アフリカにおける日本のポップカルチャーの可能性を探る地場アニメ産業の成長には、人材育成がカギ(ガーナ)
現地発スタジオにアニメ産業の可能性を聞く
2025年7月11日
アフリカのアニメ産業は、着実に成長している。
アフリカの2D・3Dアートコミュニティー「CGアフリカ(CGAfrica)」によると、その市場規模は2022年に約123億ドル。2028年までには、132億ドルに達する予測だ。この成長の要因として、(1)アニメコンテンツの需要増加や(2)政府の支援、(3)高度人材の増加、(4)技術革新などを挙げた。
アフリカは長年、アニメコンテンツの消費者でしかなかった。しかし近年、アフリカ発のエンターテインメントコンテンツへの注目が高まっている。例えばネットフリックス(Netflix)やアマゾン・プライム・ビデオ(Amazon Prime Video)などの国際的なストリーミングサービスや地域プラットフォームが、投資に動いている。
この状況下、ジェトロは2025年4月21日、アニマックスFYBスタジオズ(AnimaxFYB Studios)の創設者、フランシス・ブラウン氏にインタビューした。同スタジオは2014年に創業。短編の制作に始まり、現在の取り扱いは幅広い。その中には、アマゾン・プライムが配信したアフリカ初の子供向け長編映画もある。
受賞歴も豊富だ。例えば、2016年アフリカ国際映画祭では「最優秀アニメーション賞」、2023年アフリカ映画アカデミーで「最優秀アニメーション賞」を獲得した。さらに2023年アビジャン・アニメーション映画祭では、最優秀アフリカ映画の殿堂入りを果たした。

- 質問:
- アニマックスFYBスタジオズの概要は。
- 答え:
- 当社は、アニメスタジオだ。アフリカの民話、文化、そして現代の物語を織り交ぜた2D・3Dアニメに特化している。本格的なアフリカアニメコンテンツの制作スタジオとして設立した。長編映画やシリーズ作品の制作、視覚効果、音響・音楽制作、人材への教育・トレーニングなど、幅広いサービスを提供している。21人のアニメーター、ライター、制作スタッフからなるチームは、「Mmofra」「Jabari」「Agorkoli」といった10以上の作品を制作してきた。
- 当社のコンテンツは、アマゾン・プライム・ビデオ、YouTube、そしてさまざまなソーシャルメディアのプラットフォームを通じて、視聴者に届く。スタジオ運営やコンテンツ制作にかかる費用は、主に企業や組織からの広告などから得る収益で賄っている。これまでコカ・コーラ、サムスン、ガーナ政府、ドイツ国際協力公社(GIZ)など、多くの企業・団体と協力してきた。

- 質問:
- アニマックスFYBスタジオズは目下、どのような使命をもって運営に臨んでいるか。
- 答え:
- アニメ産業の収益で、アフリカは世界全体の5%未満に過ぎない。このような状況を打開し、ガーナをアフリカ大陸でのアニメ中心地にしていきたい。
- 質問:
- ガーナのアニメ産業の現状は。
- 答え:
- ガーナの物語、伝統、価値観を忠実に描いたアニメへの需要が高まっている。アフリカの豊かな文化遺産と多様な物語や伝統が、アニメが人気メディアとして成長する上で、強力な基盤になっている。
- 若年層の増加に加え、デジタルプラットフォームの発展や、インターネットの普及など技術の進歩も、ガーナでの需要と業界の発展を後押ししている。例えばYouTubeは、そのアクセスしやすさから、多くのアフリカのスタジオにとって依然として重要かつ人気の高い配信チャンネルだ。
- 質問:
- ガーナのアニメ業界はどのような課題に直面しているか。
- 答え:
- グローバルなパートナーシップ、ライセンス契約、主要市場での露出不足により、国際的な視聴者へのリーチに苦労している。
- 国内配給の障壁も依然として高い。例えば、ガーナの放送局はドラマのような実写コンテンツを好む傾向がある。
- また、アニメーターの人材を育成する上でも、正式なアニメ制作研修プログラムが不足している。このことが業界の規模拡大を阻み、独学やオンラインリソースへの依存につながっている。
- 一方で、当社には、20人以上の学生を一度にトレーニングできる最新鋭の研修施設がある。そこで提供する「Kolikoトレーニングプログラム」によって、このギャップを埋めている。ただ、資金と配給へのアクセスは依然として課題だ。アニメーターは、共同制作の機会が少なく、長編プロジェクトをサポートするための環境・インフラもほとんどない、ばらばらに断片化されたエコシステムの中で活動していることが多い。
- 質問:
- アニマックスFYBスタジオズの成長戦略は何か。
- 答え:
- 今後、私たちは自社制作のコンテンツを世界規模で展開し、国際マーケット、世界中の視聴者を獲得していきたい。そうすることで、アフリカを代表するアニメスタジオとしての地位を確立することを目指している。
- 制作に携わる地元のアニメーター人材を育成するため、研修プログラムやワークショップに投資している。また、政治家、政策立案者と連携し、アニメーション業界のエコシステム形成を支援していきたい。そうした枠組みの構築にも取り組んでいる。
- さらに、当社は、長編映画やインタラクティブメディアといった新しいジャンルやフォーマットを模索中だ。より多様で革新的なコンテンツを制作し、ポートフォリオを拡大することを目指している。
- 加えて、主要なアニメスタジオや業界団体との国際的なパートナーシップを構築する。作品の質を高め、より多くの視聴者に届けるのが、その狙い。また、最先端のアニメ技術とソフトウェアへの投資により技術革新の最前線に立ち、作品の質と制作の効率性を向上していく。
- 質問:
- アニマックスFYBスタジオズと日本企業には、どのような協業機会があるか。
- 答え:
- 日本の豊かなアニメの伝統は、重要なパートナーシップの可能性を秘めている。共同制作のための合弁事業は、アフリカと日本の物語やアニメ技術を融合することにつながる。その結果、世界中の視聴者に向けて、ユニークで刺激的な異文化コンテンツを創出できるようになるだろう。
- また、日本のアニメ制作技術、専門知識を提供してもらうことにも期待している。アフリカのアニメスタジオ運営やアニメ制作の質を向上させる機会になり得るからだ。協業は、日本のスタジオのアフリカ市場への参入を促進する可能性があり、逆もまた同様だ。アフリカのアニメ業界に関する情報は非常に限定的である。その問題を解決する上では、日本企業が市場に参入して適応するためのソリューションを提供することが必要だ。そのため、それらを提供できるアフリカのアニメスタジオとの協力が重要と考える。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・アクラ事務所長
中川 翼(なかがわ つばさ) - 2016年、ジェトロ入構。農林水産・食品部、ジェトロ青森、ジェトロ・ナイロビ事務所を経て2024年9月から現職。