EU農業部門、メルコスールとのFTAにルーラ・ブラジル大統領誕生の波及効果警戒

(EU、メルコスール)

ブリュッセル発

2022年11月10日

欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体COPA-COGECAは11月8日、EU・メルコスール自由貿易協定(FTA)に反対する意見書を発表した。ブラジルでは大統領選挙が10月に行われ、30日の決選投票の結果、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ元大統領が当選した(2022年11月1日記事参照)。COPA-COGECAは環境保護や持続可能な農業を公約に掲げていたルーラ氏当選の「バタフライ効果」(注)として、欧州委員会がメルコスールとのFTA署名に前のめりになるのではないかと強く警戒している。

2000年から交渉が始まったEU・メルコスールFTAは、2019年6月に政治合意に達した(2019年7月1日記事参照)。しかし、欧州議会と複数のEU加盟国が農業や環境分野への悪影響を懸念し、2022年11月時点でも署名、発効には至っていない。欧州側では、25の産業団体による共同声明で早期発効を熱望する声が上がる(2022年3月11日記事参照)など、経済効果に期待する産業部門もあるが、農業部門は一貫して反対する姿勢(2019年7月4日記事参照)を貫いてきた。

「EUはダブルスタンダード」「協定の内容はもはや時代錯誤」と非難

欧州委は2021年、欧州グリーン・ディールの一環として、森林破壊防止を目的としたデューディリジェンス義務化規則案(2021年11月19日記事参照)を提案した。COPA-COGECAは「欧州委はこうした取り組みによって、EU・メルコスールFTAの監視強化や持続可能性への懸念の払拭(ふっしょく)に努めてきたと主張するだろう」が、農業部門が訴えてきたメルコスールからの輸入の大幅増加に伴う牛肉やコメなど一部産品の市場の混乱増大や長期的なEU農産品市場への影響、EU基準を満たさない農産品の輸入についての懸念には十分な解決策が示されていないと不満を表した。

COPA-COGECAは2019年以降、欧州グリーン・ディールの下で、域内の農業事業者には年々厳しい環境規制を課す方向になっているにもかかわらず、メルコスールとのFTAが発効されれば、「ブラジルだけでもEUで禁止している27の除草剤・殺虫剤が使用されており、EU基準を満たさない砂糖やエタノールが流入することになる」として、EUの姿勢を「ダブルスタンダード」と非難した。また、ウクライナ情勢を受けて、エネルギーや肥料価格が高騰し、EUの農業部門が生産コストの増大や国際競争力の低下に悩む中、EUがそうした状況を十分考慮せず、欧州グリーン・ディール関連の規制の法制化を進めていると批判。EUと比較してウクライナ情勢の影響が少なく、環境規制の水準が大きく異なるメルコスールとのFTAは受け入れがたく、欧州グリーン・ディール発表以前に政治合意されたものであることから「時代錯誤で有害」だとした。仮に今後、欧州委が署名した後に加盟国での批准を経ず、EUレベルでの批准手続きのみに基づいてFTA適用を進めようとするならば、「恥ずべきこと」であり、EU農業にとって危険だと激しく非難した。

(注)ある事象の発生により、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶこと。

(滝澤祥子)

(EU、メルコスール)

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