欧州鉄鋼連盟、鉄鋼をEUのグリーン・ディール産業計画の中核部門にと提言

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月27日

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は3月16日、欧州委員会が同日、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)の一環としてネットゼロ産業法案(2023年3月20日記事参照)などを発表したのに合わせて、EUの産業政策についての政策提言書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

背景には、世界的な鉄鋼の過剰供給の影響を受け、EUは鉄鋼の純輸出地域から純輸入地域になったのに加え、米国のインフレ削減法(IRA)に象徴されるように、競合国がグリーン鉄鋼〔生産過程で二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しない鉄鋼〕関連の投資や生産への支援を拡大させていることへの強い危機感がある。EUROFERは、EUは前例にとらわれず、革新的な施策を行って戦略的自律性を高める必要があるとし、EUの産業政策ではバリューチェーンに基づいた取り組みが求められるとして、ネットゼロ産業に必要不可欠な鉄鋼をグリーン・ディール産業計画の中核に据えるべきだとした。

その上で、(1)安定的かつ国際的にも適切な価格でのエネルギーや原材料の供給、(2)グリーン鉄鋼事業を中心に、鉄鋼部門への資金支援やインセンティブを強化し、許認可プロセスを迅速化、(3)公共調達やカーボンプライシングの導入などによって、グリーン鉄鋼・鉄鋼製品市場を創出、(4)第三国・地域との公正な競争を担保する通商政策の推進を提言して、2030年までに鉄鋼部門が低炭素技術の開発や展開を促進できる政策枠組みの策定をEUと加盟国に対して求めた。

(1)に関連して、提言書では、リサイクル可能な鉄スクラップを「戦略的資源」として、EU域内での循環性を高めるべきだとした。EUROFERは低炭素技術が普及するにつれて、EUでは2030年までに鉄スクラップが不足すると予測されるが、近年、域外への鉄スクラップの輸出量は増加傾向にあると指摘。そこで、より強固な監視システムや、改正案が審議されている廃棄物輸送規則(2021年11月19日記事参照)にある迂回(うかい)防止措置によって、こうした二次原料についても供給を安定させることを求めた。また、欧州委の重要原材料法案(2023年3月22日記事参照)も、一次と二次原料の安定供給や域外への過度な依存の軽減に対処する手段だと評価し、鉄鋼生産にとって重要なマンガンやニッケルといった一次原料に加え、鉄スクラップなど二次原料についても、法案の対象とされるべきだとした。

(4)については、輸入品による市場の歪曲(わいきょく)には、2019年に正式発動した鉄鋼セーフガード措置(2021年7月5日記事参照)を必要な限り継続することや、アンチダンピング措置といった通商防衛措置によって対応するほか、輸出力強化のためにも貿易相手国の不公正な貿易慣行に対抗措置を講じたり、公共調達市場の互恵的な開放を求めたりといった手段の活用も求めた。EUROFERは、米国のIRAのようなインセンティブの活用や競争力強化を軸とした積極的かつ構造的な政策を例として、EUにも主に企業にさまざまな義務や目標を課し、断片的な支援を行う政策から、脱炭素化を推進しながら国際競争力を高め、公正な競争環境を生み出す政策、法整備が求められる時が来ていると述べた。

また、提言書では、これから施行されるものも含めて複数のEUの法令に触れている。2022年12月にEU機関で暫定的に政治合意した炭素国境調整メカニズム(CBAM、2022年12月14日記事参照)については、域内市場ではカーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)対応となるが、移行期間が終了する2026年以前にEUからの輸出品についての対応措置が必要だとあらためて主張した(2022年2月4日記事参照)。産業排出指令の改正案(2022年4月7日記事参照)については、許認可に関する法的不確実性が生じ、最適な脱炭素化技術の選択といった企業活動へ影響が出るとして、改正の必要性に疑問符を付けた。

(滝澤祥子)

(EU)

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