アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探る日本アニメファンの実態に迫る
エジプト「オタク」座談会(前編)
2025年7月11日
エジプトの人口は1億700万人を超え、2050年までに1億6,000万人に上ると予測される。年齢中央値は24歳と主要なアジア新興国と比べても若い。また、エジプトの特徴として日本への関心、好感度が高いことがあげられる。国内5つの大学に日本語学科が設けられ、国際交流基金カイロ日本文化センター(以下、国際交流基金)が主催する日本語クラスも受講者が絶えない。日本食、アニメなど日本の文化に関する関心も若年層を中心に高まり、アニメや映画など日本のポップカルチャー関連イベントも実施されている。
ジェトロは、エジプトでアニメなど日本の文化を発信するインフルエンサーとして活躍する3人に、自身の経験や関心、エジプトのアニメファンコミュニティについて聞いた(取材日:2025年6月3日)。座談会に参加した3人のプロフィールは表の通り。前編となる本稿では、主に参加者の個人的な経験に焦点を当て、エジプトにおける「オタク」の実態を浮き彫りにする。
名前 | 年齢 | フォロワー数 | ||
---|---|---|---|---|
TikTok | ||||
Zeyad Emad | 24 | 300万人 | 60万6,000人 | 60万人 |
Mahitab Ibrahim | 24 | 20万3,000人 | 1万6,000人 | 13万9,000人 |
Ahmed Zekri | 27 | 7万9,400人 | 1万3,000人 | 8,000人 |
注:いずれも2025年6月23日時点。
出所:参加者へのヒアリングを基にジェトロ作成
ジヤード氏は、2022年からSNS上での活動を開始し、現在はコンテンツ・クリエーターとして生計を立てている。湾岸諸国をはじめ、エジプト国外でもコスプレイヤーとして活躍する。マヒターブ氏は、民間企業でSNSマーケティングを担当する傍ら、インフルエンサーとしてアニメ、ゲーム、コスプレ、日本語など日本文化を発信している。アフマド氏は歯科医師で、「Smile Sensei(スマイル先生)」というクリニックを経営している。2014年からコスプレをはじめ、2020年からコスプレイヤーとしてSNSでの発信を開始した。

(本人提供)

(本人提供)

