欧州委、グリーン・ディール産業計画の一環として重要な原材料法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月22日

欧州委員会は3月16日、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)の一環として、重要原材料(critical raw materials:CRM)の安定的かつ持続可能な供給の確保に向けた規制枠組みを設置する規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州グリーン・ディールやデジタル化の実現に必須のCRMの供給における、特定の域外国への過剰な依存の解消を目指す。規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

EUでは、CRMの需要の急速な拡大が予想されているが、その供給の多くをほぼ全面的に輸入に頼っており、特に一部のCRMの供給に関しては、中国などの少数の域外国からの輸入に集中しているため、供給上の重大なリスクが指摘されている。そこで、規則案は、経済的重要性が高く、供給上のリスクがあるCRMと、CRMのうち特に戦略的重要性が高く、供給不足の恐れがあり、生産の拡大が比較的難しい戦略的原材料(strategic raw materials:SRM)を選定した上で(規則案付属書IおよびIIPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照)、CRMのバリューチェーンの強化と、供給元の多角化を図るべく、2030年までに達成すべきSRMに関する以下のベンチマーク(努力目標)を設定する。

  • 域内年間消費量の最低10%を域内で採掘
  • 域内年間消費量の最低40%を域内で加工
  • 域内年間消費量の最低15%を域内で生産したリサイクル原料で賄う

また、加工段階にある各SRMに関して、1つの域外国からの輸入を域内年間消費量の65%の水準まで引き下げる。

規則案は、目標の達成に向けた対策として、原材料に関連する事業の行政手続きの負担を軽減するとともに、許認可プロセスを簡略化する。対象となるのは、主に欧州委がSRMの安定供給に実質的に貢献するとして認定した「戦略的事業」だ。加盟国は、優先すべき公共の利益にかなうとして、戦略的事業の円滑な実施に向けて、最大限迅速な対応をとることが求められる。許認可については、原則として、採掘を伴う場合は24カ月以内、加工あるいはリサイクルのみの場合は12カ月以内に審査を実施しなければならい。

また、規則案は、域内におけるCRMの供給上のリスクを緩和すべく、欧州委がサプライチェーンを監視するとともに、加盟国が実施するSRMの備蓄の調整を行うと規定。加盟国により指定を受けた、SRMを原料に使用して戦略的技術を製造する大企業に対しては、サプライチェーンに関する監査を実施することを義務付ける。域内の事業者および加盟国が自主的に参加できる、SRMの共同購入の枠組みについても規定する。

さらに、規則案は、加盟国に対して、SRMを含む廃棄物の回収とリサイクルを改善するための措置を実施することを求めるとともに、特定の製品を域内に供給する者に対して、永久磁石に関する情報開示などの循環性要件への準拠を義務付ける。

このほか、欧州委は、規則案に加えて、CRMに関する政策文書(プレスリリース下部のリンクを参照)も発表。米国などの立場を同じくする域外国とともに、CRMの消費国と供給国の連携を図るべく、「重要原材料クラブ」を立ち上げるほか、供給国などとの戦略的パートナーシップの締結も強化する。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 be46d970feeb9114