官は、減税と規制緩和によるコスト削減は家庭と企業の所得増加、関税は再工業化と公正な貿易を促進するインセンティブを提供、規制緩和はエネルギーと製造業への投資を容易にすることで関税の効果を補完すると述べている。

(注2)ジェトロの特集ページ「米国関税措置への対応」では、トランプ大統領の関税政策を随時紹介している。ページ内の「トランプ政権の通商を知る」も参照。

(注3)カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校のアメリカン・プレジデンシー・プロジェクトによる。4月29日時点。なお、大統領令の数は多いものの、実際には、規制緩和を検討、調査を検討などと、実質的には何も決めていないものが多いとの指摘もある。例えば「米国の海産物競争力の回復」と題する大統領令参照(2025年4月22日記事参照)。

(赤平大寿)

(米国)

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