バイデン米大統領、米台貿易イニシアチブ実施法案に署名

(米国、台湾)

ニューヨーク発

2023年08月14日

米国のジョー・バイデン大統領は8月7日、「21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ実施法案(H.R.4004)」に署名外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、同法は成立した。同法案は7月までに、連邦議会上下両院で超党派の支持を得て可決されていた(2023年7月21日記事参照)。

実施法は、米国在台湾協会(AIT)と在米国台北経済文化代表処(TECRO)が6月に署名した、米台貿易イニシアチブの第1段階の協定を承認する内容となっている(2023年6月13日記事参照)。同法で定められた手続きによれば、大統領は、協定発効前に台湾側が協定の順守に必要な措置を講じたことなどを示す文書を議会に提出する必要がある。文書を提出してから30日後に、協定は発効可能となる(注1)。

米台は今後、貿易イニシアチブの追加協定を交渉する予定だ。実施法は追加協定に関し、議会による審査や承認を課すなど、交渉における議会の役割を明確に定めている。例えば、同法7条は米国通商代表部(USTR)に対し、米国側の交渉テキストを台湾側に共有する前に議会に提示し、ブリーフィングを行うよう義務付けている。交渉テキストは、議会が審査するまで台湾側に共有できない。議会で通商を所管する上院財政委員会と下院歳入委員会の党派の異なる幹部議員2人が要請した場合、審査期間は延長可能だ。

一方、バイデン大統領は署名に合わせて声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、議会との協議に関するこれらの規定に対し、憲法上の懸念を提起した。実施法が外国と交渉する大統領の憲法上の権限を侵害する場合、同法の規定に法的拘束力はないものとして扱うとの立場を表明した(注2)。これは、政権が実施法で定められた手続きに従わない可能性を示唆しているが、USTRは実施法の規定を順守できるとの認識を示している(政治専門紙「ポリティコ」8月8日)。法案を提出したジェイソン・スミス下院歳入委員長(共和党、ミズーリ州)は9日の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで「大統領は、行政府は議会の承認を得て初めて拘束力のある貿易協定を締結できるという、この法律が繰り返し述べている基本原則を無視することはできない」と強調し、大統領の責任を追及する姿勢を示した。

(注1)米台貿易イニシアチブは、米国と台湾の双方が必要な国内手続き完了後に、相手側に通知することで発効する。

(注2)米国の通商法に詳しい法律事務所によると、バイデン大統領は、米国の合衆国憲法は条約の交渉権限を大統領のみに与えており、交渉過程における議会の正式な役割は定めていないとの一般解釈に基づき、実施法が課す議会との協議要件に疑義を呈したとみられる。一方、議会は、合衆国憲法が外国との通商を規制する権限を議会に与えていることから、米台貿易イニシアチブの交渉についても議会との協議が不可欠との立場で、実施法の規定はその主張を反映しているといえる。

(甲斐野裕之)

(米国、台湾)

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