社長が動く
トヨタ工機に聞く、中小企業のインド進出(1)

2026年1月27日

インドに進出する日系企業数は2024年10月時点で1,434社、そのうち中小企業の割合は15%程度といわれている。国際協力銀行(JBIC)が2025年12月に発表した調査では、日本の製造業の中期的な有望事業展開先としてインドは4年連続首位となるなど、インドビジネスへの関心は高まっており、今後ますます中堅・中小企業の進出が期待される。プレキャストコンクリート(注)製品用型枠(金型)の設計・製造などを手掛けるトヨタ工機(東京都府中市)は2013年に、初めての海外拠点としてインドに進出し、好調な事業が続く。同社の豊田実代表取締役にインドビジネスの注意点、中小企業のインド進出のポイントなどについて聞いた。前編では、インド進出の経緯、現在の事業状況などを聞いた(インタビュー日:2025年12月23日)。

トヨタ工機は1966年創業。道路、擁壁、河川、鉄道、護岸、下水道、建築部材などのインフラに利用されるプレキャストコンクリート製品をつくるための型枠や、それらを効率よく生産するための製造設備を手掛けている。例えば、川に並べて水流から地盤を守る河川護岸ブロックや地下鉄のトンネル、橋脚の一部などに同社の型枠や技術が使われている。国内には佐賀県と福島県に工場を有し、従業員数は100人超だ。


トヨタ工機の豊田実社長(同社提供)

インドからニュージーランドに納入したアーチカルバートの型枠(同社提供)

同型枠で施工されたコンクリート製品(同社提供)

トヨタ工機の海外事業は、1991年の米国向け輸出から始まった。その後カナダや中国などにも輸出するようになり、2010年頃には中国向けが大きな割合を占めるようになった。海外市場の拡大、輸出時の為替や物流費を考え、海外での製造拠点設立を検討していた。当時は中国向けビジネスが多かったものの、中国での模倣品の懸念などから、中国以外の国への拠点設置を考えていた。2010年頃にベトナム視察から始めたが、ベトナムは当時現地に高炉がなく鉄板を持ち込む必要があるなどの課題から断念。その頃ドイツ・ミュンヘンで開催された世界最大級の建設機械見本市「BAUMA」にジェトロの支援も受け出展、2011年2月にインド西部マハーラーシュトラ州ムンバイで開催された「BAUMAインディア」に初出展したところ、現地企業から多数の声がかかり、インド市場に大きな可能性を実感、インド進出を検討するようになったという。その後、調査を続けるうちに、インドの市場の大きさと将来性、英語が公用語であることなどがポイントとなり、インド進出への思いを強めていった。豊田社長は、「初めてムンバイに降り立った際、飛行機から見たスラム街にショックを受けた。この国の発展のために貢献したいという気持ちが生まれた」と語る。

顧客の紹介やジェトロミッションへの参加などを通してインド各地を視察し、現在インドの首相を務めるナレンドラ・モディ氏が当時州首相だった西部グジャラート(GJ)州が最も有望との結論に至った。2013年2月に参加したムンバイでの展示会で、ジェトロがアレンジした通訳からの紹介をきっかけに、同社のインド進出のキーパーソンとなる現インド法人役員のラジクマー・オスワル氏と出会った。豊田社長の「インドで事業をするなら、インドの発展に貢献したい」という理念にオスワル氏が共感し両者は意気投合、豊田社長は出会ったその場で現地アドバイザーとしての協力をオスワル氏に依頼した。そこから会社設立手続きを進め、2013年4月、GJ州最大都市アーメダバードでトヨタ・フォームズ・インディア(以下、TFI)を登記した。2014年5月に10エーカー(4万平方メートル)の土地を購入し、2015年3月に工場建設を開始、2016年1月に当初計画より約2カ月遅れで工場が完成し、4月に生産を開始した。

輸出拡大、工場を拡張

TFIは現在従業員数約70人で、進出当初インド国内に売り先は1社のみだったが、徐々に国内販路を広げている。また、日本から営業した売り先も含め、現在はインド国内のほか、アジア、欧州、北米など18カ国に輸出もしており、売上高のうち輸出が国内販売より大きくなる年もあるなど、事業は拡大している。これを背景に2023年には組み立て工場を拡張した。立ち上げ以来日本から技術者が数人常駐していたが、現地人材が技術力をつけている。この先数年で日本人無しでもインド国内はもちろん、世界に輸出できる品質のものづくりができる状況を見込む。


トヨタ・フォームズ・インディアの外観(同社提供)

立ち上げからこれまでのインド事業で直面した課題や苦労について聞くと、工場設立時の建設業者の選定・管理が挙げられた。インドにも設計コンサルティング会社はあるが、日本に比べレベルにばらつきがある。また、実際の工事は土木、電気など地場業者に分離発注されていて工程管理が難しい。進出している日系ゼネコンに施工管理を含め一括で依頼することも可能だったが、同社は工場の設計施工へのこだわりと費用を抑える観点から、地元建設会社に建設を発注した。各業者のミスが多かったり、スケジュールが遅れたりといった苦労が大きかったという。

スピード感を持って行動を

インドビジネスは見通しが難しい場合が多く、リスク管理を重視し、投資をどれだけ回収するかに気をまわしてしまうケースが多いとも聞く。しかしそうした考え方では、インドでビジネスを継続させるのは難しいだろうと豊田社長はいう。インドでの事業について、「私が大事にしているのは、自社の利益のみを追求するのではなく、インドに進出する以上、この国の成長や発展に貢献したいという思いだ。この信念がインドで関係する人々に伝わり、信頼できる人間関係やビジネスが構築できていると考える」と語る。また、中小企業のインド事業でのポイントを聞くと、「社長が現地に赴き、さまざまな人に会い、自身の感覚でスピード感をもって決断することが重要だ」と語った。

インドビジネスは黒字化まで時間がかかるともいわれているところ、同社の進出してからの経営状況を聞くと、「初年度から黒字」との回答だった。インドは日本より金利が高いため、当初からまとまった運転資金をインド側に置くことで預金利息も事業を支えたという。また、インドへの送金についても、社長自らさまざまな手段を調べ比較検討し、国営インドステイト銀行の東京支店からの送金を利用することで、手数料を安価に抑えることができたという。

豊田社長のメッセージからは、社長自身がさまざまな場所へ赴き、人に会って話を聞き、行動することの大切さが読み取れる。また、ジェトロをはじめとする公的機関の事業やサービスを積極的に活用する姿勢が目立った。現在ジェトロでは「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」事業を実施している。海外輸出、進出に関する無料の相談対応はもちろん、中堅・中小企業を対象に、ビジネス展開への関心が高い国・地域で現地在住のコーディネーターに相談などができるプログラムだ。ジェトロが発信するさまざまな海外ビジネス情報をいち早く、幅広く入手でき、有料サービスを割引価格で利用できる「ジェトロ・メンバーズ」サービスも実施している。

後編では、人材育成や労務管理、地場パートナーなどについて聞くとともに、同社が出資するインドの別会社事業についても紹介する。


注1:
建設現場でコンクリートを流し込むのではなく、工場であらかじめ製造されたコンクリート部材。現場での手間を省くとともに、工期短縮や高品質が実現できる。本文に戻る

トヨタ工機に聞く、中小企業のインド進出

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(2)パートナーとともに

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。