米USTR、台湾・ケニアとの通商協定の条文案の要約公開

(米国、台湾、ケニア)

ニューヨーク発

2024年04月09日

米国通商代表部(USTR)は4月5日、現在交渉中の「21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます「米国ケニア戦略的貿易・投資パートナーシップ(STIP)」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの各通商協定に関して、米国側が提案している条文案の要約を公開した。USTRは公開した意図について、バイデン政権の通商協定交渉における透明性へのコミットメントと説明している。

米台貿易イニシアチブについては2023年6月に、税関手続きと貿易円滑化、良き規制慣行、サービスの国内規制、反腐敗、中小企業を扱う第1段階の協定が署名されている(2023年6月13日記事参照)。今回公開されたのは、残りの交渉分野のうち、農業、環境、労働の3つだ(注1)。バイデン政権は、労働者のための通商政策を掲げており、通商政策を通じた労働者の権利保護に注力している。今回公開された米台貿易イニシアチブの第2段階の条文案の要約PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、労働分野において「サプライチェーンにおける強制労働に対処するためのメカニズムや、企業が労働法に違反した場合に、説明責任を促すための事業所特定のメカニズム」が含まれている。これは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」(注2)に類似したものと推測される。

ケニアとのSTIPについては、農業(2回目の公開)、良き規制慣行、労働者の権利と保護の3分野における条文案の要約PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が公開された。STIPにおいても、労働に関する米国側の提案には「サプライチェーンにおける強制労働に対処するためのメカニズム」が含まれている。一方で、「企業が現地の労働法に違反した場合に、説明責任を果たすのを支援するためのメカニズム」との文言が使われており、米台貿易イニシアチブとはやや異なる内容となっている。ただし、USTRの広報担当官はこの違いについて、「(内容は)ほぼ一致しているはずだ。われわれは、要約のこれらの部分で両者を区別するつもりはなかった」と述べている(通商専門誌「インサイドUSトレード」2024年4月5日)。なお、STIPについては、2023年5月に農業(1回目)、反腐敗、零細中小企業、サービスの国内規制で米国側が提案した条文案の要約PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が公開されている(注3)。

バイデン政権は、米台貿易イニシアチブやSTIPを含め、現在交渉している他国・地域との通商協定は市場アクセス交渉が含まれていないことなどから、議会承認を必要とせず、行政取り決めの範囲内だとの立場を取っている。一方で連邦議会は、合衆国憲法は諸外国との通商を規制する権限を議会に与えていることから、党派を問わずにバイデン政権の姿勢に反発している(注4)。実際、米台貿易イニシアチブに対して議会は、第1段階の協定を議会が承認するとともに、今後の合意について、交渉テキストを台湾に共有する前に議会に提示するなどの透明性確保と議会との協議を義務付ける「21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ実施法案」を可決している(注5)。今回USTRが、条文案の要約を公開した背景には、こうした議会との調整もあったとみられる。

(注1)米台貿易イニシアチブには、これまで公開された分野以外にも、デジタル貿易や規格・基準、国有企業などの交渉分野もある。

(注2)RRMの全体像については、2023年8月8日付地域・分析レポート参照。直近では2024年4月3日にRRMに基づく労働権侵害の事実確認要請が、USTRからメキシコ政府に行われている(2024年4月5日記事参照)。

(注3)STIPには、これまで公開された分野以外にも、デジタル貿易、環境、女性・若者らの貿易への参画支援などの交渉分野もある(2022年7月15日記事参照)。

(注4)バイデン政権の通商政策の方針と議会の反応については、2024年2月20日付地域・分析レポート参照

(注5)ジョー・バイデン大統領は同実施法案に署名し、同法案は成立したが、「実施法が外国と交渉する大統領の憲法上の権限を侵害する場合、同法の規定に法的拘束力はないものとして扱う」とも表明している(2023年8月14日記事参照)。

(赤平大寿)

(米国、台湾、ケニア)

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