(本人提供)
テレビきっかけ、ストーリーや声優、根底の価値観が魅力
- 質問:
- 日本のアニメを好きになったきっかけは。
- 答え:
- (マヒターブ氏)スペーストゥーン〔アラブ首長国連邦(UAE)ドバイに本社を構えるアラブ向けアニメ専門チャンネル〕でアラビア語版のアニメを見たのがきっかけ。初めて見た作品は『名探偵コナン』だ。日本語のオリジナルを見たいと思って日本語の勉強を始めたが、言語をきっかけに他の日本文化にも関心を持つようになった。大学卒業後はボイス・アクティングに関心を持ち、アニメ声優のまねもするようになった。
- (アフマド氏)6~7歳の時に見たスペーストゥーンがきっかけで、小さいころは1日2~3時間アニメを見ていた。大人になってからはストリーミングサービスも利用している。アニメにはまるきっかけとなった作品は『遊☆戯☆王』で、古代エジプトの歴史や文化と日本のアニメの融合がクールだと感じた。その後配信で見た『BLEACH』などにはまり、「アニメ愛好家(Anime Aikouka)」という名の、当時エジプトで流行していたSNS上のアニメファンコミュニティに参加した。2013年に国際交流基金がカイロで開催したアニメなど日本のポップカルチャーに関するイベントや、2014年に始まったエジプト発のアニメファン向けイベント「エジコン(EGYCON)」などリアルのイベントにも参加するようになった。
- (ジヤード氏)同じくスペーストゥーンがきっかけだ。初めて見た作品は『ドラゴンボール』で、ストーリーの複雑さが決め手になった。また、鍛錬、努力や好き嫌いしないことの大切さなど、「良い価値観」を伝えていることも魅力だ。ただ、16歳になるまではどの国の作品か知らなかった。
- 質問:
- 日本のアニメの魅力は。
- 答え:
- (マヒターブ氏)ストーリー、日本語、ボイス・アクティングが魅力だ。特にアニメ声優の演技は素晴らしく、キャラクターの心情の内面を明確に表現している。感情の表現は実際の人間よりもアニメの方が豊かだと感じることもある。私は日本語を勉強しており、言語自体も魅力的だ。テーマソング、BGMなどアニメ音楽も好きだ。
- (アフマド氏)ストーリーに関しては、正義の力や友情などを取り上げたものが多く、共感が持てる。バトルやアクションシーンが好きで、効果音や背景なども魅力的なので、基本的にはマンガではなくアニメを見る。ただし、お気に入りの作品については、早く続きが知りたくて原作マンガを先に読むこともある。
- 質問:
- 一番好きなアニメ作品は。
- 答え:
- (マヒターブ氏)なんといっても『HUNTER×HUNTER』だ。子供のころから好きで、今も連載の再開を待ち望んでいる。『進撃の巨人』もお気に入り。
- (アフマド氏)一番を選ぶのは難しいが、しいて言えばアニメが好きになるきっかけとなった『遊☆戯☆王』のほか、『BLEACH』、『呪術廻戦』、『鬼滅の刃』だ。『進撃の巨人』はエジプトで大変有名で、「オタク」ではないエジプト人も名前を知っている。
- (ジヤード氏)個人的なお気に入りは『NARUTO-ナルト-』で、友情の物語であることが理由だ。オリジナル・サウンドトラックも持っている。エジプトのアニメファンの中では『呪術廻戦』が一番人気だと思う。
エジプトの「オタク」の実態
- 質問:
- 普段どれくらいの時間アニメを見るか。
- 答え:
- (マヒターブ氏)仕事が忙しい時は週に1~3話しか見られないが、時間があれば1日に1つの作品を全話見てしまうこともある。
- (アフマド氏)仕事をしているので、自由な時間がどれだけあるかによる。休日があれば丸1日でもアニメを見ている。
- (ジヤード氏)コスプレイヤーとして、ネタ探しやキャラクターの動きの研究のため、1日1~2時間はアニメを見るようにしている。
- 質問:
- アニメに関する情報はどうやって入手しているか。
- 答え:
- (マヒターブ氏)SNSやネット検索、アニメに関する記事がメイン。最近はChat GPTなどAI(人工知能)に聞くこともある。また、TikTokやInstagramの質問機能(注)を使って、自分のフォロワーからお勧めしてもらうこともある。
- (アフマド氏)「MyAnimelist」というオンラインコミュニティがあり、世界各国のユーザーのおすすめ作品やレビューを見ることができる。友人からの口コミも大事な要素だ。
- 質問:
- 自分が「オタク」であることをどう考えているか。
- 答え:
- (マヒターブ氏)日本語を勉強していて、「オタク」という言葉に若干ネガティブなニュアンスがあることを知って驚いた。エジプトでも「オタク」という言葉は使われているが、「アニメファン」を意味する中立的な言葉でネガティブな印象はない。
- (アフマド氏)「オタク」はひとつのライフスタイルだ。
- 質問:
- もし日本に行けたら何をしたいか。
- 答え:
- (マヒターブ氏)以前日本に行ったことがあるが、日本について読んで知っていたことと実際の経験とは大きな違いがあった。都市は良く整備されていて、空気がきれいで新鮮なことにも驚いた。その時は東京にしか行かなかったので、他の地域を訪れて文化の違いを感じたい。もちろんコンテンツ・クリエーターとして、日本での撮影の時間を長くとりたい。
- (アフマド氏)日本に行ったことはないが、日本に行くときは、ワールド・コスプレ・ショー(WCS)のエジプト代表として訪日したい。日本に行ったら、エジプトと日本の違いについてSNSで発信したい。また、コスプレをして渋谷や秋葉原で、アニメに出てくるシーンと同じ場所、同じポーズで写真撮影したい。
- (ジヤード氏)まずは日本のアニメショップをめぐりたい。渋谷や大阪にも行きたいし、『名探偵コナン』のシーンにあった新幹線から富士山を見る体験をしたい。
アニメ以外では観光、日本食に関心
- 質問:
- アニメやポップカルチャー以外で、日本について関心を持っていることはあるか。
- 答え:
- (マヒターブ氏)日本語が最大の関心だが、文化そのもの、人々のメンタリティや振る舞いにも関心を持っている。初めて日本に行ったとき、日本人は謙虚だと感じた。東京は大都市なので道行く人々はみな急いでいるように見えたが、それでも皆親切だった。また日本人はとても時間に正確だ。
- (アフマド氏)渋谷や富士山など、アニメに出てくる場所を実際に観光してみたい。日本食にも関心がある。
- (ジヤード氏)アニメ以外では日本食に関心がある。アラブ首長国連邦(UAE)で日本食、確か焼きそばを食べたことがあるが、日本で本物を食べてみたい。
- 質問:
- 「日本のビジネスシーン」についてどんなイメージを持っているか。
- 答え:
- (マヒターブ氏)「乾杯」の文化を知っている。また、自分の仕事が終わっても上司や周りの人が席を立つまで帰宅できないイメージ。名刺の渡し方にもルールがあると聞いたときは驚いた。両手で渡さなければならないと聞いたが、とても丁寧に感じる。
- (アフマド氏)時間やスケジュールに厳格なイメージがある。
エジプトに浸透する「オタク」文化については、「エジプト「オタク」座談会(後編)浸透する「オタク」文化」を参照。
- 注1:
- TikTokやInstagramなどで、投稿者がフォロワーに質問を投げかけ、フォロワーが回答することができる機能。フォロワーの回答にリアクションすることで、交流が可能。
エジプト「オタク」座談会
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ) - 2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。