「大きく美しい1つの法案」が米下院通過、再エネには一層厳しい修正も
(米国)
ニューヨーク発
2025年05月23日
米国連邦議会下院は5月22日、減税や歳出削減、債務上限引き上げなどをまとめた、いわゆる「大きく美しい1つの法案」を賛成215、反対214、棄権1の僅差で可決した。投票直前まで調整が難航し、共和党から2人が反対票を投じ、1人が棄権した。
投票直前まで争点となっていたのは、(1)州税に係る税額控除幅(SALT)の拡大、(2)メディケイド支給に関する就労要件適用の前倒し、(3)インフレ削減法(IRA)に基づく税額控除削減(2025年5月14日記事参照)の前倒しの3点。(1)は、ニューヨーク州やカリフォルニア州など州税が比較的高い地域から選出された議員の要望が強かった事項で、州税からの控除額を現行の1万ドルから4万ドルに引き上げることとされた。他方、(2)と(3)は歳出削減を求める財政保守派(フリーダムコーカス)による要望事項だ。(2)に関しては、就労要件などの適用開始日を2029年1月1日から2026年12月31日に前倒しするもようだ。(3)については、クリーンエネルギー税額控除〔内国歳入法(IRC)45Y〕を受ける要件として、(i)対象施設の建設が法案成立後60日以内に着工し、かつ2028年12月31日より前に稼働を開始することを求める、(ii)太陽光・風力については、リース契約を税額控除の対象から除外するなど、歳入委員会で示された案よりも対象が絞り込まれた。
これらの修正を加えることで、マイク・ジョンソン下院議長(共和党、ルイジアナ州)が計画していたメモリアル・デー(5月26日)までの下院通過を達成したかたちだ。しかし、歳出削減や減税幅に関して上院案との隔たりは大きく、上院での修正協議は難航も予想される。また、法案には歳出削減が多数盛り込まれているものの、減税などによって財政赤字はさらに拡大するとみられる。ムーディーズ・インベスターズの米長期債格下げ(2025年5月21日記事参照)にもみられるように、米国財政の先行きに対する市場の見方は厳しさを増しており、長期債を中心に利回りは上昇している。今後、上院でさらに財政拡張的な修正が加えられた場合には、こうした市場の不安が増大する可能性もあり、減税拡大を目指すトランプ政権にとっては悩ましい展開が続きそうだ。
(加藤翔一)
(米国)
ビジネス短信 7193fce1ba3b619c