パートナーとともに
トヨタ工機に聞く、中小企業のインド進出(2)

2026年1月27日

インド西部グジャラート(GJ)州に進出するプレキャストコンクリート(注)製品用型枠の設計・製造などを手掛けるトヨタ工機の代表取締役である豊田実氏に、インドビジネスの注意点、中小企業のインド進出のポイントなどについて聞くインタビューの後編。人材育成やパートナー探しなどについて聞くとともに、同社がインドで出資する別会社の事例から、インド進出の方法について検討する(インタビュー日:2025年12月23日)。

会社は家族

インドビジネスの人材採用や教育、労務管理について聞いたところ、現地法人トヨタ・フォームズ・インディア(以下、TFI)では、清掃などの一部業務を除き、従業員を全て正社員にしているという。また、「会社は家族」と捉え、従業員のみならず、その家族の医療保険も賄うなど、「安心できて居心地の良い会社環境」を整備しているという。従業員と社長や役員がフラットに話すことができるように、一緒に食事をとったり、旅行に出かけたりと、コミュニケーションも重視している。インドでは良い人材の獲得やつなぎ止めが課題という声が上がるが、同社では従業員の出入りはあっても、採用後にしばらく勤務を続けると定着する傾向にあるという。基礎を学び一定の仕事ができるようになった人材は、定期的に日本の工場で半年から1年研修する。海外産業人材育成協会(AOTS)の制度を利用し、日本語人材も育成している。豊田社長は、「インドの人材は若く、新しい言語を習得する能力にたけているため、日本人が英語を覚えるより、インド人に日本語を勉強してもらうほうが早い」と話す。

また従業員には、「私たちの製品(型枠)はインドを支えるインフラを整えるためのもので、私たちは国家を作る仕事をしている。安心安全で清潔な国を自分たちの手で作ろう、という意識を呼びかけている」という。こうした理念を重視することで、一度転職した従業員が戻ってきたケースもあるという。労務管理上の注意点としては、情報管理の徹底を挙げた。技術流出を防ぐため、工場内は携帯電話の持ち込みを禁止し、信頼できると判断するまでは従業員への重要情報へのアクセスは管理しているという。


トヨタ工機のインド法人、トヨタ・フォームズ・インディアの従業員集合写真
(左端は豊田社長、右端は役員のオスワル氏。同社提供)

重要なインド人パートナー

同社のインド事業があるのは、設立から豊田社長とともに動いて多くのアドバイスをしてくれた現インド法人役員のラジクマー・オスワル氏の存在がとても大きいという。頻繁に制度変更が発生する税務などの分野への対応や、経験やコネクションがモノをいう人材獲得や販路開拓、インドの社会を理解した上での労務管理など、日本人の対応には限界があり、インド人に頼ったほうが良い分野が多くある。豊田社長は「信頼できるインド人材の協力は必須」と語気を強める。一方、進出形態について聞いたところ、合弁事業については慎重で、外資規制の無い業種であれば、独資での進出を勧める立場を示した。その背景には、業種業態にもよるがパートナーの見極めの難しさや日本とインドのビジネス慣習の違いなどがあるという。良いパートナーと巡り合うためには、「とにかく外に出て、関係するさまざまな人に会うことだ。付き合ううちに、経験値が上がり、多様な情報が入ってくるようになり、その人がどういった考えを持つ人なのか見えてくる」と豊田社長は話す。

他社との協力でインド事業を展開

合弁事業に慎重ではあるものの、豊田社長はトヨタ工機のインド進出と並行して、インドでの自社の売り先ともなるプレキャストコンクリートメーカーのフジ・シルバーテック・コンクリート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (以下、FSC)の経営に参画している。事の発端は、トヨタ工機のインド進出を聞いたインドのプレキャストメーカーでもある建設会社経営者から、日本のコンクリート会社を見学したいとの要望を受けたことに遡る。2014年7月に関係者が訪日、豊田社長が自社や客先のコンクリート会社を案内した。来日したインド側経営者は、日本の技術や品質に感動し、その後トヨタ工機を含めた日本企業とプレキャストコンクリート会社を設立したいとの相談があった。豊田社長は当時、日本市場の縮小という共通の課題を背景に、客先とともにインドに進出することを模索し、懇意にしている客先のプレキャストコンクリートメーカーに声をかけ、現地視察や国際協力機構(JICA)の案件化調査を実施していた。


フジ・シルバーテック・コンクリートのグジャラート工場(同社提供)

こうした流れから豊田社長がインド側経営者と自社客先の不二コンクリート工業(佐賀県武雄市)を引き合わせ、インドに新会社を設立することを決定。2015年3月に会社を登記した。同社はTFIのあるGJ州アーメダバードに工場を設立、JIS規格品質のFSCの製品は既存のインド製品と大きく差別化され、販路を拡大した。現在では不二コンクリート工業の日本拠点をしのぐ日産1,000トン超の生産能力を有し、インド国内のトップメーカーに成長した。2026年4月には北部ウッタル・プラデシュ州ジェワルで新たな製造工場を稼働させる。FSCはTFIの主要販売先になっている。

また、この流れを受けFSCは、トヨタ工機の日本での客先の武井工業所(茨城県石岡市)、小倉セメント製品工業(福岡県北九州市)、上田商会(北海道登別市)とともに、FSCと同じくプレキャストコンクリート製品を製造するフジ・インフラストラクチャー・テクノロジーズ社(FIT)を2019年5月に設立、西部マハーラーシュトラ州チャトラパティ・サンバジナガール(旧オーランガバード)で2022年4月から製造を開始し、自社だけでなく複数社が集まった「日本連合」で、インドビジネスにあたっている。


ウッタル・プラデシュ州に建設中のFSCの工場
(同社提供)

フジ・インフラストラクチャー・テクノロジーズの
工場外観(同社提供)

トヨタ工機のインド展開は、人とのつながりや出会いを大切にし、それをスピーディーに行動につなげている点が特徴だ。信頼できる複数社でのビジネス展開は、資金や人材などの資本を増強しつつ、リスクを分け合うことができる。同社の事例は、インド進出を検討する際のヒントになりそうだ。会社の進出形態や誰と組むかの見極めには注意が必要だが、まず動いて多くの人と会い情報収集をすることが重要だ。ジェトロでは、海外企業とのアライアンスを検討する日本企業のためのビジネスプラットフォーム「J-Bridge」を設けている。


注:
建設現場でコンクリートを流し込むのではなく、工場であらかじめ製造されたコンクリート部材。現場での手間を省くとともに、工期短縮や高品質が実現できる。本文に戻る

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(1)社長が動く

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。