欧州製糖業にくすぶる対メルコスールFTA批判の声

(EU、メルコスール)

ブリュッセル発

2019年07月04日

欧州砂糖生産者協会(CEFS)は7月2日、20年越しの政治合意に達したEU・メルコスール自由貿易協定(FTA)に関連して「メルコスール加盟国に対する妥協がEU砂糖産業の経営を圧迫」と題する声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。メルコスールに譲ることになる砂糖市場は19万トンにも及ぶとして、協定発効に危機感を示した。

EU側の協定批准や暫定適用開始に難色

CEFSは「現在のように砂糖価格が低い時代であっても、(EU側の)関税撤廃により、メルコスール原産の砂糖のEU市場への流入は避けられない」と指摘。EUが新たな通商協定を締結するたびに、EU各国の製糖工場は閉鎖に追い込まれたとの認識を示し、今回の対メルコスールFTAは欧州製糖業の視点で見ると、「過去最大(最悪)の譲歩」だとして、EUの無策に批判を強めている。

また、CEFSは、穀物など有益植物を守る農薬など植物保護製品(PPP)の利用をめぐるEU・メルコスール間の規制状況の違いに起因する格差を是正すべきとするEU加盟国からの勧告を協定は反映していないと問題視。「EUの農業政策と通商政策の一貫性の完全な欠如を露呈した」と問題提起した。欧州製糖産業側には、EU域内では禁止されている農薬などを使用したメルコスール原産の砂糖が、禁止農薬を使用していないEU原産品に取って代わる事態に対する警戒感が根強い。

CEFSは協定の欧州議会、EU加盟国の批准に難色を示す。また、対韓国や対カナダの通商協定で進められた正式発効前の「暫定適用」についても、欧州製糖業に深刻な脅威をもたらすとして拒否すべきと主張している。

これに先立って、欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体であるCOPA-COGECAは6月19日、「対メルコスールFTA交渉妥結はEU農業モデルの終焉(しゅうえん)を意味しない」と題する欧州委員会への意見書で、協定に潜むさまざまな課題を指摘、長期戦で取り組む姿勢を打ち出している。

これに対して、欧州の主要経済団体や工業品系産業団体は相次いで、協定支持を表明(2019年7月1日記事2019年7月2日記事参照)しており、欧州化学工業連盟(Cefic)が7月3日付の声明で、欧州化学産業がメルコスールから輸入する45万トン相当のエタノールに対する関税撤廃に期待感を示した。また、欧州靴工業連盟 (CEC)(7月2日付声明)、欧州繊維産業連盟(EURATEX)(7月2日付声明)も相次いで支持を表明している。

EU・メルコスールFTAをめぐって、欧州産業界の利害が「農業分野」と「工業分野」で対立。今後EU側での批准に際しては、7月3日に新議長が選出された欧州議会(2019年7月4日記事参照)をはじめ、新体制に移行するEU側は難しい判断を迫られることになる。

(前田篤穂)

(EU、メルコスール)

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